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エピソード9-6
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森さんは、子ども慣れしているのか、しゃがんで汐音に目線をあわせて、
「はじめまして、私は森あかりです。お名前教えてくれますか。」
と、優しく話しかけてくれた。
私は、ハッとしながらもその様子を眺めた。
心に余裕が無いと、紹介さえできない状態らしい。
その点、森さんはそういうところに気が回るらしく、子どもにも丁寧な言葉使いをしてくれる気遣いもあるようだ。
なんとか頑張って自己紹介をしている。年齢まで伝えている姿が可愛らしいので皆がくすっと笑っていてしまったことが少し気になったらしいが、すぐに打ち解けた。
しばらく、ほほえましい光景が繰り広げられていた。
高橋さんは、何か言いたそうにはしていたのだが、言わずに他の方の子どもさんと戯れていた。
モリさんは、子どもが好きらしく、子どもの心を捉えるのがうまいようだ。
千草はキラキラ動くチャームに目が留まった。
黄緑色のステンドグラスのような柑橘系をモチーフにしたような、そんな形。
それに目を奪われて目線をあげた時、森さんと視線が交差した。
千草の予感があたっていれば、彼女は御幸の関係者なのだろう。
夫の知らない、小さな秘密を森さんと共有した気がして胸がチクッとした。
そのあと、外で誰かがお昼を食べる前に軽く挨拶をすると触れ回ったので、先に高橋さんと森さんが出ていった。その後を追うように、テントを出ようとした所、夫から連絡が来たので合流した。
その後、時折子どもたちと若い社員さんたちの交流があった。社長さんのはからいだという。
人見知りな汐音が自然と顔見知りになった高橋さんと森さんと行動するのは自然で、昔からの知り合いのように懐いていた。
夫はしばらく、やきもきしながらも千草のために食べ物や飲み物を持ってきてくれる。はた目には、良い夫に映っているだろう。
でも暫くすると、夫は片付けの係だから行ってくるといってその場から離れていった。
さっきまで夫が座っていたところに、二人が汐音を連れてきてくれた。遊び疲れて、少し眠そうだ。
そんなタイミングで、
『家に遊びに行く』
という約束がかわされ、なぜか承諾したことになっていたのだった。
最近の三人の時の週末は、何とも言えない空気でいっぱいだった。
逃げ出したくなってしまい、買い物へ行ったり汐音と近くを散歩してと、時間が過ぎるのを待っている。
「出かけよう」
とかそういうことも言ってくれなくもなった気もする。せいぜい、普段買わない買い物をする時か義家族と同行するときのように思う。
汐音が生まれてからは、よく覚えていない。
多分、子どものことが中心であっという間に過ぎた気がする。
そのあっという間の中で、夫が何回関わることがあったのだろうか。色々としてくれたようで、そうでもないようで。
とにかく、すべてが初めてづくしの毎日で気がついたら今を迎えていた。多分、若干産後うつとかだったのかもしれない。
義妹が察知して義母がフォローしてくれたから、今なんとかなっているようなものなのだ。
義家族にも夫にも少し申し訳ない気もあるのだが、私は今が精一杯なのだ。
なのでその延長で、夫も私を気遣い…そう気遣ってくれて、どこかへ行こうと言わなくなってきたのかもしれない。
夫の中ではいつまでも気を使う相手のままアップデートされないもどかしさ。
ただ千草もわかっている、歩み寄りはこの場合、自分のほうからもしなければならないことを。
私は言い及んでいるうちに、きっかけを逃してしまいそこに甘んじているのだ。
子どもが子どもでいる時間なんて、過ぎ去った後で振り返ればあっという間だろうに、そんなことに今、二人共がたどり着けていない。気がつく頃には、もう取り返しがつかない時間を費やすことも知らずに。
だから高橋さんや森さんが来たいという言葉はある種「蜘蛛の糸」のようでそんな誘いを流されるがままに
「佐々木がいいというんでしたら、ぜひに。」
と、『あの日』良妻ぶって了解したのだ。
匡尋が言っている話はそのことについてだった。
「はじめまして、私は森あかりです。お名前教えてくれますか。」
と、優しく話しかけてくれた。
私は、ハッとしながらもその様子を眺めた。
心に余裕が無いと、紹介さえできない状態らしい。
その点、森さんはそういうところに気が回るらしく、子どもにも丁寧な言葉使いをしてくれる気遣いもあるようだ。
なんとか頑張って自己紹介をしている。年齢まで伝えている姿が可愛らしいので皆がくすっと笑っていてしまったことが少し気になったらしいが、すぐに打ち解けた。
しばらく、ほほえましい光景が繰り広げられていた。
高橋さんは、何か言いたそうにはしていたのだが、言わずに他の方の子どもさんと戯れていた。
モリさんは、子どもが好きらしく、子どもの心を捉えるのがうまいようだ。
千草はキラキラ動くチャームに目が留まった。
黄緑色のステンドグラスのような柑橘系をモチーフにしたような、そんな形。
それに目を奪われて目線をあげた時、森さんと視線が交差した。
千草の予感があたっていれば、彼女は御幸の関係者なのだろう。
夫の知らない、小さな秘密を森さんと共有した気がして胸がチクッとした。
そのあと、外で誰かがお昼を食べる前に軽く挨拶をすると触れ回ったので、先に高橋さんと森さんが出ていった。その後を追うように、テントを出ようとした所、夫から連絡が来たので合流した。
その後、時折子どもたちと若い社員さんたちの交流があった。社長さんのはからいだという。
人見知りな汐音が自然と顔見知りになった高橋さんと森さんと行動するのは自然で、昔からの知り合いのように懐いていた。
夫はしばらく、やきもきしながらも千草のために食べ物や飲み物を持ってきてくれる。はた目には、良い夫に映っているだろう。
でも暫くすると、夫は片付けの係だから行ってくるといってその場から離れていった。
さっきまで夫が座っていたところに、二人が汐音を連れてきてくれた。遊び疲れて、少し眠そうだ。
そんなタイミングで、
『家に遊びに行く』
という約束がかわされ、なぜか承諾したことになっていたのだった。
最近の三人の時の週末は、何とも言えない空気でいっぱいだった。
逃げ出したくなってしまい、買い物へ行ったり汐音と近くを散歩してと、時間が過ぎるのを待っている。
「出かけよう」
とかそういうことも言ってくれなくもなった気もする。せいぜい、普段買わない買い物をする時か義家族と同行するときのように思う。
汐音が生まれてからは、よく覚えていない。
多分、子どものことが中心であっという間に過ぎた気がする。
そのあっという間の中で、夫が何回関わることがあったのだろうか。色々としてくれたようで、そうでもないようで。
とにかく、すべてが初めてづくしの毎日で気がついたら今を迎えていた。多分、若干産後うつとかだったのかもしれない。
義妹が察知して義母がフォローしてくれたから、今なんとかなっているようなものなのだ。
義家族にも夫にも少し申し訳ない気もあるのだが、私は今が精一杯なのだ。
なのでその延長で、夫も私を気遣い…そう気遣ってくれて、どこかへ行こうと言わなくなってきたのかもしれない。
夫の中ではいつまでも気を使う相手のままアップデートされないもどかしさ。
ただ千草もわかっている、歩み寄りはこの場合、自分のほうからもしなければならないことを。
私は言い及んでいるうちに、きっかけを逃してしまいそこに甘んじているのだ。
子どもが子どもでいる時間なんて、過ぎ去った後で振り返ればあっという間だろうに、そんなことに今、二人共がたどり着けていない。気がつく頃には、もう取り返しがつかない時間を費やすことも知らずに。
だから高橋さんや森さんが来たいという言葉はある種「蜘蛛の糸」のようでそんな誘いを流されるがままに
「佐々木がいいというんでしたら、ぜひに。」
と、『あの日』良妻ぶって了解したのだ。
匡尋が言っている話はそのことについてだった。
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