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1)姉妹 ─ アウローラ視点
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しおりを挟む「アウローラ姫様!」
普段、空気に徹している監視役が屋敷に駆け込んで来た。まさか、ついに王から動きがあったか?などとアウローラは期待しない。そもそも王の使者が来たなら兵士は当然のこととして落ち着いているはずだ。目の前の青年は動揺を隠せず、切羽詰まった様子である。
「何事ですか」
表情を引き締め、主然としてアウローラはゆっくりと問いかける。ハッとした様子で兵士は慌ててその場に片膝をつき、頭を垂れた。
「ご報告致します。ら、ラウエリア姫様がいらっしゃいました。極秘の訪問とのことです」
「ラウエリア姫が? ───ご要件は伺ったの?」
「アウローラ姫様にお会いしたい、と」
母親役が、侍女の顔つきになって頭を垂れる。
「直ちに応接間の準備を致します」
「前触れなく来たのは向こうなのだから慌てる必要はないわ」
アウローラは頭痛を覚えて、深い深い溜め息を吐いた。
アウローラは前領主の孫である。
前領主の娘───アウローラの母は、王妃だった。
色事と享楽に浸る王は、自身の仕事を含め、全てを王妃に負担させた。王妃が仮眠をとっていると聞けば何故働かぬのだと怒鳴り込んだ。夜は夜で夫婦の営みは義務だと無体を強いる。それは王妃が身篭っても、悪阻で苦しんでいても変わらなかった。
体の丈夫だった王妃だが、酷使され、心身ともに追い詰められた結果、出産に耐えられず、アウローラを産んですぐに息を引き取った。
このような地獄にこの子を置いていくくらいなら、そう涙を流し、死の直前、産まれたばかりのアウローラの首を締めようとしたのだという。それが母の最初で最後の慈悲であり、愛だった。
そして祖父は、嫁いでから愛娘がどのような日々を送ってきたのかを、送られてきた遺品の日記で知り、実質王に殺されたのだと理解した。そして自身もまた王に殺害されたのである。
母とその実家という後ろ盾を無くしたアウローラは、王の長子でありながら、見たくもないという王の命令でこの地に追いやられた。もっとも、赤子だったアウローラは覚えていないのだが。
もしアウローラが男児だったら即殺されていたことだろう。女児だったから、政略結婚という用途を見出し、生かされているに過ぎない。
そのような境遇のアウローラに、王の寵愛を受けている姫が一体何用だというのか。憂鬱に顔を顰め、アウローラは本日何度目になるかわからない溜め息を零す。
「異母姉様!私をここに置いて下さい!!」
今まで一度も応接間として機能したことのない応接間に、美しい妖精のような姫が立っており。しかも挨拶より先に頭を下げてきた。
アウローラは、戸惑い、ラウエリア姫の連れてきたであろう護衛騎士と侍女を一瞥する。2人共疲れた様子で力なく首を横に振った。どうやら代わりに説明…はしてくれないらしい。
「あの…、ラウエリア姫様」
「私のことはララとお呼び下さい!他人行儀な呼び方は嫌ですわ、異母姉様!」
ガバッと顔を上げたラウエリア姫は、両目をキラキラと輝かせ、アウローラに詰め寄る。両手を胸の前で組み、微笑む様は、どこまでも美しく可愛らしい。そこにあるのは宝石姫と称されることにも納得できる輝きだ。
「私は見ての通り、平民として暮らしております。生憎当家には客人が泊まるような、ましてや姫様を持て成すような設備など御座いません。どうかお引き取りを」
一応貴族教育は受けたアウローラだが、実践したことはない。今も、平民と同等の衣服を身にまとっている。常時ドレスの貴族とは掛け離れた暮らしなのだ。姫として優遇されてきた少女に耐えられるとは思えなかった。
「異母姉様が貴族の隠し子の裕福な平民という設定で暮らしていることは承知の上です。置いていただけるのでしたら当然私もそれに従います」
毅然とした表情で何を言い出すのか。もっと直接的に拒否しないと伝わらないのかもしれない。少しだけ躊躇い、アウローラは口を開いた。
「───無理よ。貴女の分の寝床なんてないもの」
「? 異母姉様と一緒に寝ます。平民は家族で一緒に眠るのでしょう?」
「家族って…、私たち初対面でしょう。赤の他人も同然じゃない」
「もう!異母姉様!我儘を言わないで下さいまし」
「無茶なことを言っているのは貴女よ…」
助けを求めてラウエリア姫の護衛と侍女を見るが視線を逸らされてしまった。次にアウローラは自身の母親役を見遣るが、こちらも気まずげに顔を背けてしまう。
ラウエリア姫がここにいることは、恐らくこの屋敷を見張る兵士達が国に報告していることだろう。迎えが来るのは恐らく2~3日後。噂に聞く王の溺愛ぶりを考えればそう長引いたりはしないはずだ。
「…狭くても文句言わないでね」
「はい!」
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