4 / 4
オマケのケイゴ
しおりを挟む飯田と休みが重なって八重子は久しぶりに喫茶店に入った。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
職業病とでも言うのだろうか、床のワックスが所々剥げていることとか照明器具の上に埃があることなどに目がいくようになった。
飯田は八重子に痩せましたね、心労からですか?と言いにくそうに尋ねた。
八重子は笑いながら、仕事に出るようになったからですよ、と答えた。
八重子は飯田に現状を話しながらコーヒーに角砂糖を沈めた。角砂糖は茶色く染まって端からサラサラと崩れていく。
「もしかしたら菜摘が進学する頃には離婚するかもしれません。」
八重子は真っ直ぐな目をしてそう語った。
「菜摘ちゃんは大丈夫ですか?涼華の話だといつも朝早くから勉強して家でもしてるみたいって。」
「菜摘は佑みたいに自分を追い込んでまで勉強しませんよ。大丈夫です。」
飯田はおずおずと話しだした。
自分は涼華が小さい頃離婚して寂しい思いをさせたとか、別れた旦那が養育費を振り込んでくれなかったとか、苑田の事で力になれなかったなど、話すごとに萎縮していった。
「飯田さんが写真をくれたおかげでもう覚悟は決まったんです。どうもありがとうございます。」
八重子はここは私に出させてください。
そう言って2人分の会計を済ませて店を出た。
六郎は仕事を終えて苑田の家に来た。苑田の家は入居者8名ほどの小さな安アパートで旦那さんが亡くなってからここに住んでいる。
六郎は呼び鈴を鳴らし、苑田の名前を呼んだ。しかし人の気配はない。
隣の住人がひょっこり顔を出した。
「苑田さんなら引っ越しましたよ。」
「引っ越したってどこに?!」
六郎は声が大きくなる。
「鹿児島だったかなぁ、福島だったかなぁ?」
六郎は苛立ちを隠せない。
「もう身内もいないし好きに生きたいって言ってましたね。」
そう言って隣の住人は家に入った。
六郎はスマホを握りしめながら走った。苑田が居なくなった。それは六郎にとって致命的なことだった。六郎は公園まで走って苑田に電話をかけた。
「この電話番号は現在使われておりません。」
ガイダンスが流れる。
「めぐみぃぃぃ!!」
六郎は苛立ちながら、月を眺めた。
こんなときに何だが月が美しく、死んでも良いわを思い出した。
そして苑田は居なくなった。
20
お気に入りに追加
32
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)




英雄の帰還。その後に
亜桜黄身
BL
声はどこか聞き覚えがあった。記憶にあるのは今よりもっと少年らしい若々しさの残る声だったはずだが。
低くなった声がもう一度俺の名を呼ぶ。
「久し振りだ、ヨハネス。綺麗になったな」
5年振りに再会した従兄弟である男は、そう言って俺を抱き締めた。
──
相手が大切だから自分抜きで幸せになってほしい受けと受けの居ない世界では生きていけない攻めの受けが攻めから逃げようとする話。
押しが強めで人の心をあまり理解しないタイプの攻めと攻めより精神的に大人なせいでわがままが言えなくなった美人受け。
舞台はファンタジーですが魔王を倒した後の話なので剣や魔法は出てきません。

すれ違い片想い
高嗣水清太
BL
「なぁ、獅郎。吹雪って好きなヤツいるか聞いてねェか?」
ずっと好きだった幼馴染は、無邪気に残酷な言葉を吐いた――。
※六~七年前に二次創作で書いた小説をリメイク、改稿したお話です。
他の短編はノベプラに移行しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる