煙の向こうに揺れる言葉

らぽしな

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エピソード2-1

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佐々木夫妻は5歳ほど年の差がある。

恋愛結婚ではない。かといって、マッチングとかお見合いということでもない。
夫の匡尋が営業の担当になった会社の受付の女性だったのが千草だ。

千草に対して夫が一目惚れしたのだった。

たまたま、義父が部長として働く会社の系列のビルだったので、社会人になって初めて義父コネを使い場を設けてもらい告白してきたのだ。突然一介の受付担当の自分が呼び出されたので、驚いたのを覚えている。

千草にとっては、当初はよくわからない相手。
普通に答えを出せる人もいるくらい、夫はスペックは良いほうなのだろう。
なんで呼び出されたのか、接客合間にしつこく聞かれたとき、同僚が羨ましがっているのを覚えている。

ただ千草は
「考えさせてください。」
という言葉を最初に伝えた。

それを聞いた夫のなんとも言えない表情はぼんやりと覚えている。
実は嬉しくなかったわけではない。
自分の生い立ちのことを考えると、こんなふうに見初められるなんて思いもしないことだったから、どちらかというとただ驚いてしまったからだ。

そこかでこんな自分なんかに…という、そんな感情が先立ち一瞬心此処にあらず的な感情に支配されてしまい、少し考えたいと思ったことがそのまま言葉に出てきてしまった。

その気持を軟化させて、何度かデートに誘われ続け半年くらいかけてよっやく承諾をしたのだから、好きの度合いは夫のほうが大きい。

真剣な態度や、時折会わせてもらった義家族とのことを経て、自分にできることはしてあげたいと次第に思うようになり、出会って1年半後何とか結婚するところまでになったのだ。

すれ違い。

誰にでも起きうるその出来事に、佐々木夫婦も簡単に巻き込まれていった。
価値観の違いは生まれ育った差異にちょっとずつ足されていくらしい。

そのなかで最近千草が特に気になりだしたのが「タバコ」だった。
原因は簡単で、夫が喫煙者だからだ。

義父もかつて吸っていた時期があったそうだが、千草と知り合った頃にはすでに喫煙歴2桁に達していたらしい。

結婚前は受付担当として働いていたが、今は専業主婦だ。
夫の希望だったのだが、なんとなく義家族の希望のように今では思っている。

少し夫の話もしよう。

長男サガなのか、どうも夫は長男なのにというか長男だからこそなのか、義家族の中で立場が一番下のように扱われているフシがある。

一人っ子ではなく、義妹がいる。
多分、義家族の中で一番義妹が強いのだろう。

結婚してから尚の事、なぜだか夫はよく義母と義妹に叱れられているのを見かける。
「千草さんごめんさいね、私が甘やかしたばっかりに。」
「お義姉さん、兄さん気が利かなくてごめんね。」
と、こんにちまで何回言われたかわからないくらいだ。

付き合いだした当初、結婚してからも夫は働いているし家ではこんなものだろうと思っていたことが二人にはなにか足りないようで、くどくどと叱られてはシュンとしてタバコを吸いに逃げてしまう。

そのせいもあってか何となく逃げ癖が付いてしまったからなのか、家に二人でいても話す機会が減りだし、そうするときっかけを模索すればするほどドツボにはまり、出張や繁忙期が重なると1週間で一言二言で終わってしまうことが増えだした。




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