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しおりを挟む数ヶ月後。
「ちょっと待て。お前は年取らないよな?」
2人でこじんまりとした小さな一軒家に住み始めた。
いつかは子供が欲しいけど、もう少しお前を独り占めしたい!とか恥ずかしいことをアルクが9610に言ったのは昨夜のことだ。大変盛り上がった。
「どうしたの、急に」
「母親が美少年で、父親がジジイって、子供が哀れ過ぎる!!俺も不老になる方法とかねぇのか!?」
家の中に設けた作業部屋で薬草を干していたアルクが突然声を張り上げ、頭を抱えた始めたのを、9610は「なんだ、そんなことか」と流す。
あれ以来9610は実体化したまま生活をしており、街ではアルクの奥さんとしての認識が定着してきていることに満足感を覚えていた。
なにせ、本人は鈍感なので全く気づいていないが、アルクは結構モテるのだ。しかも男女共に惹き付けるからタチが悪い。基本お人好しなので、困っている人がいると気軽に手を貸す。そんな純朴な姿に人々はときめくらしい。幸い、アルクに惚れる人間というのは奥手な人間が多く、アプローチが控え目なので鈍感に気づかれなかった。今は堂々と9610が牽制をして近寄らせないようにしている。
「よくわかんないけど、アルクは森の民なんだから、あと800年くらいは年取らないじゃん。それじゃ足らないの?」
9610の指摘に、「は?」と間抜けな声を出してアルクが固まる。「え?」と思わず9610も問い返す。
「いや、あれ?俺、孤児だし、人間………」
戸惑う様子に、9610は訝しむ。
「何言ってんの?両耳尖ってるし、どっからどう見ても森の民じゃん。森の民にも孤児はいるでしょ」
アルクは、世界が足元から揺れるのを覚えつつ、もう何年も目にした覚えのない自身のステータスを閲覧する。
森の民ならば、成人になる頃に姿が固定され、死ぬ直前急激に老いる。
「ま、マジだ…」
ずっと自身が人間だと思い込んできたアルクは思わず膝から崩れ落ちる。
「いやでも、森の民って見た目が整っているはず───」
「威厳を出したいとかいう意味不明な理由でヒゲを生やして台無しにしているだけで元は美形じゃん」
「美形、か???」
髭がないと年相応に見られず子供扱いされるのが嫌で生やし始めたのは確か9610を召喚した後である。自分の顔が整っているなど今まで一度も自覚したことの無いアルクは首を傾げた。
「カッコイイからとかいう理由で戦斧を振り回してるけど、本当は弓矢とか魔法とか、後方戦闘の方が得意でしょ?」
「いや、カッコイイだろ?」
確かに弓矢などの長距離攻撃の方が得意なのだが、ソロで活動するには不向きだったというのも理由である。
「あとねぇ、森の民でもなきゃ、そう簡単に薬草の生えてる場所なんて察知できないからね?」
「マジで???」
アルクは自身が天井から吊るすように干した薬草を見上げる。昔から薬草探しは得意で、孤児院にいた頃はギルドの薬草探しクエストで小銭を稼いでいた。それを思い出し、森の出入口付近に小屋を建て、薬草を採取し、薬品店などに卸そうと考えたのだ。同時に栽培も研究し、安定的な収入を目指すつもりだった。
「………僕としては自分の種族にすら気づいてなかったことの方が驚きなんだけど。僕達の間に子供が出来たら、たぶんハーフエルフになるんじゃないかな?あるいは全く新たな種族になるか」
9610の妊娠出産自体は問題ない。男体Ωというのはこの世界に9610しかいないらしいが、両性有具なら存在する。両性有具はΩと異なり、発情期やフェロモンを一切持たない。しかし、先日試しに診察を受けたら医者から普通に「両性有具ですねぇ」と言われた。両性有具専門の産院まで紹介して貰えたのである。
召喚体であることさえ隠し切れれば、何事もなく済むはずだ。
ただ、産まれてくる子が異端かどうかまではわからない。未知数である。なにせ、9610は召喚体なので。
「よし。産まれてから考えよう!」
アルクは綺麗さっぱり断言した。9610は吹き出す。
「まだ出来てもいない子供の心配しても仕方ないよね」
視線が合い、引き寄せられるように唇を重ね合う。
「さて、キリキリ働いてね、旦那様♡」
[完]
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