11 / 58
第三話 ふたりきりの一日①
しおりを挟む
「水浴びしたい……」
階段を上りきって、一番最初に思ったことが口をついて出た。
「無理な相談だ。この塔ではスウードが運んできた水だけしか使えない。つまり明日まで、そこにある水瓶が全てなのだ」
俺の身長より少し小さいくらいの入れ物を示して言う。板で蓋をされた中を見ると、水瓶という入れ物の半分くらいまで水が入っていた。
森では川の近くに住んでいて、魚や蟹を獲って食べたりしていたし、いつでも水の中に入っていられた。水浴びも飲むのも洗い物も、水に制限などはなかった。ここにはこれだけの水しかない。
「ええ~……よく考えたら森で捕まってからずっと水浴びしてないし、身体中べたべたして気持ち悪いんだよな……」
汗のせいで身体の臭いも強くなっている気がする。森で生活していた時から何となく体臭は消したくなるのだ。
「水で浸した布で身体を拭うことは可能だ」
「じゃ、そうする! 布って?」
アルは溜息を吐いて水瓶の近くにあった四角い木の置物に立つと、左側の金属の取手を引っ張った。すると、箱の中にいくつもの白い布が重なり合うように入っていたのだ。
「この箱すごいな! 反対側には何が入ってるの?」
「水を入れる桶と脱いだ後の服や汚れ物を入れておく籠だ。籠に入れておけば後でスウードが片付ける。ロポの部屋には同じ棚があるが、恐らく着替えが入っているだろう」
この箱は棚というのか。自分の周りには無かった物ばかりで、見る物全てが新しい。
「……何をしている?」
早速身体を拭こうと思って上着を脱ごうと裾を巻くると、アルが俺を睨むように見詰める。
「何って、早速身体を拭きたいから服脱いでるだけだけど」
目を細めた後、くるりと背を向けて階段を上り、黙って上の階の部屋に入っていった。
気分を悪くしたのだろうか。よく考えたら、王様の前で裸になるのは失礼だったかもしれない。どうするのが正解だったのか分からないけれど。
気を取り直して服を脱ぎ、棚の右側を開けて木で編まれた籠を取り出し放り込んだ。そして、水瓶から水を道具で桶に汲み入れ、白い布を水に浸す。絞った布で身体を拭うと、少しだけ不快感が無くなった。
身体を拭いた後、自分の部屋に戻って棚の扉を開けると、アルが言った通りに、下着とさっき着ていたのとほぼ同じ上下の服が一揃え入っていた。
着替えて部屋を出て、上の部屋への階段を上る。一人でいてもやることがないからだ。
上の階の扉を開けると、朝食に使った汚れた食器と今日と明日の食料がテーブルの上に乱雑に置かれている。アルの姿が無いので、自分の部屋に戻っているのだろうか。
「アル、どこー?」
部屋の奥に二つ扉があって、手前の扉を開ける。と、アルが一番奥にある机に座っていて、机の上には沢山の紙が山積みになっていた。
「何してるの?」
部屋中の壁には沢山の四角い塊のようなものが、天井の辺りまである木でできた収納家具に並べられている。
声を掛けても耳がぴくりと動いただけで、顔を全くこちらに向けないので、恐らく来て欲しく無いのだろう。でも特に咎められてもいないし、無言の圧力には屈しないぞと側に寄って手元を覗き込んだ。
文字が紙にびっしりと書いてある。文字の読み書きができないので、何が書いてあるのか理解できないが。
「これ何?」
「……議事録だ。大臣たちが話し合った内容が記されている」
視線を紙に落としたまま言う。とりあえず無視を決め込むのは無理だと思ってくれたようで助かった。
「大臣?」
「私に代わって国の政を行っている者達だ」
「えっ、じゃあ王様より偉いじゃん!」
階段を上りきって、一番最初に思ったことが口をついて出た。
「無理な相談だ。この塔ではスウードが運んできた水だけしか使えない。つまり明日まで、そこにある水瓶が全てなのだ」
俺の身長より少し小さいくらいの入れ物を示して言う。板で蓋をされた中を見ると、水瓶という入れ物の半分くらいまで水が入っていた。
森では川の近くに住んでいて、魚や蟹を獲って食べたりしていたし、いつでも水の中に入っていられた。水浴びも飲むのも洗い物も、水に制限などはなかった。ここにはこれだけの水しかない。
「ええ~……よく考えたら森で捕まってからずっと水浴びしてないし、身体中べたべたして気持ち悪いんだよな……」
汗のせいで身体の臭いも強くなっている気がする。森で生活していた時から何となく体臭は消したくなるのだ。
「水で浸した布で身体を拭うことは可能だ」
「じゃ、そうする! 布って?」
アルは溜息を吐いて水瓶の近くにあった四角い木の置物に立つと、左側の金属の取手を引っ張った。すると、箱の中にいくつもの白い布が重なり合うように入っていたのだ。
「この箱すごいな! 反対側には何が入ってるの?」
「水を入れる桶と脱いだ後の服や汚れ物を入れておく籠だ。籠に入れておけば後でスウードが片付ける。ロポの部屋には同じ棚があるが、恐らく着替えが入っているだろう」
この箱は棚というのか。自分の周りには無かった物ばかりで、見る物全てが新しい。
「……何をしている?」
早速身体を拭こうと思って上着を脱ごうと裾を巻くると、アルが俺を睨むように見詰める。
「何って、早速身体を拭きたいから服脱いでるだけだけど」
目を細めた後、くるりと背を向けて階段を上り、黙って上の階の部屋に入っていった。
気分を悪くしたのだろうか。よく考えたら、王様の前で裸になるのは失礼だったかもしれない。どうするのが正解だったのか分からないけれど。
気を取り直して服を脱ぎ、棚の右側を開けて木で編まれた籠を取り出し放り込んだ。そして、水瓶から水を道具で桶に汲み入れ、白い布を水に浸す。絞った布で身体を拭うと、少しだけ不快感が無くなった。
身体を拭いた後、自分の部屋に戻って棚の扉を開けると、アルが言った通りに、下着とさっき着ていたのとほぼ同じ上下の服が一揃え入っていた。
着替えて部屋を出て、上の部屋への階段を上る。一人でいてもやることがないからだ。
上の階の扉を開けると、朝食に使った汚れた食器と今日と明日の食料がテーブルの上に乱雑に置かれている。アルの姿が無いので、自分の部屋に戻っているのだろうか。
「アル、どこー?」
部屋の奥に二つ扉があって、手前の扉を開ける。と、アルが一番奥にある机に座っていて、机の上には沢山の紙が山積みになっていた。
「何してるの?」
部屋中の壁には沢山の四角い塊のようなものが、天井の辺りまである木でできた収納家具に並べられている。
声を掛けても耳がぴくりと動いただけで、顔を全くこちらに向けないので、恐らく来て欲しく無いのだろう。でも特に咎められてもいないし、無言の圧力には屈しないぞと側に寄って手元を覗き込んだ。
文字が紙にびっしりと書いてある。文字の読み書きができないので、何が書いてあるのか理解できないが。
「これ何?」
「……議事録だ。大臣たちが話し合った内容が記されている」
視線を紙に落としたまま言う。とりあえず無視を決め込むのは無理だと思ってくれたようで助かった。
「大臣?」
「私に代わって国の政を行っている者達だ」
「えっ、じゃあ王様より偉いじゃん!」
5
お気に入りに追加
232
あなたにおすすめの小説

消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
元ベータ後天性オメガ
桜 晴樹
BL
懲りずにオメガバースです。
ベータだった主人公がある日を境にオメガになってしまう。
主人公(受)
17歳男子高校生。黒髪平凡顔。身長170cm。
ベータからオメガに。後天性の性(バース)転換。
藤宮春樹(ふじみやはるき)
友人兼ライバル(攻)
金髪イケメン身長182cm
ベータを偽っているアルファ
名前決まりました(1月26日)
決まるまではナナシくん‥。
大上礼央(おおかみれお)
名前の由来、狼とライオン(レオ)から‥
⭐︎コメント受付中
前作の"番なんて要らない"は、編集作業につき、更新停滞中です。
宜しければ其方も読んで頂ければ喜びます。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
生まれ変わりは嫌われ者
青ムギ
BL
無数の矢が俺の体に突き刺さる。
「ケイラ…っ!!」
王子(グレン)の悲痛な声に胸が痛む。口から大量の血が噴きその場に倒れ込む。意識が朦朧とする中、王子に最後の別れを告げる。
「グレン……。愛してる。」
「あぁ。俺も愛してるケイラ。」
壊れ物を大切に包み込むような動作のキス。
━━━━━━━━━━━━━━━
あの時のグレン王子はとても優しく、名前を持たなかった俺にかっこいい名前をつけてくれた。いっぱい話しをしてくれた。一緒に寝たりもした。
なのにー、
運命というのは時に残酷なものだ。
俺は王子を……グレンを愛しているのに、貴方は俺を嫌い他の人を見ている。
一途に慕い続けてきたこの気持ちは諦めきれない。
★表紙のイラストは、Picrew様の[見上げる男子]ぐんま様からお借りしました。ありがとうございます!
精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる
風見鶏ーKazamidoriー
BL
秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。
ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。
※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる