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本編
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しおりを挟む幸せの定義は人それぞれだ。
ダニエル様の絶望した表情を見て、私は彼にとっての幸せの条件を考える。純粋にリースを愛し、彼女と共にあれれば、どんな立場だろうと幸せ!…というわけではなかったようだ。
家の為の婚姻──貴族の義務──を嫌がりながらも、自身の生まれ持った地位は手離したくなかったらしい。義務を果たさず権利だけ受け取りたいなんて都合がよすぎる。その権利を維持する努力をせず、美味しいところだけ欲しいということではないか。
こんなバカと結婚せずに済んで良かった。心底そう思う。いくら政略結婚が貴族の義務とはいえ、不良物件と結婚した挙句、持て余したりしたら両家の不利益になりかねない。不利益になれば、その政略結婚は失敗。単なる無駄だ。家門のための結婚だからこそ、家門のために回避する必要があった。だからこれは貴族として当然の判断である。
と、理論的なことはさておき。
ザマァミロ!と彼の絶望に満足する私は大変性格が悪い。
リースの幸せは、ダニエル様に愛されることだったのかもしれない。哀れな花嫁姿の彼女は見るに堪えない。
そもそも他人の婚約者に愛されたいと望むところからおかしい。しかも、愛されていると思いきや、その愛はあまりにも浅く、一瞬で失われたようだ。
果たしてそれは本当に愛だったのだろうか。相互に成り立たないなんて、あまりにも独りよがりだ。
私の幸せはなんだろう。
「マリエル」
「お待ちしてましたわ、ミシェル様」
新しい婚約者のミシェル様はお忙しい中、合間を縫って会いに来て下さる。それも毎回お花やお菓子をプレゼントしてくる。思い返せば誕生日ですらダニエル様から何かを頂いた覚えがない。
家を守ること。家族を守ること。義務であり、私の幸せ。もちろん、私自身を含めて、だ。
まずは信頼から。次第に愛となればいい。
「お茶をご一緒する時間はありまして?」
「もちろんです。その為に駆けつけたのですから」
リースのウェディングドレスを売ったお金はすぐに底を尽きたらしい。
当然だろう。平民としての生活がダニエル様にできるとは思えない。
「マリエル!マリエル!お前が俺をそんなに愛してたなんて知らなかったよ!」
門扉の柵にしがみついて騒ぐ男に私は嘆息する。
「マリエル!そろそろ許してくれ!あの女とは本気じゃなかったんだ!」
ますます最低なことを叫んでいる。どうしたものか、と考える私の手にミシェル様の手が重なる。温かい。エスコートもろくにしなかったダニエル様の手の温度など、私は知らない。
「ちょっと、ゴミ掃除してきます。貴女はここにいて下さい」
ミシェル様の笑顔は時々怖いが、頼もしい。私は頷いて彼を見送った。
数分後には静かになった。
私の人生における、ダニエル様は、静かになった。
………ミシェル様が何をしたのかは知らないままでいいと思う。
[完]
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