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しおりを挟む「異母妹と婚姻など、例え演技でも私には生理的に無理だ。というか、あの女は私を襲う気満々なんだぞ?既成事実を作ろうと必死だが、無理なものは無理だ」
それは重々承知しているとばかりに国王陛下が無断で頷く。国王陛下は急激に老け込んだように見えた。
「で。先程対策を話し合っているところにお茶を運んできた君を見て閃いたんだ。この男にしよう!と」
「……………」
ずばり男色家なので女性に興味ありませんという力技の作戦である。強行すぎる。
事情説明は一応されているが、彼は決してアレクの承諾など求めていないのだ。これは決定事項で、最早引き返せない案件なのである。
アレクが天涯孤独な身の上なのも都合が良かったのだろう。
「というわけで、同棲しよう、アレク。あと、ダンスは私が女性パートを踊るから心配は要らない」
誰もそんな心配はしていない。
今夜はもう泊まっていけと2人まとめて城の一室に放り込まれた。
「この客室防音じゃん!すげぇ!」
ゲラゲラと笑いながらルーベンスは部屋の壁をチェックし、ベッドに腰掛ける。何故かベッドは一つしかない。遠慮するのもバカバカしいと嘆息し、アレクはソファに座る。
「ところで、フェルドア伯爵令息」
「つれないな、アレク。ルゥって呼べよ」
頭を抱えたくなると同時に国王陛下の苦悩が目に浮かぶ軽さでルーベンスはご機嫌だ。ベッドからわざわざアレクの元に足を運んだかと思えば、アレクの隣に座り直す。最早取り繕うのも馬鹿らしくなってきたアレクは敬語も何もかも投げ捨てる覚悟を決めた。
「何故俺の名前を?」
「調べたって言いたいところだが、アレクの勘は正しい。私は、君の実家を知っているし、幼少期にティーパーティーで何度かお邪魔している」
「……………」
アレクは最初から平民だったわけではない。
「同い年くらいの少年が働いているのを見かけて気になったから当時調べた。それがアレク、君だった。ご両親の死後、爵位ごと屋敷を叔父一家に乗っ取られ、正式な跡継ぎである君は表向き死んだことにされ、実際は使用人として屋敷に残っていた。そこまで辿り着いた時には既に君は屋敷を出た後だったが…、まさか再会出来るとはね。これは運命だ!って思うだろう?」
「ちょっと待て。あの当時、あの家で行われていたティーパーティーは、従弟の婚約者を決める為のもので、ご令嬢しか呼ばれていなかったはずだが?」
「女装して血の繋がらない妹の代わりに出席してた」
「……………………」
アレクは天を仰いだ。天井の白さが憎たらしい。
「真実と嘘を織り交ぜ、幼少期からの秘めた恋、という感じの美談にして噂を流そうと思うんだ」
「好きにしろよ」
今更貴族として生きるつもりはないが、アレクとしても叔父一家を許したつもりはない。正当な後継者を虐げて追い出したという噂が流れて肩身の狭い思いをしようが、真っ黒な腹を探られて痛い思いをしようが、アレクには関係ない。
「ところで君、俺に一人寝をさせるつもりなのか?」
「─────え?」
絡みつく腕。寄せられる体温。あざとく下から覗き込んでくる綺麗な顔。
「君は私の恋人だろう?」
「いや、了承した覚えはないし、演技だけなら同衾する必要はないだろ」
「フェルドア伯爵家を正当な後継者である妹に託すためにも、君は私と生涯を共にして貰う。これは決定事項だし、国王陛下も承知の上だ。同性間では婚姻できないが、世間からパートナーとして認知されることは出来る」
正当な後継者。その響きはアレクが味わった幼少期の屈辱を揺り起こす。他人が同じ屈辱を味わうのを良しとするのか、助ける方法があるのに無視できるのかと問いかけてくる。
「それは構わないが、同衾は…」
違うだろう。
「君が万が一女性と関係を持って噂にでもなったら困る。リスクを回避する為にも、人生を犠牲にする君に私はこの身を捧げたい」
綺麗な指先がアレクの手を掴み、ルーベンスの襟元に導く。脱がせろと誘導するように、顎を持ち上げてルーベンスは無防備な首筋を曝した。
「ちょっと待て」
「女のようには濡れないが、満足させてやる」
「ちょっと待て」
「私を抱いてくれ」
「待て」
「男相手じゃ勃起しないか?媚薬も用意してあるぞ。飲むか?」
「待てって言ってんだろ!」
アレクは容赦なく、手加減せずにルーベンスの頭を引っぱたいた。痛いと呟いて叩かれた頭を手で押さえ、ルーベンスはアレクを睨む。
「城は駄目だ。男に抱かれるお前を他の連中に連想させるような痕跡なんか残したくない」
「へ?」
「俺の覚悟は決まった。決まった以上、俺はお前を全力で愛してやる。だがな、俺は嫉妬深いんだ。こんなところでヤれるわけないだろ!」
どうせ逃げ道などないなら、アレクは全力で挑む。実家で使用人扱いされ始めた時だって、全力で使用人として働いた。自分ではどうにもできないことに巻き込まれる定めなら、後悔だけはしないように全力で巻き込まれてやろうと決めたのだ。
「あの…?」
「俺を巻き込んだこと、後悔させてやる」
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