21 / 25
5)家族 ─ ラウエリア/レミアナ視点
21
しおりを挟む「宜しいのですか、ラウエリア姫様」
ラーファの問いに、ラウエリアは瞬く。振り向けば、ラーファが眉間のシワを普段以上に濃くしていた。あの眉間さえ力を抜けば実年齢より若く見えるのに勿体無いとラウエリアは嘆息する。あれは宜しくない。───もちろん、宰相であるラーファの問いかけの示唆するものが彼の表情のことではないのも把握している。そちらに関しては、宜しいとラウエリアは即答できる。
彼が問いたいのは、アウローラ異母姉様を本当に連れ戻して良いのかだ。
異母姉様は、前王妃が産んだ正当な第一子。未だ嫁いでいない以上、異母姉様か、もしくはその伴侶が国王陛下の跡を継ぐべきだ。故に、戻ってきた異母姉様が反対すれば、ラーファと結託して目指しているラウエリアの未来は困難な道程になる。
───反対すれば、の話だが。
「宜しいに決まってるでしょう。私達の結婚と、貴方が王位を継承することを、他ならぬ異母姉様が公の場で承認してくれれば、反対している貴族たちも大義名分が得られず身動きがとれなくなる。一番手っ取り早いわ」
元々、ラーファは公爵家の人間として、王家の親族として、順位は低いながらも王位継承権は持っている。それがラウエリアと結婚すれば繰り上がるだけ。───だというのに、国王陛下に賄賂を貢いで都合よく利用してきた者達が反対の声を上げている。ラーファが王になれば、甘い汁を吸えないどころか粛清される恐れがあるからだろう。長子を差し置いて何を勝手なことをとか、彼らの騒ぐ建前はそんなところだ。
己の利益に食らいつくハイエナ共に、例え口先だけでも異母姉様を利用されるのは許せない。異母姉様を奴らのお人形になんかさせない。
「ラウエリア姫様が連中の味方をしたらどうするおつもりです?」
───考えなさい。
蘇る声。柔らかいのに感情の篭らない声。異母姉様は、公の為に私を殺せる人だ。だからこそ───
「有り得ないわ」
王に疎まれてきた異母姉様を実際に知る人は限られている。城内にすら味方がおらず、且つ国に混乱を招く恐れがあるとなれば、異母姉様はご自身の気持ちに関係なく身を引くに違いない。
異母姉様と行動を共にしているであろう英雄。彼が国王になることも異母姉様は恐らく認めないだろう。最初は民も英雄王を歓迎するだろうが、戦でなければ英雄など不要だ。すぐに冷めるだろう。貴族たちは英雄とはいえ平民出身者の彼が頂点に立つのを快く思わないに違いない。
「異母姉様はご自身の気持ちを蔑ろにしてでも公益を優先する方です」
「たった数日間しか共にいなかった相手なのに、随分とはっきり断言なさるのですね」
「ふふ、妬きました?」
そんな異母姉様でなければ、ラウエリアの髪を自ら梳くなどしなかっただろう。ラウエリアの厚顔ぶりを罵倒してもおかしくはない立場と境遇に置かれていたのに、異母姉様は一度も声を荒らげ無かった。
痕跡のあった英雄の故郷から捜索を開始した。結果、生きて越えるのが困難とされる断崖絶壁に続く足跡を発見し、その先にある国に協力を打診した。
引き換えに提示したのは我が国独自の絹織物の生産技術。今までは生産した絹織物を高値で輸出していたが、今後は指導員を派遣して隣国に生産方法を広めるのだ。将来的には生産に必要となる器具を輸出する方にシフトしていくだろう。
元々需要は打ち止めとなる日が来てしまうのはここ数年の売れ行きの伸び悩みを見れば明白だった。本来は門外不出ですが貴国になら特別に…などと嘯き、報酬として双方が合意出来たのは僥倖だ。
これ以上自国内で技術を留めておくよりも、新しい刺激を受けて切磋琢磨した方が生産される絹織物にも変化が生まれるはず。伝統のデザインなどは最高級品として富裕層に提供し、今後生まれるであろう新しいデザインは幅広く提供していくことで需要の伸びを狙う。
これがラウエリアの考えだ。自分から勉強して、自分で考えた。
「ラウエリア姫様、そろそろ打ち合わせのお時間では?」
ラーファの指摘にラウエリアは時計を見遣り溜め息を呑み込んだ。
待ち構えているのは単なる打ち合わせではなく、結婚式の打ち合わせだ。しかも、次期国王夫妻の、結婚式。本来は盛大に執り行うべき国家行事ながらも、現国王の病状を鑑み、簡易で済ませるつもりである。
とはいえ、結婚する本人たちがそのつもりでも、家臣達はより盛大なものにすべきだと要所要所で過度な提案をしてくる。それに反論するのが億劫で面倒で疲れる打ち合わせなのだ。もう面倒くさいからお前らが代理で出ろよと言いたくなるくらい、億劫で仕方ない。
1
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

モブで可哀相? いえ、幸せです!
みけの
ファンタジー
私のお姉さんは“恋愛ゲームのヒロイン”で、私はゲームの中で“モブ”だそうだ。
“あんたはモブで可哀相”。
お姉さんはそう、思ってくれているけど……私、可哀相なの?
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)

私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~
Ss侍
ファンタジー
"私"はある時目覚めたら身体が小石になっていた。
動けない、何もできない、そもそも身体がない。
自分の運命に嘆きつつ小石として過ごしていたある日、小さな人形のような可愛らしいゴーレムがやってきた。
ひょんなことからそのゴーレムの身体をのっとってしまった"私"。
それが、全ての出会いと冒険の始まりだとは知らずに_____!!

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。

転生令嬢の食いしん坊万罪!
ねこたま本店
ファンタジー
訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。
そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。
プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。
しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。
プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。
これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。
こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。
今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。
※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。
※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

王太子妃が我慢しなさい ~姉妹差別を受けていた姉がもっとひどい兄弟差別を受けていた王太子に嫁ぎました~
玄未マオ
ファンタジー
メディア王家に伝わる古い呪いで第一王子は家族からも畏怖されていた。
その王子の元に姉妹差別を受けていたメルが嫁ぐことになるが、その事情とは?
ヒロインは姉妹差別され育っていますが、言いたいことはきっちりいう子です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる