25 / 25
5)家族 ─ ラウエリア/レミアナ視点
25
しおりを挟むアウローラ姫とラウエリア姫が再会してから今日でちょうど半年。
1ヶ月ほど前には、アウローラ姫と英雄、およびラウエリア姫と宰相の合同結婚式が執り行われた。
民間の結婚式だってもっと準備に時間をかけるのに、よくこの短期間で───とレミアナは感心したものである。特にウェディングドレスの準備が間に合ったのが驚きだった。一着は英雄と姫を結婚させると決めた時に国王が注文していた物。もう一着は王家に代々伝わる物。前者はラウエリア姫が当時の宰相との結婚を決めた時にサイズを手直ししている。アウローラ姫が着ているのは後者だ。一から作成したのでは間に合わなかっただろう。手直しでさえギリギリ間に合ったようなものだった。
ドレスは最高級だったが、それ以外に関しては実に簡素な式だった。招待客は限定され、国外からの来賓は駐在大使のみ。式にも出られない国王の体調を理由に必要最低限にしたいとラウエリア姫が泣き真似をして、やたら大掛かりにしようと提案する連中───宰相に擦り寄ろうとする者達を一蹴したらしい。
そもそも、国王がいつ亡くなってもおかしくないほど衰弱している最中、本来なら結婚式など行えない。それでも国民に、次の王はラウエリア姫の夫になる宰相なのだと、大々的に示す、必要な式だった。幸せに溢れる主役達の笑顔に歓声が上がり、国民はその発表を祝福を持って受け入れていた。国王の容態と、幼い王子しか男児がいないことで国民に広まっていた政治への不安はこれである程度払拭されたと考えられる。
余談だが、姫2人分の結婚式を一度で済ませられる、更に披露宴は王の死後、喪が開けてから戴冠式とまとめて行える。国費の節約になる!と宰相はご機嫌だった。
アウローラ姫の結婚に断固反対していたラウエリア姫は、異母姉が嫁ぐのではなく、あくまでも英雄が王家に婿入りして、結婚後も城で暮らすなら、という条件で渋々許容した。恐らく宰相の入れ知恵だろう。
今まで王族らしい生活をしたことの無いアウローラ姫はギリギリまで拒んでいたし、そもそも平民の田舎育ちの英雄はアウローラ姫以上に嫌がっていたが、最終的にはラウエリア姫の泣き落としで決着した。城の敷地内に小さな離れを建てることで合意したらしい。とはいえ、ラウエリア姫の暮らす本宮とは渡し廊下で繋がる予定だそうで。恐らくしょっちゅう出入りするのだろうな、と予想している。その辺りは宰相も想定済みらしい。
本日、小雨の降る中、国葬が営まれている。アウローラ姫とラウエリア姫にとっては父親の葬儀だ。喪服姿の姫達は互いに支え合うように寄り添っていた。
レミアナは国葬には参加せず、荷造りをしている。解雇になって祖国に帰るというわけではない。明日の早朝には、アウローラ姫と英雄、他外交官やら護衛やらを引き連れた団体で旅に出るのだ。道中、様々な領地に足を運び、新王の名代として挨拶をして回るのである。最終的にはレミアナの祖国───隣国にも同様に挨拶をしてくる予定だ。
王家に婿入りした英雄は、現在、ソレイユ大公殿下を名乗っている。ソレイユはアウローラ姫の御母堂様の名義なのだという。必然的にアウローラ姫は大公妃殿下だ。今回の挨拶回りは、新王の名代であると同時に、新たな大公夫妻としての顔見せでもある。立派な社交、つまりお仕事だ。
───そう、お仕事であって、それぞれの新婚夫婦が適切な距離を維持するためにラウエリア姫───王妃に意地悪をしているわけではないのだ、たぶん。そんな仕事を仕組んだ新王は、ラウエリア王妃に三日程無視をされ、新婚なのに夫婦の寝室から締め出され落ち込んでいたらしい。お陰でラウエリア王妃はいつも以上にベッタリとアウローラ妃殿下にくっついて離れなかった。
アウローラ妃殿下を取り合い、子供のような低レベルな口喧嘩を繰り広げる大公と王妃など、とてもではないが臣下には見せられないものであり、どうしてもその場にはレミアナが付き添うはめになる。
侍女としてのスキルを身につけたレミアナは、王家の見せられない部分も任せられる存在として非常に重宝されている。今のところ解雇になる恐れは微塵もない。
息抜きにと、メモのように書き付けた日記をポケットにしまい、レミアナは伸びをする。小さな手帳は、ちょうどここまでで全ての頁が埋まってしまった。旅先で新しい物を買うか、事前に見繕うか、悩むところではある。
何だかんだで騒がしく賑やかな日々が続くのだろうと予感して、レミアナは微笑んだ。
[完]
1
お気に入りに追加
42
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説

【完結】不協和音を奏で続ける二人の関係
つくも茄子
ファンタジー
留学から戻られた王太子からの突然の婚約破棄宣言をされた公爵令嬢。王太子は婚約者の悪事を告発する始末。賄賂?不正?一体何のことなのか周囲も理解できずに途方にくれる。冤罪だと静かに諭す公爵令嬢と激昂する王太子。相反する二人の仲は実は出会った当初からのものだった。王弟を父に帝国皇女を母に持つ血統書付きの公爵令嬢と成り上がりの側妃を母に持つ王太子。貴族然とした計算高く浪費家の婚約者と嫌悪する王太子は公爵令嬢の価値を理解できなかった。それは八年前も今も同じ。二人は互いに理解できない。何故そうなってしまったのか。婚約が白紙となった時、どのような結末がまっているのかは誰にも分からない。

ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること
大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。
それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。
幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。
誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。
貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか?
前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?

(完結)初恋の勇者が選んだのは聖女の……でした
青空一夏
ファンタジー
私はアイラ、ジャスミン子爵家の長女だ。私には可愛らしい妹リリーがおり、リリーは両親やお兄様から溺愛されていた。私はこの国の基準では不器量で女性らしくなく恥ずべき存在だと思われていた。
この国の女性美の基準は小柄で華奢で編み物と刺繍が得意であること。風が吹けば飛ぶような儚げな風情の容姿が好まれ家庭的であることが大事だった。
私は読書と剣術、魔法が大好き。刺繍やレース編みなんて大嫌いだった。
そんな私は恋なんてしないと思っていたけれど一目惚れ。その男の子も私に気があると思っていた私は大人になってから自分の手柄を彼に譲る……そして彼は勇者になるのだが……
勇者と聖女と魔物が出てくるファンタジー。ざまぁ要素あり。姉妹格差。ゆるふわ設定ご都合主義。中世ヨーロッパ風異世界。
ラブファンタジーのつもり……です。最後はヒロインが幸せになり、ヒロインを裏切った者は不幸になるという安心設定。因果応報の世界。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる