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番外編
番外編 幸運という名の犬③
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「αは番が居ないと国に入れないんだってね。スウードも誰かと番になればいいのに! あっ、俺のお世話をしてくれてる羊族の女の子が居るんだけど、とっても可愛いよ! 優しいし、おっとりしてて。白い毛がふわふわなんだ!」
「こら、勝手なことを言うな。相手に失礼だろう」
「うー……ごめん! けど、スウードと一緒に居たくて」
そう想ってくれるのは嬉しいが、番となる相手があってのことだ。それに、城で陛下の側で働くとなれば、運命の番でも無ければ何か間違いが起こらないとも限らない。そうなると、奇跡でも起きなければ難しい。
「アルもスウードの紅茶が飲みたいって言ってた! 『スウードは天候や私の体調を見て茶葉や淹れ方を変えてくれた』って」
ロポが陛下の真似をしながら言うのに思わず笑みが溢れる。そして、僕の努力が評価されていることが知れて嬉しかった。
「陛下もロポも変わりなく安心したよ。陛下とは仲良くやっているようだな」
と、ロポが急に耳を伏せて、泣きそうな表情になる。陛下と何かあったのだろうか。まさかそれで、僕のところに逃げてきたとか……?
「……アルが、あれから子作りしてくれないんだ」
ロポは涙を目に浮かべながら、僕の目を真っ直ぐに見て言った。恐らく本人にしたら真剣で深刻な悩みだったんだろうが、僕は不意打ちを食らって顔から火が出そうなほど熱くなる。
「俺、ずっとあの実を食べてたから、成熟? してないんだって……だから、発情期が安定して来るようにならないと子ども作れないかもって……お医者さんが言ってた」
「そ、そう、なのか……」
ぐすぐすと鼻を赤くしながら涙を溢すロポに、どうしたらいいのか戸惑いながら掛ける言葉を探した。
「確かにこの国にとって嫡子が生まれることは大事だが、ロポの身体で子が生まれないと言われたわけではないのだろう? 急ぐことでもないのだし、気にしなくても良いと思うが……」
「でもっ……子ども作れなくても、俺アルに触って欲しいんだもんっ……!」
頭を木槌で殴られたかのような衝撃が走った。堪らず僕は顔を片手で覆いながら、ロポから視線を逸らす。
「もう俺と子作りするの嫌になったのかな……触られて気持ち良かったのって、俺だけだったのかなぁ……」
──誰かどうか助けて欲しい。
純粋で全く悪意が無いだけに、惚気話かと簡単に切り捨てられない。そもそも、その辺りの知識も乏しいから、起こる疑問なわけだが、しかしそれを未経験の僕の口から語り聞かせるのも可笑しな話だ。どうにか当たり障りなくやり過ごすしかない。
「だ、大丈夫だ。陛下は繊細な方だから、ロポに気を遣っているだけで、その……子作りが嫌になったわけではない、かと」
「……ほんとに?」
涙を拭って僕を曇りの無い目で見てくる。期待されている。
「恐らくだが……未成熟なロポに、強いたくないとお思いなのだ。番になるために必要だっただけで、そうでもなければ、ロポも応じなかったはず、と」
よもやこれは拷問ではないだろうか。何故このての話が苦手な上、全く未経験な僕が、アドバイスなどしているのか。
「だから……ロポの気持ちを伝えたら、いいんじゃないか」
「うん! 城に戻ったらアルに子作りしたいって言う!」
──陛下、申し訳ありません。僕はとんでもない助言をしてしまいました。どうかお許しください。
表情がパッと明るくなり、喜んでいるロポを見詰めながら、この後起こるだろう出来事に深謝した。
「こら、勝手なことを言うな。相手に失礼だろう」
「うー……ごめん! けど、スウードと一緒に居たくて」
そう想ってくれるのは嬉しいが、番となる相手があってのことだ。それに、城で陛下の側で働くとなれば、運命の番でも無ければ何か間違いが起こらないとも限らない。そうなると、奇跡でも起きなければ難しい。
「アルもスウードの紅茶が飲みたいって言ってた! 『スウードは天候や私の体調を見て茶葉や淹れ方を変えてくれた』って」
ロポが陛下の真似をしながら言うのに思わず笑みが溢れる。そして、僕の努力が評価されていることが知れて嬉しかった。
「陛下もロポも変わりなく安心したよ。陛下とは仲良くやっているようだな」
と、ロポが急に耳を伏せて、泣きそうな表情になる。陛下と何かあったのだろうか。まさかそれで、僕のところに逃げてきたとか……?
「……アルが、あれから子作りしてくれないんだ」
ロポは涙を目に浮かべながら、僕の目を真っ直ぐに見て言った。恐らく本人にしたら真剣で深刻な悩みだったんだろうが、僕は不意打ちを食らって顔から火が出そうなほど熱くなる。
「俺、ずっとあの実を食べてたから、成熟? してないんだって……だから、発情期が安定して来るようにならないと子ども作れないかもって……お医者さんが言ってた」
「そ、そう、なのか……」
ぐすぐすと鼻を赤くしながら涙を溢すロポに、どうしたらいいのか戸惑いながら掛ける言葉を探した。
「確かにこの国にとって嫡子が生まれることは大事だが、ロポの身体で子が生まれないと言われたわけではないのだろう? 急ぐことでもないのだし、気にしなくても良いと思うが……」
「でもっ……子ども作れなくても、俺アルに触って欲しいんだもんっ……!」
頭を木槌で殴られたかのような衝撃が走った。堪らず僕は顔を片手で覆いながら、ロポから視線を逸らす。
「もう俺と子作りするの嫌になったのかな……触られて気持ち良かったのって、俺だけだったのかなぁ……」
──誰かどうか助けて欲しい。
純粋で全く悪意が無いだけに、惚気話かと簡単に切り捨てられない。そもそも、その辺りの知識も乏しいから、起こる疑問なわけだが、しかしそれを未経験の僕の口から語り聞かせるのも可笑しな話だ。どうにか当たり障りなくやり過ごすしかない。
「だ、大丈夫だ。陛下は繊細な方だから、ロポに気を遣っているだけで、その……子作りが嫌になったわけではない、かと」
「……ほんとに?」
涙を拭って僕を曇りの無い目で見てくる。期待されている。
「恐らくだが……未成熟なロポに、強いたくないとお思いなのだ。番になるために必要だっただけで、そうでもなければ、ロポも応じなかったはず、と」
よもやこれは拷問ではないだろうか。何故このての話が苦手な上、全く未経験な僕が、アドバイスなどしているのか。
「だから……ロポの気持ちを伝えたら、いいんじゃないか」
「うん! 城に戻ったらアルに子作りしたいって言う!」
──陛下、申し訳ありません。僕はとんでもない助言をしてしまいました。どうかお許しください。
表情がパッと明るくなり、喜んでいるロポを見詰めながら、この後起こるだろう出来事に深謝した。
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