生贄王は神様の腕の中

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不貞の子は隣国王の腕の中

余談2

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「いけません、だめ、だめです」

 寝台の上は駄目だと必死に訴え、逃げようとする。降ってくる口付けに、全身がびくんびくんと跳ねて紅潮して。いつになく熱くなった身体は最早サーサの支配下にない。思考も感情も置き去りに、初めて叩き込まれた快楽に足掻く。いつもと同じ男根を招き入れているはずなのに、いつにない高みに泣き喚き、悲鳴を上げて。

「───あい、なんて、いらない!!」

 そう叫びながら、内側にガルイス国王の熱が放たれる刺激につられて吐精し、サーサの意識は途絶えた。

 サーサの放つ精を初めて見たガルイス国王は、白いそれを手で拭い、ふむ、と考える。他人の精など考えただけで嫌な気分になるが、サーサのものに関しては特に嫌悪感はない。今まで頑なに認めなかった自身の気持ちを受け入れただけでこうも違うのかと、不思議な充足感を覚える。



 アジェル王に似れば良いと思った。理由をつけて傍に置き、大きくなったら逃がすことで、アジェル王の家族を殺した贖罪になればと思っていたのだ。

 それなのに、アジェル王の妻が産んだ子は少しもアジェル王に似ていない。似ていない子は常に表情のない目をして、ガルイス国王を見上げる。どんな無体も暴力も、肯定も否定もせず、サーサはただ黙って受け入れるのだ。それを最初こそ救いのように思ったけれど、サーサが成長するに連れて虚しくなった。

 かの人の面影を欠片も映さないことが忌々しいと思ったのも最初だけ。今は安堵している。この心が今は亡き隣国の王への想いとは別に芽生えた、サーサ個人へのものだと確信できたから。

「お前は、お前だけは逃がしてやらない」

 白濁に塗れ、四肢を投げ出し、余韻でびくっと時折下腹部を痙攣させるサーサ。ガルイス国王はそんなサーサの涙を舐めとる。

 理由が何であれ、サーサが初めて見せた抵抗だ。ガルイス国王は思い出し、笑みを零す。





 目覚めたサーサは、神殿の自室でも、ガルイス国王の寝室でもない場所にいた。自分の立場を思えば、誘拐されたか、あるいはここが死後の世界なのかと訝る。

 国王陛下の寝室並みに上等な寝台に、上質さを主張する滑らかな絹の着物。色硝子のパーツを組み合わせたシェード内で蝋燭の炎が揺らめいている。お香でも炊かれているのか、微かに花の香りがした。

「ここは俺の自室だ」

 音もなく垂れ幕を捲り上げて入ってきたガルイス国王を、サーサは恐る恐る振り返った。

 国王の寝所、寝室は、閨とも呼ばれる。あくまで子孫を得る為に国王が妃嬪と睦み合う為に用意された場所。生命を得るという神聖な営みの為に、神官が子孫繁栄の祈祷を毎日欠かさない。そこで子を孕めないサーサを犯すなど、神官たちが知れば猛抗議をするだろう。国王を誑かした悪しき者としてサーサが処罰されてもおかしくない。

 一方で国王の自室は、妃嬪であっても立ち入れない国王の私的な空間である。当然側近の立ち入りも限定される。国王が心身を休める場所であり、仮眠用の寝台がある。サーサがいるのは、その仮眠用の寝台らしい。確かに寝室の寝台よりも幅が狭い。

「入ったら極刑に処される場所じゃないですか」

 そんなところで寝ていたのかと自覚して目眩を覚えた。

「俺が連れ込んだのに誰が極刑に処せるんだ」

 寝台の端に腰掛けた国王から果実水を渡され、サーサは躊躇わず飲み干す。実際喉が渇いていた。あと、結構動揺していた。

「今日からお前はここで俺と暮らすんだ」

 遅かれ早かれ、サーサが神聖な閨を汚したことは神殿側に伝わるだろう。伝われば、サーサは国王の意向に関係なく神殿の判断で殺される。それは想像に容易い。国王の自室なら確かに神殿も手出しは出来ない。出来ないけれど、だからと言って自室に連れ込むなど果たして許されるのか。

「へ、へいか…、んんっ」

 戸惑うサーサの口を、ガルイス国王の口が塞ぐ。性欲処理に接吻など必要無い。だから今までした事がなかった。突き放そうとした手を捕まれ、口腔内を貪られる。くちゅくちゅと混ざる唾液の音に耳が擽ったくて、うなじがゾクゾクして、油断すると甘えたような声が漏れてしまう。

「お前だけは渡さない」

「ならば、何故神聖な場所でお戯れになったのですか」

 神殿に渡さないという意味だと解釈したサーサは呆れを隠さない。

「俺のものだと見せつける為だ」

「…誰に見せつけるんです?」

 昨夜は見学者などいなかったはずだ。サーサに恋慕の情を抱いたとガルイス国王が判断した人間は、強制的にガルイス国王に犯されるサーサを見せつけられるはめになる。悪趣味だといつも思うが、彼なりの牽制なのだと知っているし、何より拒む権利などサーサにはない。

「神に、だ」

「───神はこのような矮小な存在など気にも止めていないかと」

 何言ってんだ、この人。そんな本音を飲み込む。ガルイス国王は至って本気の眼差しで、馬鹿な冗談などではないのだと知れた。サーサ自身は神など信じていない。神を信じる者達の狂気じみた心情は日々神殿で感じていたし、命が惜しければ否定してはいけないのだと知っているだけ。

「それくらい不安で堪らない」

 どうせ拒否権などないし、死ぬまで神殿に幽閉されるか、死ぬまでガルイス国王に囲われるかの違いでしかない。しかも最後には国王と共に死ぬ定めだ。

「サーサは陛下のものです」

 今ここで自由になれと言われても、外の世界を知らずに育ったサーサは野垂れ死にするだろう。いや、案外どうにかなるかもしれないが、きっとこの男の温もりを思い出して泣く。

「お前がアジェル王に似なくて本当に良かった」



[完]
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