聖獣様は愛しい人の夢を見る

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5 冒険者ギルドに行こう

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(あ、あれ。このカンジ)

 今まで何をしていたのかわからない。慧吾は身体を起こして自分の身体を見た。

(またーーーーっっ!!??)
「わっふぅーーっっ!!??」

 また犬。そして道端の草むら。

(ど、どうしてまた……。それにここはどこ? イーダンじゃない。ユークリッドは??)

 きょろきょろ見回すと幸いすぐ近くに関所が見える。中に入れるか関所に行ってみることにした。
 関所には衛兵らしき男が数人立っていて、人々が門の前に並んで待っている。
 簡素な麻のような素材のシャツとズボンの人、もっと上等な生地で上着もきっちり着ている人、武装している人などがいる。

 シスイは一番最後に並んでいた上等な服を着た人にこっそり近づき、その人の馬車の荷台に飛びのった。そして沢山乗っている木箱の影に隠れた。幸いなことに有名な商人だったらしく、すんなり通ることができた。

 しばらくして荷台から顔を出してみると、賑やかな街並みが見えた。大きな王宮がその街並みの向こうにある。
 この馬車の通っている道は広く、両側に家や商店が立ちならび、その前を忙しなく人が歩いている。パンや惣菜を持っている人もいて、いい匂いが漂っていた。

(いい匂い。夕食前に来ちゃったからお腹空いたー。こっちは見た感じ朝なんだな)

 角を曲がる前の、少しスピードが落ちたところでシスイは荷台から飛びおりた。周りの人は急に犬が飛びだしてきてぎょっとしている。

(驚かせてごめん!!)

注目を浴びたくなくて、シスイは慌ててその場から逃げだした。
 どうにか人通りの少ない路地に入ることができた。奥に行くとカーブになっていて表からは見えない。

(ユークリッドのことを聞きたいから人化したほうがいいな。収納の中の着替えを先に出して……『人化!』)

 身体が淡く光り、四つん這いの人型になった。……次はせめて座ろう、そして光が収まる前にすっくと立とう、と決意したのだった。
 心配していた洋服は、犬になる前の慧吾のものを着ていてほっとした。首から下げたネームタグもそのままだ。

「おお俺だ! 服もちゃんと着てるじゃん。なぜ着てるかは深く突っ込むまい」

 着替えを収納に片づける。今の服装は普通の長袖シャツとチノパンだ。これは早々に着替える必要があるだろう。しかし手持ちがない。慧吾は収納パネルを開いてみた。

「うーん……シスイのおもちゃばっかり……あと拾ったのと狩ったまんまの魔獣……魔獣って売れたりしないのかな」

 慧吾は周りを覗いながらそっと路地から出た。ちょっとした広場がそばにあり、屋台が数軒ある。いい匂いがしてお腹が空いているのを思いだした。ふらふらと屋台に近づく。

「いらっしゃい! 魔牛串一本で銅貨三枚だよ」
「うぐぅ……。すみません、今持ちあわせがなくて。あの、あとで来るのでちょっと教えてほしいことがあるんですけど」

 屋台の主は胡散臭そうに慧吾を見た。目つきが悪くちょっと怖い。

「はあ? 何なんだよあんた。買わねえのかい」
「あの、魔獣ってどこかで売れるんですか?」
「魔獣? 魔獣ならそこの冒険者ギルドで売ってくりゃいいじゃねぇか」

 と、今度は面倒くさそうに指を指す。
 慧吾がそちらを向くと、すぐ近くに三階建ての建物があり、一階部分の大きく開いた入り口に、武装した男たちがいる。

「ありがとうございます! また来ます!」

 慧吾は頭を下げてその建物に急いだ。





 こそこそと覗いたら武装した男たちが数人中にいた。騎士のような鎧兜ではないが、革製や鉄製の胸当てなどをしてそれぞれ腰に剣を佩いていたり、槍や弓を手に持っていたりしている。
 騎士とはまた違う雰囲気に、怖くて気配を消しながらゆっくり入る。が! 残念ながら入ってきた慧吾を全員が振りかえって見ていた。

(ひ~~!! 見られてる!! テンプレくるの!?)

「おい! あんた!」

 固まる慧吾にカウンターの中の職員らしき男が声をかける。思わず肩がびくっとしてしまった。

「ハイ!」
「こっちだ」

 藁をも縋る気持ちで男の手招きに従い、武装した男たちに見られつつカウンターへ向かう。男は軽く眉間に皺を寄せて慧吾を見た。

「見ない顔だが初めてか? ……変わった服装だな。今日は依頼か?」

 案外普通のことしか聞かれずほっとする。

「あの、……魔獣を売りたいんですけど。ここで買ってもらえるって聞いてきました」
「魔獣? あんたが倒したのか? ……どこにある」
「あっ! 頼まれました! 俺、収納スキルを持ってて、それで知人に頼まれて運んできました」

 倒したと知られたらまずいような気がして慌ててごまかすと、職員の男は驚いた顔をした。

「なに、収納……? それでギルドに登録はしているのか?」
「いえ、冒険者ギルドには初めてきました」
「ふむ。では登録をせねばならん。俺はスヴェン。ギルド職員だ。まずはこの用紙に記入できるところだけ記入するんだ」

 用紙には名前、年齢、既往症、武器、特技などを書く場所があった。
 慧吾は名前欄に言いやすいよう短くした『ケイ』、年齢に『十八』、既往症・武器は空欄、特技に『収納』と書いた。収納はもう言ってしまったからだ。
 ほかに書けるとしたら氷魔法系だが、討伐クエストに行くつもりがないため書かなかった。

「ではケイ、簡単に説明するぞ。これはギルドカードだ。身分証明になるから失くすなよ」
「! ギルドカード……これが」

 感動に打ちふるえながら受けとる。薄い鉄製の板の表に名前とランクが書かれている。それに魔力を流して自分専用にする仕組みだ。

「依頼をするときや換金するときは、このカウンターにギルドカードを提出する」
「はい」
「冒険者にはランクがあって、Sが一番上、あとはAからEまである。最初はEだ。依頼を受けるときはあそこに貼っている依頼用紙から、自分のランク以下のものを選んで受付カウンターに持って行くんだ」

 と、スヴェンは依頼ボードと受付カウンターを示した。受付カウンターはいくつかあって、若い女性が座っている。慧吾は頷いた。

「ただし、依頼失敗が何度も続くと降格だ。場合によっては罰金も発生する。不正に達成しても同じだ。もし依頼を受けるつもりがあれば、二階には資料室もあるから見てみるといい」
「そうなんですか!? またあとで見にきます!」

「では魔獣の提出所に行くぞ」





 ドキドキしつつ、慧吾はスヴェンのあとについて行った。来たときには気がつかなかったが、隣にもう少し小ぶりの建物があって廊下で繋がっていた。
 中で作業しているのが見える。そこまで歩いて行くと、大柄で良く日に焼けた男が手をあげた。

「よう、新人かい」
「はい、ケイといいます。よろしくお願いします」
「こいつは解体師のトマだ。ケイ、魔獣をここに出せ」

 スヴェンの指定した場所に出そうと慧吾は収納を開いた。


「ブラックウルフは出してもいいですか?」
「ブラックウルフか。いいだろう」

 トマは顎をしゃくった。そう言われて慧吾は大きな黒い生きものを五頭、その場に出した。

「腹にいくつか傷があるな。得物はなんだ?」
「得物……槍? ですかね」

 アイスランスを何発か当てて倒したやつばかりなので槍でいいだろう。

「毛の状態はまあまあか。銀貨五枚ってとこだな」

 トマにそう言われたが、銀貨の価値がよくわからなかったので適当に頷いた。
 トマは小さな用紙に『銀貨五枚』と書いて慧吾に渡した。その用紙をさしてスヴェンが教えてくれる。

「これを持って受付カウンターに行くと換金してくれる。これは依頼じゃないからランクのポイントにはならないがな」
「はい、ありがとうございました」

 慧吾とスヴェンは連れ立ってギルドに戻った。そして受付カウンターにまっすぐ行き、受付嬢に換金してもらう。
 現金を得た慧吾は心底ほっとした。心細い思いをしていたのを助けてくれたスヴェンには感謝しかない。

「どうもありがとうございました! 助かりました」


「おう、またあとでな」

 スヴェンに頭を下げて慧吾はギルドを出た。まずは『衣』だ。





 ギルドの周囲には冒険者用の店が並んでおり、服屋もすぐに見つかった。

「いらっしゃい! 何がご入用で? おや珍しいお召しものですねぇ。他国からですか」

 店主が声をかけてきた。

「あ、はい。そうなんです。普段着を数日分と、小さいリュックを」

 全部で銀貨一枚に収まる範囲で買いものが済んだ。収納に下着類が入ったままだったのが幸いした。
 店主が見繕ってくれた服を試着室で着替えさせてもらう。そしてリュックを左肩にかけた。

 店を出た慧吾は、武器屋も覗くことにした。安い革の胸当て、ナイフ、剣帯ベルトを買った。銀貨一枚だ。これで冒険者ぽく見えるだろう。痛い出費ではあったけれど、慧吾はうれしくなった。

 次に薬屋にも入ってみる。大銅貨一枚の低級ポーションを一つ買っておいた。銀貨を渡すと大銅貨を九枚返された。ということは大銅貨が十枚で銀貨一枚だろう。

(そういえば俺ポーションって使ったことないな。聖獣のときは怪我してもすぐに治っていたかも。病気もしてない。んー? いらなかった? でも人に使うかもしれないしね)

 それから雑貨屋で水筒や生活必需品を大銅貨三枚で手に入れた。これも収納に入れっぱなしにしているものが多く、安く済ませられた。


「さっきの屋台に行かなくちゃ」

 先ほどの屋台のおじさんに、慧吾は今度こそ注文した。

「さっきはありがとうございました! 魔牛串三本下さい!」
「さっきのやつか。一本で銅貨三枚、合わせて九枚だ。魔獣は売れたのか」

 屋台のおじさんは目つきを和らげ、いくらか話しやすくなった。
 今度は大銅貨一枚を渡して銅貨一枚のお釣りだった。銅貨十枚で大銅貨一枚ということになる。

「はい! おかげで串が食べられます」
「そうかい。坊主は冒険者でやって行くのか? 稼いでまた来いよ」
「ありがとうございます」


 慧吾は広場に行って真ん中の水飲み場で水筒に水を汲み、王宮のてっぺんが見えるベンチに座って魔牛串を食べた。
 牛肉よりワイルドな臭いと味だった。でも癖になる味だ。一本のサイズが大きくて満足感がある。水を飲もうとして、あとで浄化してからと思い直した。

 服を着替え、お腹もくちくなり、余裕のできた慧吾は、胸のシスイのネームタグを無意識に握りながらこれからのことを考えた。
 前回呼ばれたときはレッドドラゴンが現れて危なくなったユークリッドを救った。また何かあるのではないだろうか。不安だ。きっと近くにいるはず。王宮まで行ってみようか。早く会いたい。無事な姿を見たい。さまざまな考えが去来する。


 まずは情報だ。慧吾はおもむろに立ちあがり、そして冒険者ギルドに資料を見に戻った。
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