1 / 4
いち
しおりを挟む「戦う準備も覚悟も、私はいつでも出来ています」
迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
「……はい」
口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
迷いなくミアがそう言うと、魔王は小さくため息をつく。
「どうしてそう好戦的なのか。魔族には好戦的な者が多いが、私が王である間は私の治世に従ってもらう。これからは融和の時代だ」
「融和、とは」
「戦争をしても無駄に血を流すだけで、損ばかりで何の益もない。そういったことはやめ、魔界と人間界の友好を保ちたいのだ。
最終的には自由に行き来が出来るようにし、交易を行い、互いの益になるような関係にまで持っていきたい」
先代の魔王が好戦的だったのに対し、現魔王は平和主義者だ。平和主義者というよりも、合理主義者というべきか。
魔族は好戦的な者ばかりだと思われがちだが、わずかながらに現魔王のように人間との友好を望む者も存在する。
「ですがお父様、それは難しいのではないでしょうか。恐れながら申し上げますが、お父様のお考えに賛同する者は少ないでしょう」
魔王の考えにも一理あるが、ミアの言うことももっともだ。いくら魔界では魔王の発言が絶対とはいえ、一般市民は元より魔王の側近や幹部も人間を憎んでいる者が圧倒的多数派である以上、人間との友好を実現するのは容易いことではない。
「そこで、人間界を統べる王と協議した結果、お前と勇者が婚姻を結ぶということになったのだ。王族たる我々が率先して人間と交流し、手本となる。しからば双方のわだかまりもとけ、いずれは民の間でも交流が進んでいくだろう」
「ですが!」
理想を述べる父にミアは頭に血が上ってしまい、とっさに右腕を勢いよく横に振ってしまった。
(この私が人間風情の妻となる、だと?)
ミアは魔族よりも人間の方が劣っていると思い込んでいる。そんな人間との結婚は、ミアにとって絶対に避けたいこと。
しかし、ミアとて同類が無駄に血を流すことは本意ではない。何といって父に反論していいのか分からず、所在なく上げた手を下ろす。
「何も私と勇者様が婚姻を結ばなくとも、お兄様もいらっしゃるではありませんか。お兄様も人間などを妻とする気は毛頭ないでしょうが……」
どうにか反論する材料を探していたミアだが、小声で兄の存在を告げることで精一杯だった。魔王の子はミアだけではなく、ミアの二つ年上の兄もいる。
「無論、お前の兄にも人間の姫と結婚してもらう。妻となる人間は、見目麗しく気立ても良い娘だと告げたら、あれは喜んで承諾したぞ」
(あんの、クソバカエロ兄貴!)
兄と二人でどうにか父を説得できないかとミアは考えていたのだが、頼みの綱の兄が結婚に乗り気とあらばどうしようもない。ここにはいない兄に、心の中でこっそりと悪態をつくほかなかった。
「あれには人間の姫と結婚してもらい、姫は魔界で暮らすこととなった。それでは公平ではない故に妹のお前は勇者と結婚し、人間界で暮らしてもらう。
なに、心配するな。勇者は姫と同様美青年で、年もお前と同じで似合いだ。きっとお前も、彼を気に入るだろう」
(年も同じで美青年? そういう問題ではない! 私が人間界で暮らすだと? ああ……っ、考えただけでゾッとする……!)
勇者の妻となるだけでなく、婚姻後は人間界で暮らすということを聞かされ、ミアは唇を噛みしめる。
「すでに心に決めた者がいるのであれば別だが、そういったわけでもなかろう?」
「それは……」
心に決めた者がいるのかと問われ、ミアは口ごもる。
ミアも年頃の娘。異性には興味があるが、ミアの好みは自分よりも強い男だ。
魔王の娘であるミアより強い男もそうそうおらず、いたとしてもミアよりもずっと年上の男しかいない。あいにくミアは年の離れた男は守備範囲外であったため、十八年間生きてきて一度も恋をしたことがなかった。
「やはり心に決めた者はいないのだな。
では、問題ないな。魔界と人間界の友好のため、勇者と結婚してくれるだろう、私の愛しい娘ミアよ」
うつむいているミアを見た魔王は、ミアに好いた者がいないと判断したらしく、勇者との結婚を勧めてくる。
「……はい」
口調こそ穏やかではあったが、無言の圧をかけてくる父に逆らえず、結局ミアは不本意ながらも頷いてしまった。
かくして、人間嫌いでプライドの高い魔族の姫ミアと、人間界を統べる王の息子でもある勇者との結婚が決まったというわけである。
45
お気に入りに追加
113
あなたにおすすめの小説


愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

俺がイケメン皇子に溺愛されるまでの物語 ~ただし勘違い中~
空兎
BL
大国の第一皇子と結婚する予定だった姉ちゃんが失踪したせいで俺が身代わりに嫁ぐ羽目になった。ええええっ、俺自国でハーレム作るつもりだったのに何でこんな目に!?しかもなんかよくわからんが皇子にめっちゃ嫌われているんですけど!?このままだと自国の存続が危なそうなので仕方なしにチートスキル使いながらラザール帝国で自分の有用性アピールして人間関係を築いているんだけどその度に皇子が不機嫌になります。なにこれめんどい。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加

ある国の皇太子と侯爵家令息の秘め事
きよひ
BL
皇太子×侯爵家令息。
幼い頃、仲良く遊び友情を確かめ合った二人。
成長して貴族の子女が通う学園で再会し、体の関係を持つようになった。
そんな二人のある日の秘め事。
前後編、4000字ほどで完結。
Rシーンは後編。


BL「いっぱい抱かれたい青年が抱かれる方法を考えたら」(ツイノベBL風味)
浅葱
BL
男という性しか存在しない世界「ナンシージエ」
青年は感じやすい身体を持て余していた。でも最初に付き合ったカレシも、その後にできたカレシも、一度は抱いてくれるもののその後はあまり抱いてくれなかった。
もうこうなったら”天使”になって、絶対に抱かれないといけない身体になった方がいいかも?
と思ってしまい……
元カレ四人×青年。
天使になってしまった青年を元カレたちは受け入れるのか?
らぶらぶハッピーエンドです。
「抱かれたい青年は抱いてもらう方法を考えた」の別バージョンです。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる