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番外編
番外編③ 秘められた真実④
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「じゃあ今日はスウードのこと話してくれよ。スウードのこともっと知りたいし」
「僕のこと?」
「そうそう! この間役人じゃないって言ってたけど、じゃあ何をしてる人なんだ?」
ルシュディーは目を輝かせて身を乗り出す。
「僕は王の従者をしていて──」
と、言ってから不味いと気付いて言葉を切った。従者が娼館に頻繁に出入りしているというのは、陛下の風評に関わるのでは。
「へー! すげーじゃん! 王様ってどんな人? この間お妃様を迎えたんだよな?」
さしてルシュディーは気にする様子がないので肩を撫で下ろす。様々な人々が行き交うこの街では、客ひとりひとりについて構うことはないのだろう。
「陛下はお若いが気品と威厳に溢れ、勤勉で、民の事を常に気に掛けていらっしゃる御心もお優しい御方だ」
「確かにカーニヴァルの時遠目に見たけどカッコよかった! ツノも大きかったし真っ白で、イゲン? 感じたかも」
「ああ、御姿も王に相応しい神々しさだ。そんな陛下に仕えられる僕は果報者だよ。そして陛下の従者として恥ずかしくないよう、常に襟を正さねばと思わされる。自分を律することもまた、僕の仕事の一つなんだ」
ルシュディーは三度瞬きをすると、プッと吹き出し、口を大きく開けて笑い出した。
「な、何が可笑しいんだ?」
「だって、王様の話になったら急にすっごいしゃべんだもん! 変なの!」
指摘されてべらべらと語ってしまったと気付き、顔を熱くする。犬族の同胞には陛下を苦手に思う者が多かったから話せなかった反動もあるだろうが、ルシュディーが話しやすいせいでつい口が滑ってしまう。
「でも、スウードは仕事楽しいんだな。良いことだと思うぜ」
──君は、仕事が楽しくないのか?
聞こうとした瞬間には、まるでそれに気付いたかのようにルシュディーが「あっ」と声を上げる。
「お妃様は犬族なんだよな。可愛い感じしたけど、まだ子供なんだっけ? ま、ぶっちゃけ小さ過ぎてよく見えなかったけど!」
ルシュディーの言い草につい笑いそうになって必死に堪えた。本人が聞いたら今頃飛び掛かっていそうだ。
「王妃はもう二十歳で立派な成獣だ。童顔で背も大きくはないが」
「うっそ! 俺の一個上じゃん!」
堪え切れずについに笑みが溢れると、ルシュディーも釣られてまた笑い出した。
「スウードの笑ってる顔初めて見たかも」
そうだっただろうか。確かに先週は笑うどころじゃない状況だった。ルシュディーは先週からよく笑っているが。
「俺と話するの嫌じゃない?」
「いいや。とても話しやすいよ」
ルシュディーが顔を少し赤らめて微笑む。その表情に思わずどきりとして視線を逸らした。
「この街で働くひとは皆接客が上手いんだろう? つい余計なことまで話してしまう」
一瞬空気が凍り付いたように感じてルシュディーを見る。しかし気のせいだったのか、「まあねー」と照れたように笑っていた。
「俺、特に接客の方には自信あんだよね! 見た目こんなだし、あんまり客つかないから、話術は人一倍磨いたかも! ちなみに親友でうち一番の売れっ子のミーナーは何にもしなくても毎日代わる代わる客が来るんだぜ? 俺はよくそのおこぼれにあずかってんだけどさ」
ルシュディーの仕事のことを考えて、ふいに先週この部屋で起こったことを思い出してしまい、顔から火が出そうになる。
「僕のこと?」
「そうそう! この間役人じゃないって言ってたけど、じゃあ何をしてる人なんだ?」
ルシュディーは目を輝かせて身を乗り出す。
「僕は王の従者をしていて──」
と、言ってから不味いと気付いて言葉を切った。従者が娼館に頻繁に出入りしているというのは、陛下の風評に関わるのでは。
「へー! すげーじゃん! 王様ってどんな人? この間お妃様を迎えたんだよな?」
さしてルシュディーは気にする様子がないので肩を撫で下ろす。様々な人々が行き交うこの街では、客ひとりひとりについて構うことはないのだろう。
「陛下はお若いが気品と威厳に溢れ、勤勉で、民の事を常に気に掛けていらっしゃる御心もお優しい御方だ」
「確かにカーニヴァルの時遠目に見たけどカッコよかった! ツノも大きかったし真っ白で、イゲン? 感じたかも」
「ああ、御姿も王に相応しい神々しさだ。そんな陛下に仕えられる僕は果報者だよ。そして陛下の従者として恥ずかしくないよう、常に襟を正さねばと思わされる。自分を律することもまた、僕の仕事の一つなんだ」
ルシュディーは三度瞬きをすると、プッと吹き出し、口を大きく開けて笑い出した。
「な、何が可笑しいんだ?」
「だって、王様の話になったら急にすっごいしゃべんだもん! 変なの!」
指摘されてべらべらと語ってしまったと気付き、顔を熱くする。犬族の同胞には陛下を苦手に思う者が多かったから話せなかった反動もあるだろうが、ルシュディーが話しやすいせいでつい口が滑ってしまう。
「でも、スウードは仕事楽しいんだな。良いことだと思うぜ」
──君は、仕事が楽しくないのか?
聞こうとした瞬間には、まるでそれに気付いたかのようにルシュディーが「あっ」と声を上げる。
「お妃様は犬族なんだよな。可愛い感じしたけど、まだ子供なんだっけ? ま、ぶっちゃけ小さ過ぎてよく見えなかったけど!」
ルシュディーの言い草につい笑いそうになって必死に堪えた。本人が聞いたら今頃飛び掛かっていそうだ。
「王妃はもう二十歳で立派な成獣だ。童顔で背も大きくはないが」
「うっそ! 俺の一個上じゃん!」
堪え切れずについに笑みが溢れると、ルシュディーも釣られてまた笑い出した。
「スウードの笑ってる顔初めて見たかも」
そうだっただろうか。確かに先週は笑うどころじゃない状況だった。ルシュディーは先週からよく笑っているが。
「俺と話するの嫌じゃない?」
「いいや。とても話しやすいよ」
ルシュディーが顔を少し赤らめて微笑む。その表情に思わずどきりとして視線を逸らした。
「この街で働くひとは皆接客が上手いんだろう? つい余計なことまで話してしまう」
一瞬空気が凍り付いたように感じてルシュディーを見る。しかし気のせいだったのか、「まあねー」と照れたように笑っていた。
「俺、特に接客の方には自信あんだよね! 見た目こんなだし、あんまり客つかないから、話術は人一倍磨いたかも! ちなみに親友でうち一番の売れっ子のミーナーは何にもしなくても毎日代わる代わる客が来るんだぜ? 俺はよくそのおこぼれにあずかってんだけどさ」
ルシュディーの仕事のことを考えて、ふいに先週この部屋で起こったことを思い出してしまい、顔から火が出そうになる。
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