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「お前の元婚約者、いかがわしい行為をしているところを警備員に見つかって退学だってな」

「何故よりによってその話題なんですか」

 退学になったのは元婚約者のマーチンと、イノシシヒロインだ。社交界には二度と出られないだろう。それ以前に、成人を迎えて準貴族から平民に降格した途端、父の放った刺客に殺されるかもしれないが。準貴族だったイノシシヒロインの母親は一足先に家を追い出され、父親も爵位を従兄弟に譲ったらしい。家の恥でしかない、学園の退学者を生み出した責任を問われたのだろう。

「未練とか、」

「あるわけないでしょ」

 何を馬鹿な!

「───そういうカイルこそ、後悔してませんか」

 他にお慕いしていた方がいたのでは?

 彼のような素敵な方なら引く手あまたのはず。

 本当に年下の小娘でいいのか?

 私もヒロインとは別の方向に猪突猛進イノシシだったわ、と、冷静になって思ったのだ。

「───事務員として働いていると、よく見下される。年下の生徒からも、保護者からも。それなのに、社交の場では掌を返されるわけだ」

「そう…」

 好きだと言われても、それは家格を踏まえての話。あくまで公爵令息としての自分しか見ていない。

 孤独感。不信感。

 それを口にするカイルは笑っている。

「単なる事務員の俺に結婚してくれなんて言う女はお前くらいなもんだよ、ミルレリア」

 ───ああ、彼が好きだ。胸が締め付けられる。顔が火照るのを抑えられない。

 それはそれとして。

「当然でしょう、私以外にいたら殺します」

「お前が言うとシャレにならん」

 指輪に毒針が仕込んであることを彼にうっかり話したら、遠い目をされ、腐ってもオーディス家の娘なんだなと呟かれたことがある。スカートの下には短剣もあるし、靴底には金属片もあるのだが、言わない方が良いだろう。

「元婚約者が他の女といても別に何とも思わなかったけれど、貴方が浮気したら私、何をしでかすかわかりません。気をつけてくださいね」

 カイルを殺して剥製にするかもしれない。自分は今世に染まっていないと思っていたのに、カイルが絡むとヤンデレが発動する模様。

 小説のミルレリアも別にマーチン婚約者を愛してはいなかったと思う。愛していたらヒロインを暗殺していただろうし。ただ、公爵令嬢としてのプライドから警告としてイジメを始めたのかもしれない。どのみち小説にはなかった早期の婚約破棄に、二大公爵家の縁組と、展開は大きく変わってしまった。そもそも小説の内容を覚えていないので、これ以上は考えるだけ無駄だろう。

 さようなら、元妹よ。

「連中の不純性交友の真っ只中に警備員を向かわせたのはカイルなんでしょう?」

「まぁな。仮にも婚約者が倒れたのに放置するようなクズ野郎、神聖な学び舎には要らないだろ」

 王はあのお荷物をオーディス家に押し付けることで、オーディス家の権力を削ぐための隙を作らせようとしていたらしい。父も一応貴族だから王命を受け入れた。それだけの縁談だった。今後も王の思惑には注意が必要かもしれない。それだけわかれば今はいい。

「よし。絶対カイルを幸せにしてみせるわ!」

「そこはせめて、2人で幸せになろうって言え」



[完]
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