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「も、うごく、な…」

「───いま動いているのは私ではない」

 掠れた声が囁く。そんなの嘘だ、信じないと、ルークは固く目を閉じて身をよじる。更に腕を引かれ、完全に上半身を起こしきると、自重でぬっぽりと太い楔が中を突き上げる。

「ふわあああッ」

 待ち望んでいた刺激に、口端から涎が零れる。男に背後から抱き締められる安心感に力が抜けていく。最初は萎えていたルークの雄も、今は頭をもたげて切なげに震えながら、先端から蜜を零すばかり。男の手で胸を揉まれると、手のひらに潰された乳首は気持ち良さに色づく。そこにルークの意思などない。

 瞳を一層濃く妖しく色づかせたルークの身体は続きを渇望し内壁をうねらせた。





 全て悪い夢だった。そう自分に言い聞かせてみたが虚しいだけだった。全身が不自然にダルい、節々が痛い。何より、未だに何かが入っているのではないかと不安になるような違和感が拭えない。

 隣に横たわる男は、よく出来た人形か、あるいは遺体かというほど行儀よく仰向けになっている。本当に生きてる?と不安になり、身体を起こしたルークは男の顔を至近距離で覗き込む。

 睫毛が震えるのを確認し、ルークはその場を逃げ出した。



□□□□□□□□



「ルーク、貴方の御母堂様は異世界から召喚された聖女様でした。この世界に訪れた時、既に聖女様は身重で、夫の元に帰して欲しいと毎日泣いて嘆願されていました」

 この世界の人間に都合良く出来ている召喚術に帰還方法などあるはずがない。世界を救う力を、用が済んだら婚姻により血族に取り込んで我がモノとする、それが当然のことであり、異世界に帰す研究など検討すらされなかった。

 泣くばかりで聖なる力を使わぬ聖女様に、貴族達は心無い言葉を投げつけ始めた。そもそも貴族達は教会の権威が強まるのが面白くなかったのだ。そこに人々の暮らしがどうなるかなどの配慮は一切存在しない。

 聖女のふりをして災いを撒き散らしに来た悪魔なのだろうとまで言われ、お腹にいるのは災いそのものに違いないと命を狙われ。

「聖女様はお腹の子を守るため、世界を覆った邪悪な瘴気を払いました。瘴気は魔王が復活する前兆で、聖女様は払うことで魔王の封印を強固なものとしたのです。───しかし聖なる力は聖女様の生命力そのもの」

 大技を使い果たした身では出産に耐えられなかった。

「聖女様は最後まで故郷にいる夫の名前を口にし、謝罪を繰り返されました。私は聖女様の侍女としてお子を、貴方をお預かりしたのです」

 ───貴方はもう大きくなった。

 ルークのことを育てたシスターは微笑み、ルークに逃げていいという。母であった聖女が守るために自分を犠牲にしたような、そのような真似だけは二度としないで欲しいとも言う。

 ルークにとっては孤児院のみんなが家族で。それを守るために男に抱かれたことは後悔していない。だが、シスターや孤児院の子供達は引き止められなかったことを後悔しているらしい。

「シスター、ごめん」

「バカな子ね、ありがとう、でいいのよ」



 身を持って王太子の呪いを解いた聖人であるルークを、国として讃えて褒賞を授けたい。そんな話を伝えに王家の使者が孤児院に来た。

 が、その時点でルークは既に王都から脱出済み。慣れない性行為で足腰が立たず思うように逃げられないはずという予想を裏切り、ルークの行動は迅速で。

 それを耳にした王太子が止める暇もなく「嫁を迎えに行ってくる!」とルークを追いかけて出奔してしまった。国王は頭を抱える。呪いで苦しんでいたはずなのに、何故そんな体力があるのだ!と国王は叫びたい気分だった。そもそも、嫁も何も、無理矢理襲っておいて何故受け入れて貰えると思っているのか、不思議でならない。

「もうよい、あとはバカ息子自身の問題だ。兵を呼び戻せ。聖人殿を追いかける必要も、息子を護衛する必要もない。各地にいる者たちから目撃情報のみ取り寄せ、位置だけ把握しておけ」

 そもそも王太子が呪われたのは、迫ってきた魔女を手酷くフったせいだ。想いに応えられなくても他にやりようはあっただろう。想いを寄せる側の立場で苦悩するなら因果応報だと王は嘆息する。万が一に備え次男と三男にも教育は施してあるので、王太子が戻らなくとも国は何とかなる。



「なんか騒がしいけど何かあったのか?」

 フードを被った、どこにでもいる旅人姿のルークが屋台の主人に問う。

「ん、ああ、何でもどこかのお貴族様が供もつけずに一人旅してるらしいんだが、それが物凄い美形らしくてな。女共が一目見ようと群がってるんだ」

「…へぇ、そんなに美形なのか」

 ルークの視線の先には確かに女性ばかりの人集りが見える。まぁ、自分には関係の無いことだと屋台で食料を買い込んだルークは視線を移す。

 街から街へ。

 移動する度に謎の人集りに遭遇する。まるで後をついてきているかのようだと思い、一度はいやいや自意識過剰だろう!とルークは流したが───

 一年以上続くと、流石に気のせいだとは思えない。獲物を狙う目をした女性達の中心にいる美形貴族とやらはルークを追いかけて来ている。相手の正体に思い当たる節があり、ルークは顔を引き攣らせ、足早に移動する。あまりに兵が追ってこないものだから油断して観光がてら大きな街ばかり寄ってきたが、それもやめた方がいいだろう。


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