クズな俺たちの性夜

ひづき

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いち

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「イベント用の女が欲しい」

 ファーストフード店の年季の入った冷たいソファ。向かい側に座る幼馴染の呟きに、ミツルはすぐに反応出来なかった。

「───イベント用って何?つまり、どういうこと?」

 ミツルは専門学校生で、幼馴染のケイゴは大学生。救いはお互い地元に留まっているという点だろうか。

「つまり、クリスマスに向けて一緒に過ごす、取り敢えず形だけの恋人が欲しい」

 ケイゴは高校までバスケをやっていただけあって背も高く、体格もいい。それこそ昔から彼女が絶えない男だ。別れるのも早い。来るもの拒まず、去るもの追わず。告白されたら付き合うけど、何か思っていたのと違うとか言われてフラれるらしい。

「へー、あのケイゴがフリー?珍しいね。大学で食い散らかしてるのかと思ってたよ」

「ぅーん、なんつーか、男女問わず大勢でわいわいするのが楽しいって感じが多くてさ、特定の誰かとっていう雰囲気にはならないんだよ」

 怠そうに姿勢を崩しながらケイゴは冷めたポテトを口にくわえる。億劫そうに咀嚼する姿に、ミツルは溜め息を飲み込んだ。

 ミツルは生まれてこの方、恋人というものがいた事がない。気づいた時にはケイゴのことが好きだった。気づいた以上、他の誰かと、例えそれがお試しであっても友人以上になる気にはなれず今に至る。別に同性が好きなわけではなく、ケイゴが好きなだけ。それなのにミツルは何故か男にナンパされることが多い。解せない。どうせなら女にモテたい。いや、嘘だ。ケイゴにだけモテたい。

「よくわからないけど、そういうもん?」

「特定の誰かと誰かがくっついて集団の空気や雰囲気を壊すのは躊躇われるっつーか。そういうもん。隠れて付き合ってんのはいるけど、そこだけバレバレ」

「ふーん…」

 改めて聞いても正直よくわからない。なにせミツルには大勢で集まるような友人などいない。友人はいるが、個を好む者しかおらず、集まって騒ぐという発想に至らない。至ったところで、集まろうぜ!と主導権を握る者もいない。いつでもいい、どこでもいいという譲り合いばかりで何も決まらない。幼少期を思い出しても、いつもケイゴに引っ張られ、連れ回されていた覚えしかない。

「イベント用の恋人って何をするの?デートだけとか?」

「いや、まさか。普通の恋人と一緒だよ。ただお互いイベントを1人で過ごさずに済むように付き合っているだけっていう前提があるから、大体すぐ別れるけど。盛り上がればヤるし、気が合えばそのまま付き合うし。セフレよりも恋人寄りだけど、マジの恋人より軽いっていうか」

「聞けば聞くほどわからない」

 そんな都合の良いニッチな関係が世の中に存在するのかと疑う視線をケイゴへと向ける。

「クリスマスに1人は寂しいだろ?でも本気の恋人はそう簡単に期日までに見つけられない。そういう寂しがり屋同士で寄り添って、乗り越えたら、ばいばい」

 そこにあるのは、お互い様、という前提条件だ。お互いにイベントを乗り切る為の相手が欲しいだけ。どちらも初めは本気じゃない。

 クリスマスに大好きな人が隣にいないことを、寂しいと思う、そんな気持ちはミツルの中でとうに埃をかぶっている。お互いの家でクリスマスパーティーなんて、小学校低学年までしかしなかった。高学年になるとケイゴは地元の子供向けバスケサークルに所属して、クリスマスもサークルメンバーで集まるようになって。

 疎遠になりそうなものなのに、何故かミツルの誕生日だけは欠かさず祝いに来るし、バスケの試合は応援に行かないと怒るし拗ねる。一度ケイゴへの未練を断ち切りたくてイライラして、彼女を応援に呼べばいいと断ったら、怒って口をきかなくなった上に試合で怪我をして途中退場して、ミツルのせいだと八つ当たりされたことがある。大学生になった今はもう応援に呼ばれることもない。時々ファミレスやファーストフード店に呼び出されて、内容のない無駄話をする程度だ。

「ふーん、俺も募集しようかな」

 いい加減不毛だと、ミツルは目の前の男から視線を逸らし、窓の外を見た。クリスマスのイルミネーションに彩られた商店街は意外と活気に満ちている。

「募集?何を?」

「イベント用の、恋人」

 女とは言えなかった。一番一緒にいて欲しいのはケイゴだ。本当に未練がましい。

「─────」

 いいんじゃないか、とでも言われるだろうと思ったのに、ケイゴからの返答がない。不審に思って視線を戻せば、ケイゴは目を大きく見開き、口を開けたまま固まっていた。摘んでいたポテトが虚しく崩れ落ちる。

「ケイゴ?ポテト零してる。汚いなぁ」

 駅前で配られた広告入りのポケットティッシュを取り出し、差し出す。差し出したのはティッシュだったのに、何故かケイゴの両手で差し出した片手を包まれた。

「閃いた!今年は2人で過ごそうぜ!」

「……………は?」

「ちょうどいいじゃん!!」

 何も良くない!と叫べたら。

「いや、冗談───」

「場所は俺ん家でいいだろ?それともホテルとか予約するか?」

「ぇ、ちょ、」


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