上 下
7 / 10

しおりを挟む



 数ヶ月後。

「ちょっと待て。お前は年取らないよな?」

 2人でこじんまりとした小さな一軒家に住み始めた。

 いつかは子供が欲しいけど、もう少しお前を独り占めしたい!とか恥ずかしいことをアルクが9610クロトに言ったのは昨夜のことだ。大変盛り上がった。

「どうしたの、急に」

「母親が美少年で、父親がジジイって、子供が哀れ過ぎる!!俺も不老になる方法とかねぇのか!?」

 家の中に設けた作業部屋で薬草を干していたアルクが突然声を張り上げ、頭を抱えた始めたのを、9610クロトは「なんだ、そんなことか」と流す。

 あれ以来9610クロトは実体化したまま生活をしており、街ではアルクの奥さんとしての認識が定着してきていることに満足感を覚えていた。

 なにせ、本人は鈍感なので全く気づいていないが、アルクは結構モテるのだ。しかも男女共に惹き付けるからタチが悪い。基本お人好しなので、困っている人がいると気軽に手を貸す。そんな純朴な姿に人々はときめくらしい。幸い、アルクに惚れる人間というのは奥手な人間が多く、アプローチが控え目なので鈍感アルクに気づかれなかった。今は堂々と9610クロトが牽制をして近寄らせないようにしている。

「よくわかんないけど、アルクは森の民エルフなんだから、あと800年くらいは年取らないじゃん。それじゃ足らないの?」

 9610クロトの指摘に、「は?」と間抜けな声を出してアルクが固まる。「え?」と思わず9610クロトも問い返す。

「いや、あれ?俺、孤児だし、人間………」

 戸惑う様子に、9610クロトは訝しむ。

「何言ってんの?両耳尖ってるし、どっからどう見ても森の民エルフじゃん。森の民エルフにも孤児はいるでしょ」

 アルクは、世界が足元から揺れるのを覚えつつ、もう何年も目にした覚えのない自身のステータスを閲覧する。

 森の民エルフならば、成人になる頃に姿が固定され、死ぬ直前急激に老いる。

「ま、マジだ…」

 ずっと自身が人間だと思い込んできたアルクは思わず膝から崩れ落ちる。

「いやでも、森の民エルフって見た目が整っているはず───」

「威厳を出したいとかいう意味不明な理由でヒゲを生やして台無しにしているだけで元は美形じゃん」

「美形、か???」

 髭がないと年相応に見られず子供扱いされるのが嫌で生やし始めたのは確か9610クロトを召喚した後である。自分の顔が整っているなど今まで一度も自覚したことの無いアルクは首を傾げた。

「カッコイイからとかいう理由で戦斧バトルアックスを振り回してるけど、本当は弓矢とか魔法とか、後方戦闘の方が得意でしょ?」

「いや、カッコイイだろ?」

 確かに弓矢などの長距離攻撃の方が得意なのだが、ソロで活動するには不向きだったというのも理由である。

「あとねぇ、森の民エルフでもなきゃ、そう簡単に薬草の生えてる場所なんて察知できないからね?」

「マジで???」

 アルクは自身が天井から吊るすように干した薬草を見上げる。昔から薬草探しは得意で、孤児院にいた頃はギルドの薬草探しクエストで小銭を稼いでいた。それを思い出し、森の出入口付近に小屋を建て、薬草を採取し、薬品店などに卸そうと考えたのだ。同時に栽培も研究し、安定的な収入を目指すつもりだった。

「………僕としては自分の種族にすら気づいてなかったことの方が驚きなんだけど。僕達の間に子供が出来たら、たぶんハーフエルフになるんじゃないかな?あるいは全く新たな種族になるか」

 9610クロトの妊娠出産自体は問題ない。男体Ωオメガというのはこの世界に9610クロトしかいないらしいが、両性有具なら存在する。両性有具はΩオメガと異なり、発情期やフェロモンを一切持たない。しかし、先日試しに診察を受けたら医者から普通に「両性有具ですねぇ」と言われた。両性有具専門の産院まで紹介して貰えたのである。

 召喚体であることさえ隠し切れれば、何事もなく済むはずだ。

 ただ、産まれてくる子が異端かどうかまではわからない。未知数である。なにせ、9610クロトは召喚体なので。

「よし。産まれてから考えよう!」

 アルクは綺麗さっぱり断言した。9610クロトは吹き出す。

「まだ出来てもいない子供の心配しても仕方ないよね」

 視線が合い、引き寄せられるように唇を重ね合う。

「さて、キリキリ働いてね、旦那様♡」





[完]
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

俺の体に無数の噛み跡。何度も言うが俺はαだからな?!いくら噛んでも、番にはなれないんだぜ?!

BL
背も小さくて、オメガのようにフェロモンを振りまいてしまうアルファの睟。そんな特異体質のせいで、馬鹿なアルファに体を噛まれまくるある日、クラス委員の落合が………!!

失恋して崖から落ちたら、山の主の熊さんの嫁になった

無月陸兎
BL
ホタル祭で夜にホタルを見ながら友達に告白しようと企んでいた俺は、浮かれてムードの欠片もない山道で告白してフラれた。更には足を踏み外して崖から落ちてしまった。 そこで出会った山の主の熊さんと会い俺は熊さんの嫁になった──。 チョロくてちょっぴりおつむが弱い主人公が、ひたすら自分の旦那になった熊さん好き好きしてます。

生贄王は神様の腕の中

ひづき
BL
人外(神様)×若き王(妻子持ち) 古代文明の王様受けです。ゼリー系触手?が登場したり、受けに妻子がいたり、マニアックな方向に歪んでいます。 残酷な描写も、しれっとさらっと出てきます。 ■余談(後日談?番外編?オマケ?) 本編の18年後。 本編最後に登場した隣国の王(40歳)×アジェルの妻が産んだ不貞の子(18歳) ただヤってるだけ。

紹介なんてされたくありません!

mahiro
BL
普通ならば「家族に紹介したい」と言われたら、嬉しいものなのだと思う。 けれど僕は男で目の前で平然と言ってのけたこの人物も男なわけで。 断りの言葉を言いかけた瞬間、来客を知らせるインターフォンが鳴り響き……?

同僚に密室に連れ込まれてイケナイ状況です

暗黒神ゼブラ
BL
今日僕は同僚にごはんに誘われました

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

おっさんにミューズはないだろ!~中年塗師は英国青年に純恋を捧ぐ~

天岸 あおい
BL
英国の若き青年×職人気質のおっさん塗師。 「カツミさん、アナタはワタシのミューズです!」 「おっさんにミューズはないだろ……っ!」 愛などいらぬ!が信条の中年塗師が英国青年と出会って仲を深めていくコメディBL。男前おっさん×伝統工芸×田舎ライフ物語。 第10回BL小説大賞エントリー作品。よろしくお願い致します!

処理中です...