召喚したのは『男体 Ω(オメガ)』の幽霊でした

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後日談

9610 ─ クロト ─

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※本編に盛り込めなかった独自設定など諸々詰め込んでみた



 僕の召喚主であり、恋人であり、夫でもある元冒険者のアルクは、正直間抜けだ。

 僕を召喚したことを忘れて5年も放置したり。

 カッコイイからという謎な理由で不向きな戦斧バトルアックスを振り回し、威厳が欲しいとか言い出して髭を生やしてみたり、森の民エルフのくせに只人だと思い込んで指摘されるまで気づかなかったり、貴重な薬草を見つけられる才能を当たり前のものだと思っていたり。

 とにかく、なんというか、放っておけない。

 お陰で、姿を消しながらも5年間それなりに充実して過ごせた。

 お酒を飲みすぎてアルクが潰れた際には仕方がないので憑依して宿まで連れ帰った。アルクの後を付け回す女や、詐欺が目的で近づいてくる女にはポルターガイストをメインとする心霊現象を起こして脅かした。

 下心を持ってアルクに近づく者は男だろうと女だろうと気に食わなかったので同様に追い払った。

 アルクは鈍いので、抱きつかれてもスキンシップ激しいなーくらいにしか思わないらしい。常日頃、影からアルクの後を付け回す粘着質なストーカーの存在に気づいても、やけに会うな?くらいの感想しか抱かない。

 酒に薬を盛られて眠らされ、持ち帰られそうになった時が一番腹が立った。



 ───コイツは僕の雄なのに!!



 そう思った自分が信じられなかった。

 もしかしたら、彼なら信じられるかもしれない、という淡い希望も確かにあって。でも今更どうやって彼の前に姿を見せればいいかもわからなくて。

 アルクに再認識された後、まさか本当に手出しして来ない彼に焦れて自分から強硬手段をとる日が来るとは、夢にも思わなかった。

 Ωオメガなのに、番でもない、優位種のαアルファでもない男を切望する日が来るなんて、何が起きるかわからないものだ。



 そもそも人工的に作られたΩオメガの僕には〝運命の番〟というものは存在しない。

 高度に発達した文明を背景に、人間が手にするには余る力を持って戦争が起こり、結果として人類は極端に数を減らした。このままでは人類が絶滅する。しかし、弱者である女性の生き残りは絶望的に少なく、人口を回復させるほど出産させるのは無理だと結論づけられた。

 結果、大昔にあったとされるバース性───特に劣等種であるΩオメガを人工的に再現、量産し、子を産ませるという手段がとられた。

 もっとも、自分達にも人権を、と主張するΩオメガ達が、集団でフェロモンによる強制発情を行使し、行き過ぎた強制発情によって大勢の人間が興奮し過ぎによる脳血管の破損によって死亡───と言う悲惨なテロが各地で起こり、最終的に僕を生み出した文明は滅んだ。

 それでも人間はしぶといもので、またイチから文明を築き上げるほど増えた。

 科学が絶対的とされた前世にはなかった魔法やら何やらを見ていると、空想の世界なのでは?と僕は未だに現実を受け止められずにいる。



「今日もクロトは美人だな…」

 起き抜け第一声から心底驚いた様子で感嘆するアルクに、僕は驚いて動きを止めた。

 元々管理番号だった〝9610クロト〟が、連れ添って10年経つ間にアルクの中で咀嚼され、音の響きが若干変わり、今は〝クロト〟が僕の名前だ。同じようで違う。

 ───それはさておき。

「熱でもあんの?」

 自身の使っていた枕を、未だに隣で横たわるアルクの顔面に投げつける。ぶ!と情けない声が聞こえるのをよそに、僕はベッドから降り立ちキッチンへと逃げ出した。逃げ出してから、着替え損なったことに気づき舌打ちする。

 彼が垂れ流す本音は、いつだって不意打ち。その度に僕は恥ずかしさを覚えて顔が赤くなってしまう。

「今朝は何を食べたい?」

 料理は専らアルクの担当だ。僕をスルーして食材を取りに行こうとする彼の、その平然とした態度にイラッとする。更に彼が上半身裸だと気づき、更にイラァッとする。

「半裸で出歩くなっていつも言ってるよね?」

「あ。悪い悪い。見苦しいもん見せたな」

 軽く笑いながらアルクは再度寝室に引っ込み、シャツを羽織ってくる。僕は、じ…とその様を見つめていた。

 見苦しいとは何だろう。正直昨夜の色々を思い出して涎が出そうなくらい美味しい光景である。健康的な肌に、引き締まった筋肉。朝から僕が襲いたくなるから「服を着ろ」と言ったのをアルクは全く理解していない。しかも今のアルクは似合わない髭を辞めたために、美青年と形容するのに相応しい容貌をしているのだ。

 皆さん、コレ、僕の!なので。

 僕の!なんですよ!!

 僕の!!

「クロト?どうした?」

「───いや、好きだなぁって、思って」

「そっか。俺も愛してるよ、クロト」

 未だに羞恥心から〝愛している〟となかなか言えない僕に、彼は〝わかってる〟と柔らかく微笑むのだ。

 僕はきっと、愛されたかったんだ。その強い未練のせいで、死して尚、魂がこの地に縛られ、召喚体として取り込まれたのだろう。

 それが今はこんなにも満たされている。

「はぁ、成仏しそう…」

「え!?」

 ───この後、お前がいないと俺は生きていけないと騒ぎだしたアルクの誤解を解くのに、僕は物凄く苦労するはめになる。



[完]
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