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陽川花火編
第六話 愛すること①
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「少し早かったか?」
「ううん。一区切りついたところだったからちょうど良かったよ」
翌日いつものように図書館に行って勉強をして、迎えに来た花火と花火の家に向かった。花火は今日は一日お父さんの手伝いで、高級住宅地の立派な日本庭園のある御宅に行ってきたのだと話した。場所を詳しく聞くと、僕の家とそれほど遠くない所だったので、そのことを伝えると「一温って改めて思うけど、結構なお坊ちゃんだよな」と驚いていた。「花火の家、僕は好きだよ」と伝えると嬉しそうに「当然! 垣根は俺が剪定してんだから」と胸を張った。
花火の家の前の垣根を横目に見ながら、堂々とした門を潜り抜け、玄関に続く飛石の上を歩く。花火が玄関の引き戸に手を掛けた――その時、背後で物音がして振り返った瞬間、強引に腕を掴まれ引っ張られた。そして、相手が誰なのか認識する前に、頬に衝撃が走って頭が真っ白になる。
「なんてふしだらな子なの……!」
混乱したまま、顔をゆっくりと正面に向ける。怒りで顔を歪め、目に涙を浮かべた母の姿があった。
「どうして私を裏切るような真似ばかりするのよ? 貴方のためを思って、私は――」
「あんた、一温の母ちゃんか?」
呆然としたままの僕と母の間に入るように花火が一歩前に出る。
「貴方、なに? 関係ないでしょ? それとも、うちの子とは外聞を憚るような関係なのかしら」
「一温とは、そんなんじゃねえ」
「貴方のことは信じられないわ。犯罪者の子供でしょう」
ぴく、と花火の肩が震えるのが分かった。
背筋が凍るような感覚がし、堪らない気持ちになって母の横に寄る。そして、深く頭を下げた。
「……ごめんなさい。言いつけを守らず、母さんを裏切るような真似をしました。罰も受けます、何でも言う通りにします。だから……もうそれ以上何も言わないで」
花火はきっと今までも、何度もこんな心無い言葉を掛けられてきたはずだ。傷付けられてきたはずだ。花火にはもうこれ以上僕のせいで傷付いて欲しくない。花火のことが――好きだから。
「何で謝ってんだよ一温。何もしてねえのに、可笑しいだろ」
反射的に顔を上げると、花火はまるで「大丈夫」と言うように笑みを浮かべて見せた。
「何もしてないですって? 冗談じゃないわ! この子が貴方の家に入り浸っていることも、夜遊びしてることも、全部知っているのよ! 証拠だってあるわ!」
母さんがスマホを取り出して、昨日の夜の写真を突き付けた。こんなものが残っていたら、母はきっとどんなに弁明しても分かってはくれない。
花火が大きな溜息を吐く。母は花火に対して敵意を剥き出しにして、睨み付けている。
「確かにあんたを欺くためにズルしたかもしれねえけど、一温は俺ん家で飯食ったり、土日たまに遊びに行ってるだけだぜ。夜遊びって言ったって、そりゃ昨日だけだ。それも行ったってだけで、飲酒とか犯罪めいたことしたわけじゃねえしな」
「だから貴方は信用ならないって言ったでしょう! 薬物中毒者で、子供を虐待するような野蛮な親の血を継いでるんですから!」
喉を締められるような鈍い痛みがして、呼吸が苦しい。母にわざと傷付けようとする意図が見えて、僕は母の肩を掴もうと手を伸ばした。が、花火が僕の手を掴んで制する。
「ううん。一区切りついたところだったからちょうど良かったよ」
翌日いつものように図書館に行って勉強をして、迎えに来た花火と花火の家に向かった。花火は今日は一日お父さんの手伝いで、高級住宅地の立派な日本庭園のある御宅に行ってきたのだと話した。場所を詳しく聞くと、僕の家とそれほど遠くない所だったので、そのことを伝えると「一温って改めて思うけど、結構なお坊ちゃんだよな」と驚いていた。「花火の家、僕は好きだよ」と伝えると嬉しそうに「当然! 垣根は俺が剪定してんだから」と胸を張った。
花火の家の前の垣根を横目に見ながら、堂々とした門を潜り抜け、玄関に続く飛石の上を歩く。花火が玄関の引き戸に手を掛けた――その時、背後で物音がして振り返った瞬間、強引に腕を掴まれ引っ張られた。そして、相手が誰なのか認識する前に、頬に衝撃が走って頭が真っ白になる。
「なんてふしだらな子なの……!」
混乱したまま、顔をゆっくりと正面に向ける。怒りで顔を歪め、目に涙を浮かべた母の姿があった。
「どうして私を裏切るような真似ばかりするのよ? 貴方のためを思って、私は――」
「あんた、一温の母ちゃんか?」
呆然としたままの僕と母の間に入るように花火が一歩前に出る。
「貴方、なに? 関係ないでしょ? それとも、うちの子とは外聞を憚るような関係なのかしら」
「一温とは、そんなんじゃねえ」
「貴方のことは信じられないわ。犯罪者の子供でしょう」
ぴく、と花火の肩が震えるのが分かった。
背筋が凍るような感覚がし、堪らない気持ちになって母の横に寄る。そして、深く頭を下げた。
「……ごめんなさい。言いつけを守らず、母さんを裏切るような真似をしました。罰も受けます、何でも言う通りにします。だから……もうそれ以上何も言わないで」
花火はきっと今までも、何度もこんな心無い言葉を掛けられてきたはずだ。傷付けられてきたはずだ。花火にはもうこれ以上僕のせいで傷付いて欲しくない。花火のことが――好きだから。
「何で謝ってんだよ一温。何もしてねえのに、可笑しいだろ」
反射的に顔を上げると、花火はまるで「大丈夫」と言うように笑みを浮かべて見せた。
「何もしてないですって? 冗談じゃないわ! この子が貴方の家に入り浸っていることも、夜遊びしてることも、全部知っているのよ! 証拠だってあるわ!」
母さんがスマホを取り出して、昨日の夜の写真を突き付けた。こんなものが残っていたら、母はきっとどんなに弁明しても分かってはくれない。
花火が大きな溜息を吐く。母は花火に対して敵意を剥き出しにして、睨み付けている。
「確かにあんたを欺くためにズルしたかもしれねえけど、一温は俺ん家で飯食ったり、土日たまに遊びに行ってるだけだぜ。夜遊びって言ったって、そりゃ昨日だけだ。それも行ったってだけで、飲酒とか犯罪めいたことしたわけじゃねえしな」
「だから貴方は信用ならないって言ったでしょう! 薬物中毒者で、子供を虐待するような野蛮な親の血を継いでるんですから!」
喉を締められるような鈍い痛みがして、呼吸が苦しい。母にわざと傷付けようとする意図が見えて、僕は母の肩を掴もうと手を伸ばした。が、花火が僕の手を掴んで制する。
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