聖獣様は愛しい人の夢を見る

xsararax

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17 新しい日々

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すみません、15話が抜けていました。
お手数ですが、よろしくおねがいします。


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 シスイはレヴィンとともに学園の事務局のドアを潜った。その首には真新しい銀色のタグが下がっている。そのタグの表には『シスイ』裏には『レヴィン』と掘られている。

「三年魔術科のレヴィンです。使い魔の登録に来ました」

 担当の教師に挨拶をすると、教師は驚きながらもにこにこして頷いている。

「良かったですね。かわいいですねえ。犬……じゃないんですよね?」
「わふ!」
「あ、はい。譲ってもらったんですが、犬でもないし魔法も使えるんだそうです」

 触っても? と断ってから教師はシスイを撫でた。

「大きいですね。今寮は三人部屋でしたよね? うーん、入りきれるかな」

 それを聞いていたほかの教師が横から話しかけてきた。

「君は転科を希望していたな? ちょっと待っていなさい」

 と調べに行き、書類を持って戻ってきた。

「希望が通ってるよ。騎士科の三―A組に変更された。学科の試験が良かったんだろう」

 Aクラスは優秀な者が入れるクラスだ。確か第一王子のリーンハルトと側近のルーク・ラットンもいたはずだ。
 レヴィンは目を輝かせて喜んだ。

「ちょうどいい。騎士科の寮に移るといい。三百五号室が空いている。大きな使い魔がいるならひとり部屋のほうがいいだろう」
「手続きはやっておきますから、引っ越しをしに行くといいですよ。あとで必要な制服や教科書を購買で買ってください」
「はい! ありがとうございます!」

 頭を深く下げ、軽い足取りでレヴィンは今の部屋に戻っていった。





 部屋に入りきれないシスイは廊下で待つことにした。中には同室者が二人ともいて、ちらりとこちらを見たが興味なさげだ。嫌われてはないが、実技で落ちこぼれ、暗くてつきあいの悪いレヴィンには興味もない。
 レヴィンはおずおずと口を開いた。

「あ、あの……僕、転科したので寮を移りますね。今までありがとうございました」

 ベッドに寝ころんで本を読んでいたほうは聞こえなかったのか反応がなかったが、勉強をしていたほうは「あ、そう。広くなるね。バイバイ」と返事をした。
 手早く少ない荷物を片付け、廊下に出る。待っていたシスイを連れて寮を移動した。


 引っ越し先はそれほど広くないひとり部屋だった。ベッドと机とタンスがひとつずつある。それを見たシスイは、収納からカーペットと自分用のソファを出した。
 はっきりとシスイの魔法を見ることができたレヴィンは歓声をあげた。ネームタグを収納したときはよく見えていなかったのだ。

「わあ、すごいね! ほかに何ができるの?」

 シスイは得意げな顔をしながらもうひとつ小さなテーブルと椅子を出し、さらにその上に串焼きとジュースを出した。そしてジュースに魔法で作った氷をコロンと入れる。
 珍しい『収納』そして『氷』の魔法にレヴィンは感心しきりだ。

「僕どっちも初めて見たよ。シスイはすごいんだねえ! こんな僕にはもったいないよ。ほんとに良かったの?」

 シスイはペロリとレヴィンの手を舐めた。それから鼻で串焼きの皿を押した。

「ありがとう! 頂くね」

 今日外に出ていたレヴィンは昼食を抜いていたのだ。夕食まで、これで空腹が凌げそうだ。

「あっ! シスイは何を食べるの? 人間のものでも平気?」

 シスイは少し考え、首を振った。レヴィンに余計な出費をさせたくない。街でまとめ買いをしておこう。

(ジルなら喜んでごちそうしてくれそうだ。たまには行こうかな)

 心配そうなレヴィンに、シスイは尾を振って応えた。反射的に手が自然とシスイを撫でまわす。ふかふかでいい気持ちだ。シスイもうっとりと目を細めている。
 結局、その日はレヴィンが食堂に行っている間に街に出て、必要なものを買いたした。主に食料品だ。それからやすらぎ亭で夕食を食べた。
 ついでにシャワーを浴びて戻ったシスイは、自分のソファで眠った。レヴィンはいろいろなことがいっぺんにあったことや、明日からの期待と不安でしばらくベッドでもぞもぞしていたが、やがてすうすうと寝息をたてて眠っていた。






 あくる朝、昨日購買で買ってきた騎士科の制服に身を包み、鞄に新しい教科書を入れ、緊張と希望で固くなりながら寮を出た。もちろんシスイもいっしょだ。使い魔は連れて行っても行かなくてもいいのだ。

 三―Aクラスの入り口で、レヴィンは一度深呼吸し、教室に入っていった。シスイは大きすぎるからと、教室の一番後ろに行き、クッションを出してそこで勝手にくつろいでいる。クラスメイトは興味深そうに、そんなレヴィンとシスイの様子を伺っている。
 シスイに近い一番後ろの席についたレヴィンに、前に座っていた生徒が話しかけてきた。

「君転科してきたんだって? 使い魔までいるのにどうしてだい? 君の使い魔かわいいね! あとで触ってもいい?」

 矢継ぎ早な質問に、レヴィンは順番に答えた。

「シスイが嫌がらなければ触ってもいいよ。転科したのは魔力はあるのに魔法が下手で悩んでたら、ある人に騎士科を勧められたから」
「へえ! そういうこともあるんだねえ。俺ネージュ。よろしくね」

 人の良さそうな、明るい笑顔でその男の子は自己紹介してくれた。ミルクティ色のふわふわ巻き毛のかわいらしい子だ。でも騎士科なのだからきっと強いんだろう。優しく声をかけてくれる人がいて、レヴィンはずいぶんと心強かった。

 そのとき、前のドアからリーンハルト・アングレア第一王子と、側近のルーク・ラットンが入ってきた。挨拶を受けながら前のほうの席につく。
 レヴィンはしばらくネージュと話しながらそっと王子のことも観察した。金髪で、甘く艶やかな美しい面差しの王子は、美丈夫で知られた初代国王を彷彿とさせる。
 そんなことを考えているといつの間に一時限目が始まっていた。授業の内容は共通点が多く、大丈夫そうだ。


 次は問題の実技の授業だ。親切なネージュがいっしょに演習場に行ってくれてレヴィンはありがたかった。ネージュもシスイに触れてうれしそうだ。しかし初めての騎士科の実技の授業。レヴィンは緊張していた。

「君が転科してきたレヴィンか」
「はい」
「剣はやったことがあるのか?」
「いいえ、ありません……」

 教師に聞かれ、レヴィンは不安そうに返事をした。商人の子供なので剣は持ったことさえない。教師はシスイに目をやり、さらに質問してきた。

「あれは君の使い魔か。使い魔がいるなら魔術科に在籍していたほうが良かったんじゃないのか?」

 その言葉で、さっきは気づいていなかったリーンハルト王子もシスイに注目する。とたんに目を瞠ったと思うとすごい勢いで近づいてきた。

「リーンハルト様!」

 ルークが慌てて追いかけている。それを無視してレヴィンの前まで来た。

「君、転科してきたのか」
「は、はい。そうです」

 緊張して噛まないで答えるのが精一杯だ。

「君、この犬が君の使い魔というのは本当か。名はなんだ」
「シスイと申します、殿下」
「なにっ!? それは君がつけたのか?」

 リーンハルトはレヴィンの肩を掴んだ。レヴィンは怖くなって震える声で返事をした。

「い、いいえ。譲りうけたときにはもうシスイという名前でした」
「リーンハルト様! どうなさったんですか」

 リーンハルトはルークに答えることなく、シスイの前に跪いた。
 そしてシスイに何かをささやき、わふと言われて満足したリーンハルトは、素早く立ちあがった。

「授業を中断して申し訳ない。勘違いだったようだ。そなたもすまなかったな」

 と、リーンハルトは凛とした声で謝罪をした。教師は咳払いをし、授業を続ける。

「では二人一組になれ。レヴィンは私が教える」

 教師は最初は初心者のレヴィンに教えてくれるようだ。剣の持ち方、構え方、振り方などを指導し、そのまま素振りをするようにと言い残してほかの生徒のところを回りはじめた。
 最初の一週間は素振りをさせられ、それからだんだんと技を習っていった。確かにレヴィンには剣術のほうが向いていたようで、めきめきと力をつけていった。

 レヴィンにとっては困ったことに、たまにリーンハルトがシスイを構いに教室の後ろにやってくるようになった。シスイのほうは何やらリーンハルトに懐いている。
 その上、リーンハルトはレヴィンに根掘り葉掘り質問してくるようになった。両親の名前まで聞かれたときは不思議で仕方がなかった。

 リーンハルトが来ないときはほかのクラスメイトたちがシスイを触りに来た。シスイのおかげで友人が増え、順風満帆なリスタートとなった。それを見ているシスイもうれしそうだ。





 いっぽう、シスイはリーンハルトにばれてドキドキだった。

『その紫の瞳、聖獣シスイ様ですよね? 肖像画がございます。今度はその者、ですか?』

 リーンハルトに耳元でささやかれた内容である。同じ教室に王子がいることを知って、覚悟はしていたが美形の王子の迫力に押され気味になってしまった。
 あの肖像画のせいで何度こんな目にあったことか。しかし、一枚しかない大事なユークリッドの肖像画だ。それをどうこうするつもりはない。いや、実は使っていない携帯を収納に入れておいて、肖像画の写真を撮りに行き、保存して印刷していたりする。

 シスイに気がついたリーンハルトはレヴィンが王族であるのも気がついたようだ。レヴィンのことを調査している。幸いにして、好奇心だけで悪い感情は持っていないように見える。
 だが第一王子の自分よりレヴィンを優先したことは、喜ばしいことではないに違いない。そのことも踏まえ、レヴィンの次に大事にするという態度を示しているシスイの意図を、リーンハルトは理解しているようだ。
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