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しおりを挟む聖なる光が鎮まると、中から現れたのは青年だ。やはり全裸だった。
王族という一族は、大概何かしらが優秀な人間を伴侶に迎えて血を繋ぐもの。結果として、王族は皆美形揃いというのが定説だ。
………で。目の前の犬?だった青年は、王様とは思えない程に平凡だった。日本人顔よりは欧米よりだが、それでも、これぞモブ、みたいな平凡顔。洋画の劇中に出てきても背景に同化して忘れられそうな程だ。なんなら壁に隠れている騎士達の方が美形揃いである。経験上、王族に嫌悪感がある柚花は安堵の息を吐いた。もしかしたらこの世界の美醜が現代日本とは異なるのかもしれないが。
キョトンとしている灰色の瞳は、先程まで抱っこしていた犬?そのまま。柚花より身長の高い青年の瞳を見つめていると、横から不穏な気配を感じた。
願いを叶えてあげたのに、壁に隠れていた連中が喜ぶ様子はない。驚愕しているだけ、というわけでもなさそうだ。
「だ、誰だ、貴様は!」
一人が罵倒に近い叫びを上げると、次々に声を上げ始める。犬?には近付けなくても、謎の青年なら怖くないとばかりに近付いてくる。柚花は眉を顰めて背後に青年を庇った。
「陛下は!国王陛下は!?」
「コイツは誰だ!!何者だ!!」
「陛下をどこに隠した!?」
国王に危害を加えたという前提の元、騎士達が槍を突きつけてくる。事情を聞くつもりがなさそうな連中を遮るように柚花は防御結界を張った。悪意を物理的に跳ね除ける透明な壁のようなものだ。解呪した時も感じたが、聖女としての力は失われていないようだ。元の世界では全く使えなかったのを考えると厄介な力でしかない、とはいえ使えるものは使う。
「貴様、さては聖女ではなく魔女か!」
「なにっ、魔王の手先だったか!」
青年を守る姿勢を見せた途端、怒りの矛先を変えてくる男達に辟易とする。
「部外者を一方的に召喚して、一方的な要求を押し付けて、今度は害悪扱い?いい加減にしなさいよ、クズ共が」
本当に困っているようだったから対価を要求しなかった。そんな優しさが、慈悲が欠点だという自覚はある。やらなきゃ良かったと後悔するのも毎度のことだ。一発脅してやるかと攻撃魔法を壁にでもブチ込もうとした。
そんな柚花の手を優しい温もりが包む。
「俺のせいで迷惑かけて申し訳ない」
振り向けば犬?だった青年が泣きそうな表情で目を伏せている。犬耳があったら垂れていたことだろう。うっかり、きゅん、とした。
「この様子だと俺に元々かけられていた変化の呪いも解かれているんだろう」
「元々?」
呪いは一つではなかったということか。昔は真面目に掛けられた呪いを解析してから解呪していたが、二回目に召喚された世界で、解呪に時間を掛ける度にネチネチ嫌味を言われ、段々と面倒になり、解析せず最大出力で解呪するようになったことを思い出す。そのせいでつい育毛促進の魔法をも解呪して「あまりにも切迫したご様子でしたので手加減できませんでした」と言い訳するのも常套手段だったな、と。要らんことまで思い出した。
「俺はジーク。幼少期に当時の王妃から姿を変える呪いを掛けられ、ずっと現陛下の影武者をやってきたんだ」
元はただの孤児だと正体を明かしたジーク。魔法により隷属を強制され、本来の姿さえ奪われ続けていたという。そんな事実を話せるのも、柚花が隷属魔法まで解呪したお陰だとジークは笑う。
「───貴方の発言をどこまで信じたらいいのか、ちょっと判断つかないんだけど」
そんな御伽噺のような都合の良い話があるのかと身構える。身構えたところで、彼は防御結界の内側にいるので、あまり意味はない。
「き、君が影武者なら、陛下は無事なのだろうか…?」
唖然として話を聞いていた連中が結界の外から疑問を投げかける。
「あー、アイツなら、勇者召喚が失敗して、自ら魔王を倒す宣言した後、全部俺に押し付けて逃げたぞ。恐らく国庫の財宝も持ち出しているんじゃないか?」
国王が民を放置して我先に逃げた。そう聞かされても半信半疑な様子だったが、取り急ぎ国庫の確認をしなくては!と声を上げて動き出す。
「そ、その、ジーク、様!陛下の行方に心当たりは御座いませんか!?」
藁をも掴む思いなのか。孤児出身の平民だと名乗ったジークに敬称をつけ、お願いしますと懇願してくる。こんなオッサンばかりでよく国が潰れないなと一周回って感心した。
「そりゃ王太后のところじゃないか?アイツ、昔から母親の言う事なら何でもハイハイ聞く良い子ちゃんで、結婚するなら母親じゃないと嫌だとか駄々こねてさ。これは流石にマズイと焦った王太后自ら病気療養を言い出して田舎に引っ込んだけど、そんなんでアイツの病気が治るとは思えないし確実に追い掛けただろ」
ガチのマザコンか!!!!!というのは柚花の心の叫びだったが、概ね場の嘆きは同じ内容で一致した。柚花も絶句したが、聞き入っていた連中は絶句を通し越して絶望しているようだった。
「あー、俺のこの姿を受け入れろとは言わないけどさ、取り敢えず服を着させてくれ。聖女様の前でこの格好はマズイだろ」
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