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第5章 エピローグ
第24話 エピローグ
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古い記憶に想いを馳せているうちに眠ってしまっていたようで、目を覚ますと窓の外では日が傾き始めていた。
「目が覚めたか。何か食べるか」
アシュレイは眠った時と同じく、僕の手を握り締めたままだった。
黙って首を横に振る。いつからだろう、食べ物を口にしなくなったのは。アシュレイは僕の手を握り締めて苦しそうに「そうか」と呟く。
「夢を見ていたよ……君と出会った頃の、瑞々しく透明で美しい想い出を映し出すような……」
ごほごほと激しく咳き込むと、慌てた様子で立ち上がりドアの方を見たので、彼の服の端を掴んで引き留める。
自分でも、命の炎が燃え尽きようとしていることが分かったから。
「……君と過ごした日々は……まるで宝石のように輝いて……僕の眼に焼き付いて離れない……」
王として歩んだ三十年も、ヨウシアに王冠を譲り旅をした二十年も、城に戻って家族との時間を過ごした十年も。いつも傍にアシュレイが居て、僕に変わらぬ愛を捧げてくれた。
僕の顔を見て、アシュレイは力無く床に膝を立てて座り込むと、僕の手を両手で祈るように握り締め口付けた。何も恐れるものは無いように見えていた彼が、微かに震えているのが分かって、ぼんやりとしてきた意識の中で、顔を覗き込む。
「ああ……君の、そんな顔が見られるなんて……」
初めて出会った時、高慢で孤高で冷徹だと思った吸血鬼は、永遠を生きる彼にとってはほんの短い時間をただの人間である男を愛して、変わった。その命が失われることへの恐怖で、その美しい金の瞳に涙を浮かべるほどには。
アシュレイの頬を伝う一筋の涙を、僕は掬い取るだけの力が無かった。ただそれを見詰め、吐息を漏らす。
「これは涙ではない……これは瞳に焼き付いた美しい宝石のような日々の結晶が、お前への愛が、融けて滴になり、零れ落ちたのだ」
アシュレイ、君は、最期まで僕に愛の言葉を囁いてくれるのだね、そう思いながら、僕は今までの人生を振り返って、幸せを深く感じ、微笑んだ。
重くなってきた瞼をゆっくりと閉じる。温かい手が僕の髪を撫で、そっと額に口付けを落とした。
「おやすみ……ニコ。良い夢を……」
そう聞こえて、僕は彼の掌の温もりに安堵の息を吐いて深く、深く眠りに落ちていった。
「目が覚めたか。何か食べるか」
アシュレイは眠った時と同じく、僕の手を握り締めたままだった。
黙って首を横に振る。いつからだろう、食べ物を口にしなくなったのは。アシュレイは僕の手を握り締めて苦しそうに「そうか」と呟く。
「夢を見ていたよ……君と出会った頃の、瑞々しく透明で美しい想い出を映し出すような……」
ごほごほと激しく咳き込むと、慌てた様子で立ち上がりドアの方を見たので、彼の服の端を掴んで引き留める。
自分でも、命の炎が燃え尽きようとしていることが分かったから。
「……君と過ごした日々は……まるで宝石のように輝いて……僕の眼に焼き付いて離れない……」
王として歩んだ三十年も、ヨウシアに王冠を譲り旅をした二十年も、城に戻って家族との時間を過ごした十年も。いつも傍にアシュレイが居て、僕に変わらぬ愛を捧げてくれた。
僕の顔を見て、アシュレイは力無く床に膝を立てて座り込むと、僕の手を両手で祈るように握り締め口付けた。何も恐れるものは無いように見えていた彼が、微かに震えているのが分かって、ぼんやりとしてきた意識の中で、顔を覗き込む。
「ああ……君の、そんな顔が見られるなんて……」
初めて出会った時、高慢で孤高で冷徹だと思った吸血鬼は、永遠を生きる彼にとってはほんの短い時間をただの人間である男を愛して、変わった。その命が失われることへの恐怖で、その美しい金の瞳に涙を浮かべるほどには。
アシュレイの頬を伝う一筋の涙を、僕は掬い取るだけの力が無かった。ただそれを見詰め、吐息を漏らす。
「これは涙ではない……これは瞳に焼き付いた美しい宝石のような日々の結晶が、お前への愛が、融けて滴になり、零れ落ちたのだ」
アシュレイ、君は、最期まで僕に愛の言葉を囁いてくれるのだね、そう思いながら、僕は今までの人生を振り返って、幸せを深く感じ、微笑んだ。
重くなってきた瞼をゆっくりと閉じる。温かい手が僕の髪を撫で、そっと額に口付けを落とした。
「おやすみ……ニコ。良い夢を……」
そう聞こえて、僕は彼の掌の温もりに安堵の息を吐いて深く、深く眠りに落ちていった。
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