煙の向こうに揺れる言葉

らぽしな

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エピソード6ー4

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実のところ母と妹の影響で、活発過ぎる女性を少々苦手に思っていた。学士時代に似たような女性と付き合ったが、トラウマなのか長続きしなかった。

だから、千草を初めて見てその雰囲気や佇まいをみて心を奪われたのは本当に運命だと思った。
他の受付の人は、謙虚の中にも隠しきれない何かを醸し出していて、苦手だったのに妻は最初から視線も少し外し自分を押し殺していた。
そういうところに好感をもつと、受付対応をされる度に心を奪われていった。

就職して、父の勤め先が取引先だと分かった時はこの会社に来るのが億劫だったのに、この出会いのためだと思うとなんだか嬉しくなったのを覚えている。

父も、結婚をするときになって
「匡尋がもし結婚するなら、「こんな子がいいな。」と思っていたから、お前から言ってきたんでびっくりした。」
と言われた。

だから、場を作ってほしいという申し出にも快く引き受けたらしい。
そういうわけで、僕自身も家族も妻のことを本当に大事にしている。

だから、子どもができたと報告した日。母だけじゃなく父も何故か泣いた。
その姿を見て、僕ら夫婦と妹のほうがとても冷静にいた気がする。
なんだか、つい先日のことのようだ。
子はかすがい、というがずっと距離があった両親が急に元に戻ったようで何かと時間をあわせられるときに何を送ろうか画策してるらしい。

だから、汐音の部屋はおもちゃ箱のように生まれる前から物が占領していた。
その立ち位置から、父は僕のことをどう思っているのだろう。

きちんと夫に、親になっているのだろうか。

正直、今は大事にしすぎてる気もする。
母と妹からすればダメらしいことも妻が大丈夫だというので、世間のボーダーがよく分かってない。
夫という役割を、既婚者から探っているがその行為より少し踏み込んで手伝っている。

好き嫌いはほぼないから、ご飯は何でもいいしお金の負担をかけたくないから現金とカードと両方渡してあるし、買い物を頼まれれば重いものはネットで注文しておくし。不自由はないはずだ。

だけど、匡尋は一瞬だったけれど僕と汐音が喜んでいる姿を悲しそうな目で見ていた、妻の姿を視界の端で捉えてしまったんだ。

彼女には不満がある。
でも優しい彼女はその不満をため息とともに飲み込んで、気づいたときには出会った頃と同じ笑顔で
「晴れるとイイね。」
とてるてる坊主を眺めていたんだ。






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