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しおりを挟む「あ~、いい。喰らいつく感じが最っ高!」
「ぐ、あ、っ、あっ、」
早く終わってくれと願いながら、揺さぶられるまま嗚咽を漏らす。
□□□□□□□□
「あー、ハレナのおっぱい好きー」
性交渉の余韻の中、ハレナの胸筋に顔を埋めてヴィナード殿下は満足気だ。
散々好き勝手掘られたハレナは最早動く気力もない。仰向けに転がったまま、真上に乗っているヴィナード殿下にされるがままだ。
あっという間の1年だったと振り返る。
最初こそ殿下との行為は苦行でしかなかったが、回数を重ねるうちにヴィナード殿下に穿たれることで射精するようになってしまった。苦痛ではなく気持ち良さに喘ぐ、そんな自身の変化を嘆くことも出来ずに最早虚無顔である。
「そういえば殿下」
「人前じゃないんだからヴィレって呼んでよー」
「…ヴィレ様」
「様は要らない」
「……………ヴィレ、婚約解消を望んでいるというのは本当ですか」
悪戯にハレナの胸筋を揉んでいたヴィナード殿下の手が止まる。
身体を起こしたヴィナード殿下は、冷たい王族としての表情を纏っていた。
「何故、それを知っている」
口調も固く、王族として人前にいる時のようだ。ハレナと2人の時は甘ったれた雰囲気を出すのに、相変わらず別人のような豹変ぶりだとドキドキしてしまう。
「ヴィナード殿下の婚約者、ガーレット公爵令嬢から直接相談されました」
チッと舌打ちするヴィナード殿下の横顔は凶悪だ。自分を抱いている最中には決して見せない顔。王子様として人前にいる時にも見せない顔だ。それだけハレナには気を許しているのか、取り繕う必要も無い矮小な存在だと評価しているのか。
他の側近と異なり、仕事を手伝う訳でも無く、ただ夜だけ呼び出される。しかも王家の意向で寮の部屋はヴィナード殿下の隣室にされてしまった。殿下が望めば身体を差し出す。それだけの存在だが、女性には理解し難いのだろう。殿下の婚約者たるご令嬢は明らかにハレナに敵意を向けてきていた。男が妃になれるわけがない。嫉妬するだけ無駄だと思うのだが、そういう問題ではないらしい。
「相談、ね。ヒステリーの間違いだろう」
「…まさか。彼女は淑女の中の淑女と名高いご令嬢ですよ」
実際は相談でもヒステリーでもなく罵倒だったが。それでも未来の王子妃であり、ゆくゆくは王太子妃、王妃となってヴィナード殿下と肩を並べる方である。失礼なことを口にする訳にはいかない。
床に落ちた衣服を拾い始めたヴィナード殿下の背中を追うようにハレナも身体を起こした。ヴィナード殿下から視線を逸らし、中に放たれた王族の遺伝子をかきだすために危うい足取りで浴室へと向かう。
寮の最上階にありながら浴室があるというのは、まさに王族故の特権だろう。浴室を使うには、ヴィナード殿下が望むであろうタイミングに合わせ、沸かした熱湯を1階から冷めないうちに運ぶ必要がある。まさに最高級の贅沢だ。
初めは自分なんかが浴室を使っていいわけがないとハレナは固辞した。すると、ヴィナード殿下が入浴するから、その世話をしろと命じられてしまい。結局毎回押し切られ、今では諦めている。
「大丈夫か」
よろけた傍からヴィナード殿下の腕を腰に回され、今更のことなのにハレナは羞恥に目を伏せた。
「大丈夫ですから、離れて下さい」
「嫌だ」
ぎゅ、と抱きつかれ、先に進めなくなる。大きな子供みたいだとハレナは小さく笑った。この温もりも、擽ったさも、全て今だけのもの。
ヴィナード殿下の婚約者であるガーレット公爵令嬢からの非難の声を思い出す。彼女はハレナがヴィナード殿下に悪影響を与えたのだと断言し、ハレナを気持ち悪いバケモノだと罵った。そのやり取りで確かにハレナの心は傷ついた。だが、それはよく知らない令嬢に否定されたからではない。
「殿下」
「ヴィレと呼べ」
「いいえ、殿下。やはりケジメは必要です」
卒業と同時にヴィナード殿下は結婚する予定だ。例えガーレット公爵令嬢と婚約解消しても、いづれは誰かと結ばれる。尊い血筋を未来に繋ぐという義務を果たす為に。
そこに貧乏伯爵家の次男であるハレナの居場所はない。側近として傍にいる未来も存在しない。例え側近にと望まれても無理である。
嫌々始まった関係だと思いたかったのに、容易く篭絡されてしまった己が情けない。ヴィナード殿下の隣に女性が立つ未来を想像するだけで、ハレナの心は傷つき、痛むのだ。こんな気持ちのまま傍になど居られるはずがない。
「………ハレナ?」
不相応な情を抱くなど、とんでもない不敬だと。分かっているが、今だけ、今だけだから許して欲しいと願う。
「殿下、私の事などお構いなく。湯が冷める前にどうぞ」
「……………」
ハレナの微笑みを前に、ヴィナード殿下は何かを言いたげに口を開きかけたが、結局言葉を発することなくハレナの頬に口付けを落とす。
「───僕だけのものにしたいなぁ」
小さな小さな呟きを、ハレナは聞かなかったことにした。貴方様は俺だけのものにならない癖にと泣く心に蓋をして。
「ご冗談を」
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