孤高の羊王とはぐれ犬

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
41 / 58
番外編

番外編③ 秘められた真実④

しおりを挟む
「じゃあ今日はスウードのこと話してくれよ。スウードのこともっと知りたいし」
「僕のこと?」

「そうそう! この間役人じゃないって言ってたけど、じゃあ何をしてる人なんだ?」

 ルシュディーは目を輝かせて身を乗り出す。

「僕は王の従者をしていて──」

 と、言ってから不味いと気付いて言葉を切った。従者が娼館に頻繁に出入りしているというのは、陛下の風評に関わるのでは。

「へー! すげーじゃん! 王様ってどんな人? この間お妃様を迎えたんだよな?」

 さしてルシュディーは気にする様子がないので肩を撫で下ろす。様々な人々が行き交うこの街では、客ひとりひとりについて構うことはないのだろう。

「陛下はお若いが気品と威厳に溢れ、勤勉で、民の事を常に気に掛けていらっしゃる御心もお優しい御方だ」
「確かにカーニヴァルの時遠目に見たけどカッコよかった! ツノも大きかったし真っ白で、イゲン? 感じたかも」
「ああ、御姿も王に相応しい神々しさだ。そんな陛下に仕えられる僕は果報者だよ。そして陛下の従者として恥ずかしくないよう、常に襟を正さねばと思わされる。自分を律することもまた、僕の仕事の一つなんだ」

 ルシュディーは三度瞬きをすると、プッと吹き出し、口を大きく開けて笑い出した。

「な、何が可笑しいんだ?」
「だって、王様の話になったら急にすっごいしゃべんだもん! 変なの!」

 指摘されてべらべらと語ってしまったと気付き、顔を熱くする。犬族の同胞には陛下を苦手に思う者が多かったから話せなかった反動もあるだろうが、ルシュディーが話しやすいせいでつい口が滑ってしまう。

「でも、スウードは仕事楽しいんだな。良いことだと思うぜ」

 ──君は、仕事が楽しくないのか?

 聞こうとした瞬間には、まるでそれに気付いたかのようにルシュディーが「あっ」と声を上げる。

「お妃様は犬族なんだよな。可愛い感じしたけど、まだ子供なんだっけ? ま、ぶっちゃけ小さ過ぎてよく見えなかったけど!」

 ルシュディーの言い草につい笑いそうになって必死に堪えた。本人が聞いたら今頃飛び掛かっていそうだ。

「王妃はもう二十歳で立派な成獣だ。童顔で背も大きくはないが」
「うっそ! 俺の一個上じゃん!」

 堪え切れずについに笑みが溢れると、ルシュディーも釣られてまた笑い出した。

「スウードの笑ってる顔初めて見たかも」

 そうだっただろうか。確かに先週は笑うどころじゃない状況だった。ルシュディーは先週からよく笑っているが。

「俺と話するの嫌じゃない?」
「いいや。とても話しやすいよ」

 ルシュディーが顔を少し赤らめて微笑む。その表情に思わずどきりとして視線を逸らした。

「この街で働くひとは皆接客が上手いんだろう? つい余計なことまで話してしまう」

 一瞬空気が凍り付いたように感じてルシュディーを見る。しかし気のせいだったのか、「まあねー」と照れたように笑っていた。

「俺、特に接客の方には自信あんだよね! 見た目こんなだし、あんまり客つかないから、話術は人一倍磨いたかも! ちなみに親友でうち一番の売れっ子のミーナーは何にもしなくても毎日代わる代わる客が来るんだぜ? 俺はよくそのおこぼれにあずかってんだけどさ」

 ルシュディーの仕事のことを考えて、ふいに先週この部屋で起こったことを思い出してしまい、顔から火が出そうになる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

恋というものは

須藤慎弥
BL
ある事がきっかけで出会った天(てん)と潤(じゅん)。 それぞれバース性の葛藤を抱えた二人は、お互いに自らの性を偽っていた。 誤解し、すれ違い、それでも離れられない…離れたくないのは『運命』だから……? 2021/07/14 本編完結から約一年ぶりに連載再開\(^o^)/ 毎週水曜日 更新‧⁺ ⊹˚.⋆ ※昼ドラ感/王道万歳 ※一般的なオメガバース設定 ※R 18ページにはタイトルに「※」

偽物の僕。

れん
BL
偽物の僕。  この物語には性虐待などの虐待表現が多く使われております。 ご注意下さい。 優希(ゆうき) ある事きっかけで他人から嫌われるのが怖い 高校2年生 恋愛対象的に奏多が好き。 高校2年生 奏多(かなた) 優希の親友 いつも優希を心配している 高校2年生 柊叶(ひいらぎ かなえ) 優希の父親が登録している売春斡旋会社の社長 リアコ太客 ストーカー 登場人物は増えていく予定です。 増えたらまた紹介します。 かなり雑な書き方なので読みにくいと思います。

元ベータ後天性オメガ

桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。 ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。 主人公(受) 17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。 ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。 藤宮春樹(ふじみやはるき) 友人兼ライバル(攻) 金髪イケメン身長182cm ベータを偽っているアルファ 名前決まりました(1月26日) 決まるまではナナシくん‥。 大上礼央(おおかみれお) 名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥ ⭐︎コメント受付中 前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。 宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。

オメガの僕が運命の番と幸せを掴むまで

なの
BL
オメガで生まれなければよかった…そしたら人の人生が狂うことも、それに翻弄されて生きることもなかったのに…絶対に僕の人生も違っていただろう。やっぱりオメガになんて生まれなければよかった… 今度、生まれ変わったら、バース性のない世界に生まれたい。そして今度こそ、今度こそ幸せになりたい。  幸せになりたいと願ったオメガと辛い過去を引きずって生きてるアルファ…ある場所で出会い幸せを掴むまでのお話。 R18の場面には*を付けます。

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

捨てられ子供は愛される

やらぎはら響
BL
奴隷のリッカはある日富豪のセルフィルトに出会い買われた。 リッカの愛され生活が始まる。 タイトルを【奴隷の子供は愛される】から改題しました。

処理中です...