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4)偽装夫婦 ─ アウローラ/ギーゼル視点
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しおりを挟む馬車に揺られて国境の関門に向かう道中は実に平穏だった。馬車にはアウローラとギーゼル、レミアナの3人のみで見張りなどは同乗していない。
「もし、実は王が既に亡くなっていて、ローラを探しているのが妹姫だったとして。妹姫がローラを害さないとは限らないのでは?」
レミアナの疑問に、アウローラは首を傾げる。
「異母妹が?私を?───何故かしら、その可能性は考えたこともなかったわ」
綺麗なものだけを集めた箱庭しか知らない愛玩人形に、果たして利益のために誰かを殺すなどという選択肢が湧くだろうか。
「女性とはいえ、ローラは長子なんだろう?…よくわからないが、ラウエリア姫様が玉座を確実に手に入れようと画策するなら、目の上のたんこぶであるローラを殺そうとしても不思議じゃないかもな」
ギーゼルまでそんなことを言う。
アウローラとて、異母妹と共に過したのは数日間だけ。何もかもを知っているわけではない。それでも、お姉ちゃんと呼ぶ声を思い出すと、あの子が自分に危害を加えるなど到底思えないのだ。
関門で、本人確認のための面通しをすると言われ、アウローラは馬車から降りた。8時間ほど馬車の中で座ったままだったため、足腰が辛い。そんなアウローラを支えるギーゼルは平然としていた。思わず恨めしい視線を向けるが、ギーゼルは不思議そうに見つめ返してくるだけ。不毛である。
レミアナは馬車から降りることを許されなかった。引き継ぎの隙にアウローラ達が逃亡することを恐れての人質なのだろう。
面通しと言われても、祖国にアウローラの容姿を知る人間は多くない。限られている為、予想はついていた。待っていたのは母親役の侍女だ。予想外だったのは、アウローラが住んでいた屋敷を監視していた兵士達と、異母妹と過ごした数日間共に居た異母妹の侍女、異母妹の護衛までいたことだ。
皆一様にアウローラを見るなり頭を下げる。それも深々と。しかも地面に膝を着いて。そんな対応をされた覚えなどないアウローラは戸惑いと驚きで目を白黒させた。助けを求めるようにギーゼルを振り返るが、ギーゼルとしては何ら不思議ではないらしく、どうした?とばかりにアウローラへと視線を向けてくる。
「アウローラ姫様、ご無事で何よりです」
代表して言葉を発したのは、母親役の侍女だ。まるで何年間も会っていなかったかのように懐かしく思える。
「ターニャ、一体どうしたの?私を姫扱いするなんて貴女らしくない」
「いえ、アウローラ姫様は正真正銘、我が国の高貴な姫君で御座います。礼を尽くすのは当然のこと。過去の私の過ちをどうかお許しください」
一体何が。何に怯えているのだろう。目の前の人間達は、一度アウローラと我が身を天秤に掛けて後者を選びとったことのある者達だ。事実、アウローラの無実を知りながら、アウローラを見放した。その行動を誤った選択だったとでも悔いているのだろうか。あるいはアウローラ自身に彼らを独断で罰することが出来るだけの権力でも降って湧いたのだろうか。
「許すも何も。私は貴方達の言動に心を動かされた覚えはないわ」
「ご慈悲に感謝申し上げます」
───まぁ、両国の外交関係者が同席している場なのだから取り繕いもするか。そう考えて納得することにした。
「ところで姫様、そちらの方々は?」
「私を窮地から救い出してくれた恩人の兵士ギーゼルと、あちらの国でお世話になった恩人のレミアナ嬢よ」
両国の手前、夫と友人です、とは言えず、取り繕って説明する。言いながら違和感で口元がむず痒くなりそうだ。
「ああ、そちらの方が英雄ギーゼル様でしたか!これは失礼を致しました」
───英雄?
『お父様が英雄と結婚しろっていうから…』
蘇ったのは無邪気な幼女のような異母妹の声だ。彼女が家出した理由だったはず。
アウローラがギーゼルを凝視していると、ギーゼルは顔を背けてしまった。そのままアウローラの母親役だった侍女に向けて嘆息する。
「やめてくれ。俺は一度たりとも英雄と呼ばれることを認めた覚えはない」
ギーゼルは王の決めた異母妹の結婚相手。
つまり、異母妹の婚約者を強奪したことになるのでは?───それこそまるで物語の悪女のように。
もし、異母妹に英雄を返せと言われたらどうしよう。アウローラが英雄と共にいることを想定して、表向きアウローラを探しつつ、真の目的は英雄の方、というのも有り得る。
真の目的が英雄なら、また戦争が起こるのだろうか。あるいは、2人を婚姻させると言いつつお披露目や続報がないことに民の不信感が膨れ上がったのだろうか。元々、戦争で疲弊し、民の不満は充満していたのだ。何が最終的な火種になって暴動が起こっても不思議ではない。
ギーゼルが、異母妹と結婚する───
想像しただけで足元が崩れ落ちるような感覚に見舞われる。
どうしよう───
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