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いち
しおりを挟む他の子と馴染めない6歳の少年アリスタは、暇を持て余すと教会に足を運んだ。
神父になれるのは一定の神力を持つ者だけ。神力とは、町に結界を張り、魔物を寄せ付けないようにする力だ。故に教会と神父はそこにあるだけで、何もしなくても有り難い存在だと敬われ、多額の寄付が集まる。教会と神父がこの町を見放して出て行けば、翌日には廃墟と化すだろう。それほどまでに魔物は脅威なのだ。
「アリスタ。貴方にだけ真実を話しましょう」
アリスタの知る唯一の神父は良心的な善人だと大人達が言っていた。よその神父とは異なり、横暴に振る舞うこともなければ、過度な金銭は辞退する。女や子供に色慾を見出すこともなければ、無体を働くこともない。ストイックというか、むしろ潔癖で、決して白い手袋を外さない。
善人ではない、と、アリスタは思っている。優しく微笑み慎み深く振る舞う、その眼鏡の奥で神父は蔑むような眼差しをしているのに、何故誰も気づかないのか。信用ならない男だ。しかし、それでもアリスタは惹き付けられるように教会に足を運ぶのだ。
「真実?」
「ふふ、そうです。ちょうど千年程昔、勇者が魔王を倒し、人間たちは悪の支配から逃れたと言われていますね。あれは真っ赤な嘘です」
「……………」
教会が信じろと人々に説いている昔話を、よりによって神父が否定する。教会のお偉いさんが聞いたら激昂するに違いない。アリスタは胡乱な目で神父を見上げた。
神父の視線の先にはステンドグラスが輝いている。裸の赤ん坊に、白い鳥のような羽根が生えた絵柄だ。
「千年前人間が殺したのは神族です」
「しんぞく?」
創造神は複数の世界を一度に創りあげ、それぞれにご自身の劣化型複製種族───神族を配置しました。え?単語が難しい?…そうですねぇ、分身とでも言えばわかります?厳密には違うんですが。まぁ、いいです。
この世界も初めは雲と1人の神族のみでした。神族は寂しさから、己の劣化型複製である天使を創りました。次に、よその世界を覗き見して、大地を、空を、海を、自然を作り上げたのです。作り出しただけでなく、生命として循環させなくてはいけません。そのために必要な昆虫や動物を天使たちに創らせました。
世界は出来上がったけれど、天使は手足のようなものであり、意志などはなく、神族と会話など成り立ちません。神族は寂しさから、人間を創り出しました。天使に与えたような羽根や権能は一切与えない代わりに、自由な思考を与えたのです。
人間が次第に独自の文化を育むようになると神族は大変喜び、地上に降り立ち、人間との会話を楽しむようになりました。人間の心を愛し、自由を愛し、苦悩も、感動も、全てを愛したのです。
「何で人間は愛してくれた神族を殺したの?」
「───人間達は次第に神族を疎ましく思ったのですよ。文化が発展するに連れて、自分たちが世界を支配しているものと勘違いをするようになり、目の上のたんこぶが邪魔になったのです」
「何で神族は自分の生み出した存在にやられたの?」
「その頃、神族は1人の人間を、特別な存在として愛していたのです。それまでの慈しみや親愛などではなく、初めて人間から恋という感情を教えられ、唯一無二の存在として愛することを知ってしまいました。人間たちは、その唯一の存在を人質にとったのです。もっとも、人質も、神族を殺した直後に殺されましたが」
「酷でぇじゃん」
「えぇ、酷いですね。天使たちは神族の残した嘆きや悲しみによって真っ黒に染まり、散り散りになって地上に降り注ぎました。それらが憑依した動物が魔物となって人間を襲うようになったのです。魔物を生み出したのは人間であり、魔物たちは復讐のために人間を襲うのです」
「え、じゃあ、結局、神力って何?」
その問いに、神父は笑みを深めて、アリスタを見つめた。その眼差しに欲望が溶けている事に気づいたアリスタは怯えたように身体を震わせた。
「罠ですよ。人間を油断させるための、ね」
───この中なら大丈夫だと、安全だと、思い込んで貰うのです。
懐かしい夢を見たな、と。青年アリスタは意識を浮上させる。口の中が苦いのは嘔吐したせいだ。意識を失っていられたのはほんの数秒らしい。ギチギチと肛門から胎内に埋め込まれた凶器が、腹筋をボコボコと持ち上げながらアリスタの最奥をトントンと突っついている。
「ああ、良かった。誤嚥などはしていないようですね」
四つん這いになるよう強制されているアリスタの両腕は背後へと引っ張られ、己の力で上半身を支えることすら許されていない。アリスタの身体を蹂躙する存在の腕に全ては委ねられていた。
アリスタは健全な男子として育ったし、まさか自分が犯される日が来るなど思ってもいなかった。神父の結界内なのに、目の前で無数の光の矢が降り注ぎ、年齢性別関係なく皆殺しにしていく中、アリスタだけが助かった。助かってしまった。血の海の中で絶望しているところに、幼い頃と見た目の変わらない神父が笑顔で手を差し伸べてきたのだ。恐怖しない方がおかしい。アリスタは逃げ出した。逃げ出したが、神父の服の下から這い出した真っ赤な蔓に四肢を拘束された。
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