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しおりを挟む「皇族の先祖が人間ではないというのは聞いた事があるだろう」
皇帝が話し始めたのは荒唐無稽な話だった。
皇族の先祖は龍だったらしい。龍は魂の形で番を選ぶ。それは本能であり、魂が求めるもので、理性ではどうにもならないのだとか。
「皇帝、皇太子になれる条件は、龍の特性を受け継いでいるかどうかだ」
「はぁ…、龍、ですか」
龍と言われても、正直トカゲのようなものしか想像できない。普通の子供だった偽皇子は、例え自ら名乗り出なくても皇太子には選ばれなかっただろう。
「成人までに番と出会えなかった私は人間として子孫を残すことを迫られた。番との子なら確実に龍として子孫を残せるのでそのような心配は要らないのだが、人間としての生殖方法だと龍の特性が引き継がれるかは運任せとなる」
確実に龍として子孫を残すなら番がいた方がいいということらしい。運任せとやらが、どのくらいの確率なのかは不明だが、幼い皇子と皇帝の面談が定期的に行われていたのは龍の特性が現れたかを確認するためだったようだ。
そこまで理解したイーリオは恐る恐る挙手をする。
「俺、エルに番だって言われたんですけど………?」
「そうだな。わかっていれば、私もイーリオを親戚の元に返したりはしなかった。番を奪われた龍は怒り狂い、何をしでかすかわからない。実際、エストールは龍化させた手の爪で元皇妃の首を切り落とした」
正直、自分を誘拐して第一皇子に仕立て上げた女の末路に興味はないし、龍化と言われてもピンと来ない。それよりも大切なのは我が身だ。
「俺、男ですよ!子なんて産めませんけど!!それとも龍は男女関係なく産めるんですか!?」
「自身の性別を変えることはできないが、番の身体を必要に応じて作り替えることはできる。触れたところから己の気を送り込んで、少しずつ内側を変化させていく。イーリオ、君の眠気の原因はまさしくそれだ」
「───つまり?俺は変化の途中で、子が産めるようになると???」
「もう、変化は後戻りできないくらい進んでいるようだ。私がエストールの妨害を受けず、君にようやく会えたのも、その為だろう。今更逃げ出したところで、君の身体はエストールの存在を求めて疼く。諦めなさい」
「救いはないのかよ!!」
むしろ最終通告だった。
「元気な孫を産んでくれ!!」
「くそ、親父!!!!!」
仮にも相手は皇帝陛下なのだが、罵倒しても嬉しそうにニコニコするだけなので、最早気にしても無駄である。
「頑張れ!」
嬉しくない励ましである。
今更、番のことを知ったところで逃げられない。番化が終われば身体への負担が減るため、起きていられる時間は元に戻るらしい。
それだけが朗報だった。
もっと、たくさん話を聞きたかったけれど、残念ながら睡魔に襲われたイーリオは、抗えずに寝台へと沈む。
「亡きアレスや、エストール同様、君もまた私の息子だ。それだけは変わらないのだと、どうか覚えておいておくれ」
慈悲深い皇帝陛下は、目元を潤ませて、イーリオが眠りに落ちるのを見送った。
イーリオが次に目覚めた時には、エストールに腕を嬲られた。羽織っていたバスローブなど早々に投げ捨てられ、ひたすら愛でられる。
嫌悪感も抵抗もなく、エストールのもたらす行為を当たり前のものとして受け入れている己に、イーリオは違和感を覚えることもない。あるのは一抹の寂しさだ。
「………番の話、俺はお前の口から聞きたかったよ、エル」
「私だって自分で説明するつもりだったさ」
疲労を滲ませて嘆息する様すら色っぽく見えるのは何なのか。
「せめてお前も脱げよ」
「それは出来ない。我慢ができなくなる。もう少し辛抱してくれ」
小さい子供を宥めるように、エストールは触れるだけのキスをイーリオの額に贈る。擽ったくて、温かくて、まるで心が解けていくような感覚に、イーリオの唇から艶のある吐息が零れる。
番の話を聞いても、男として生きてきた間の常識が邪魔をする。子供とか言われても、今ひとつピンと来ない。理解が追いつかないだけで、不思議と嫌悪感はないのだ。それが答えなのだと、イーリオはようやく気づく。
もしかしたら洗脳されたのかもしれない、毒されたのかもしれない。そうだとしても何か不都合があるだろうかと自問した結果、イーリオからエストールの頭に唇を寄せた。
イーリオの左脇に顔を埋めようとしていたエストールは、弾け飛ぶように顔を上げる。見開かれた両目に、幼い頃の名残を見つけたイーリオは顔を綻ばせ、エストールの鼻に小さなキスをした。
「もう隠し事はない?」
「ある、けど………、え?」
取り繕うこともできないくらいに驚いて。一拍間を置いてから、エストールの瞳は涙で滲み始めた。
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