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しおりを挟むイーリオは噂の真偽を問われる度、その荒唐無稽さに大笑いしていた。
「ま、全員俺が産んだ子なんだけどなぁ」
しかも、初産で卵三つ───つまり、三つ子だったのにはイーリオも驚いた。産まれた順ではなく、孵化した順に長女、長男、次男だ。その2年後は卵二つ───双子の三男と次女。
全員、気が昂ると目が金色に光る。ばっちり龍の特性持ちだ。幼少期は時々全身で龍化して、じゃれ合いにしては激しすぎる喧嘩を繰り広げていた子供たちである。危なくて乳母など雇えるはずもない。
「何で全員、私に似ているんだ!イーリオに似た子が産まれるまで頑張らないか?」
全員、黒髪に、琥珀色の瞳だ。顔立ちは次男が何となく?若干?イーリオに似ているような気もするが、それ以外は皆、エストールに瓜二つである。
「それは一度決着がついたよな?まだ言うなら一緒に風呂入らないぞ、それとも寝室別にするか?」
龍の特性を継いだ皇族は、番の有無で寿命が変わるのだという。エストールとイーリオは恐らく千年は生きるらしい。しかも老いることもない。
その長い時間を思い、エストールは押し黙った。
「言いません」
「無断で孕ませるのも駄目だからな」
「やりません」
龍というのは便利で、孕ませるか否かを選択して行える。それを知らせずに初夜で真っ先に孕ませたことをイーリオは未だに根に持っている。
先代の皇帝は、番がいないため生きてもあと百年ほどだという。彼は皇帝の座をエストールに譲ると、番を探す旅に出た。
「お母様!私もお母様に似た妹が欲しいです!!」
「あら、私も同感ですわ」
そう騒ぐのは末っ子の次女だ。便乗して、ふふふと笑うのが長女である。長女はエストールによく似た綺麗な子だが、次女はエストールによく似た可愛らしい雰囲気の子だ。イーリオはこの2人に弱い。それを見越してエストールが事前に娘たちに根回しをしておくこともあるほどに、弱い。
じろり、とイーリオはエストールを睨む。エストールは、ニッコリと微笑み返した。イーリオはエストールの笑顔にも弱い。
「───先代皇帝が番を見つけて、万が一エストールに年の離れた弟妹が産まれたら考えてやる。ただし、事前の根回しは一切禁止だ!」
娘たちは顔を見合わせ、次にエストールを見て、改めてイーリオに向き直る。
「考えると言っただけで、実行するつもりはないとか言い出すおつもりでしょう?」
「お母様、ずるーい!!」
そもそも、皇位を継ぐなら龍の特性が求められるが、継がないのであれば話は別だ。人間同様に年老いて死ぬことも選択出来る。基本的に後継者以外は臣籍降下することを視野に入れ、人間になることを選ぶのである。
今は幼い子供たちが、いつかは自分たちより年老いていくのだと思うとイーリオの心中は複雑で。賭けの結果が出る頃にはもしかしたら娘たちも生きてはいないかもしれない。そのくらい、龍と人間は生きる時間が異なる。
「そこまで言うなら、仕方ない。実行しよう。ただし、俺に似るまで続けるというのはナシだ。可能性に賭けてもう一度だけ妊娠するというだけだからな!」
いつか、彼女たちが年老いて死ぬ時に、そんな約束もあったなと思い出して笑ってくれるといい。歳離れた弟妹のことを考え、一日も長く生きてくれるといい。
そんなふうに考えていると、バルコニーが賑やかになった。空を泳いできた三匹の龍が降り立ち、次々に人間の姿に戻っていく。龍には翼がなく、飛ぶのではなく、跳ぶというか、泳ぐという感じらしい。
「お父様、お母様!」
「お腹空いたー」
「お父様も来れば良かったのに」
やんちゃ盛りの子供たちに苦笑したイーリオは手を打ち鳴らす。
「全員手を洗ってこい。おやつにするぞ」
はーい、とか、いえーい、とか。各々好き勝手に返事をして、5人で競うように走っていく。
「そうやって子供たちを統率しているイーリオを見ると子供の頃を思い出すよ」
アレス皇子の身代わりとして、エストールの兄として過ごした時間。イーリオもつられて思い浮かべる。
「………あれ?エルは子供の頃、龍化なんてしなかったよな?」
「私は番から龍として産まれたわけではなく、人間の胎から人間の子として産まれたからね。兄さんと離れるまで一度も龍化したことはなかったよ」
エストールは己の手を見つめる。一見、普通の、人間の手だ。初めて龍化した時、この手で人の首を切り落としたのだと、はっきりと思い出せる。
「龍のエルも好きだよ」
そんなエストールの手をイーリオが包むように握り締めて。記憶を上塗りするかのように言葉を重ねる。
「───ありがとう、イーリオ」
番である以上、2人は死ぬまで離れられない。
願わくば、死んでも共にありたい。
魂で結ばれた番というのは、もしかしたら前世からの約束なのではないだろうか。
「来世でも、私の番はイーリオだけだ」
[完]
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