煙の向こうに揺れる言葉

らぽしな

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エピソード9ー2 

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あのチャームから目が話せなかったのは、BBQの数日前にから突然電話があったからだった。

見覚えのない番号の電話だったが、1回数コールされてから一度切られ、再度すぐにコールが鳴ったので何か急用な件がある電話かと思い出た。

「はじめまして、御幸と申します。」

そう名乗った声は、イケメン役の声優さんのようなさわやかな声だった。
思ってもいなかった優しい声。
今好みのあの俳優さんが、この声で目の前で話してくれたら、夫への愚痴がとめどなく溢れてしまいそうな、本当に聞き心地のいい声。

あのビルの部屋で会うはずだった相手からの電話は、千草が忘れそうになっていた頃にかかってきたのだ。

あのビルで、少年のような人が、煙草の山になった吸殻しか思い出せないような部屋で

「ライムいないから、とりあえずここで話を聞くから、それ書き終わったら言いたかったこと言って。」と、座るなり促された。

お湯といっしょに、ペンとメモがあった。受付メモらしく簡単に住所欄などだけの用紙。そこで電話番号も書いたから電話がかかってきたのだろう。

タバコが目に入ったから、タバコのことから言い始め、最近、子どもの事以外で他人と話すことがないので、要点がまとまらないが、自分の言葉で考えを話した。
自分のこと夫婦間のこと、悩みというより不満に近いことを少しずつ吐露していった。なんだかそれだけで少しスッキリしたような気がした。

その間少年はずっと、タイピングしながら聞いていた。
話し出して5分も経たないうちに喉が渇いた。
興奮していた自分がいた。普段にはないシチュエーションだから。

どうやらその話をしている間、千草の言うことを何かの媒体を通じて聞くか伝わっていたらしく、一通り話し終えると
「ライムがね、面白そうだからちょっと方法を考えるってさ。」
と言っいながら近づいてきて受付メモを持って行った。
「え、面白そう?」
「まあ、ここに居ないけど今伝わっているから。」

「ああ、そういうこと…。」
「とりあえず、面談はここまで。」
そんなやり取りをしてあのビルを後にした。

それからの初めてのアポイントがこれだった。
「で、どうされますか?」
と言われ現実に引き戻された。

こちらの同意次第で話を切り出すらしい。
「心境に変化があるなら、追加で聞きますのでよかったら事務所までお越しを。」
何か見透かされた気がした。

時間帯もまだ早いしその日は義母も義妹も来る予定がなかったし、何より会って話してみたかったので二つ返事で出かけた。

前回訪れているからビルに到着しその部屋のドアをノックをするまでが、格段と早かった。
「どうぞ。」と招き入れてくれた男性は、声とよく合った風貌だがこの前見たたばこの山からは想像もできない容姿で、千草は好きではないタイプだが、広く好感をたれそうなスラッとしている。

昔、小説に出てきたルポライターの青年役が似合いそうだとも思った。



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