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後日談

天の采配・1

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 三方向を険しい山々に囲まれ眼前には海、という限られた土地。そこに国を創った神の加護は未だ健在だ。その証拠に、神が王を選ぶ。

 王とは、神の依代だ。

 政治を取り仕切る時の王は人間とみなされる。人間目線で国を治める為に、神が憑依した人間、という扱いだ。

 政治以外の場所、王宮の奥にある私的な空間である内宮にいる時は神として扱われる。国に加護の力を与える神本来の仕事を、地上に滞在することで行っているのだと言われている。



「───神に顔と真名を覚えられると黄泉が近くなる、と言い伝えられております。故に内宮で働く者達は皆顔を布で隠し、名前も伏せているのですよ」

「へー…」

 突然この世界に降ってきた朝陽あさひにはわからないことが多い。サザードは朝陽あさひに「何も知らなくて良い」としか言わないので彼に問いかけることは諦めてしまった。なにせサザードは自身が王であることすら教えてはくれなかった。

 この世界について学ぶということは、元の世界に戻ることを諦めることに似ている。それはそれで複雑な心境になるが、如何せん暇だ。この世界には煩悩を満たすような文化発信源がない。紙すら貴重で娯楽用の本などという贅沢な嗜好品は存在しない。

 書物や記録からこの世界のことを把握出来ないのなら誰かに聞くしかない。暇を理由に豆の筋取りを手伝いつつ、最高齢の侍女に対し故郷の祖母の面影を重ねながら、色々な話を聞くのが日課だ。

「じゃあ、俺も布被った方がいい?」

「いえいえ、貴方様には不要でございますよ。なにせ王の伴侶として天上の神々に認められた瞬間から貴方様も神に等しいのですから」

「は?」

 知らない間に朝陽あさひは人間を辞めていたらしい。





「サザード!サザードが不老不死って本当?」

 丈夫な蔦で編み込まれた椅子。その包み込むような形状の背もたれに背中を預け、長い脚を優雅に組み、サザードは木簡の束を読んでいた。サロンに飛び込んできた朝陽あさひにサザードは緋色の目を細め、手にしていた仕事道具を控えていた侍女に渡す。侍女達はそれだけで主の意図を組み、静かに退室し始めた。

 朝陽あさひはそんな侍女達に目もくれず、サザードに駆け寄る。すかさず伸びてきた逞しい腕に捕らわれ、あっという間にサザードの膝上に向かい合う形で乗せられたが、最早それが当たり前なので特に驚くことも抵抗することも無い。

「正確には不死ではない。道理に反することをすれば天罰により死ぬし、次代に地位を譲ればただの人間に戻る」

 そんなシステムなど聞かされたところで朝陽あさひには現実味が湧かない。まるで御伽噺のようだと、どこか飲み込めずに戸惑う。

「お、俺も不老になった、て、マジ?」

 至近距離で飴玉のような緋色の瞳を真っ直ぐ見据えて問う。瞳の主はニヤリと口端を持ち上げた。

「ああ、言い忘れていた」

「嘘つけ!この確信犯!!」

「気づくまで何年かかるか楽しみにしていたんだがなぁ」

 残念だ、とサザードは呟きつつ、意図を持って朝陽あさひの腰を撫で始める。ぞく、と走る快感に、ぴくん、と朝陽あさひの体が跳ねた。その先を期待して体温が上がっていく。

「や、ちょ、まだ話を」

 他にも隠していることがあるだろう!と問い詰めたいのに、息さえ喰らおうとするかのような荒々しい口付けをされ、散々教え込まれた快楽に目眩がする。何も考えられなくなる。下履きを脱がされても気づかないほど、酸欠で頭が回らない。

 不埒な動きをしていたサザードの手が性器と化した朝陽あさひの後孔に太い指を差し入れる。どこから、いつの間に取り出したのか、冷たく、ドロリとした液体を纏わせた指の意図は明確だ。

 口の中も後孔も、どちらもぐじゅぐじゅと掻き混ぜられる。気持ちがいい。

「ゃ…、もっと、」

「…ッ」

 口が離れると寂しくて、強請りながらサザードの唇を舐める。サザードは舌打ちして、性急に朝陽あさひの腰を持ち上げて己の昂りを突き刺した。

「ひ、ゃあああっ」

 少しの痛みと、それを上回る衝撃で朝陽あさひは仰け反る。内側をサザードに無理やり拓かれていく、そう考えただけで脳が激しい喜びを覚えて明滅する。脳が絶頂する。口端から涎を垂らしていることにも気づかないまま、ビクビクと体を震わせてサザードにもたれかかった。

「流石に、キツイな」

 サザードの吐息にすら感じる。サザードの余裕の無い表情にすら胸が締め付けられる。獣のような男に喰われている喜びに、朝陽あさひは無自覚に微笑みを浮かべ、熱い吐息を零した。

「がつがつ、きて?」

 そんな囁きに、サザードは容易く理性を失い、自制心を失って。掴んだ朝陽あさひの腰を小刻みに激しく上下に揺らす。

「ひ、あ!あ!あ!」

 動きに合わせて押し出される嬌声にますます興奮して止められない。

 今夜も一度達したくらいでは終われないだろうと確信し、微かに残っていた理性が「すまない」と小さく掠れた声で詫びた。


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