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陽川花火編
第四話 募る想い②
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お父さんの年齢はいくつくらいなのか分からないが、僕の両親よりも十以上は上に見える。きっと、体調管理に気を付けて、食事も選んでいるのだ。
「一温」
唐突に僕の進行を阻むように手を横に広げる。花火の視線の先には見たことのない学生服を着た男子生徒達がこちらに向かってくる。
「一温、お前は裏道から――」
言いかけて振り返ると、いつの間にか四人僕達を囲むようにして立っていた。
「陽川、お前に先月鼻折られた恨み晴らしにきたぜ!」
そう威勢よく言った男は、まだ完治しきっていないのか大判の絆創膏を鼻に貼っている。しかし、今の時代にまだこんなわかりやすい不良が生き残っていたのか。思っていたのと少し様相が違うのは一対一ではなく、初めから集団暴行を目的にしているという点だ。数えると、向こうは七人もいる。
「俺一人の時狙えよ。弱い上に性根が腐ってて苛付くぜ」
と、その時だった。僕の後ろに立っていた男が僕の腕を掴み捻り上げた。そしてそのまま壁に押さえつけられ、身動きが取れなくなってしまう。
「一温……!」
「オトモダチの腕折られたくなかったら黙って殴られろ!」
鈍い音がした。どうなっているのか、壁を向いているせいで見えない。ただ、花火が無抵抗なまま暴力を受けたのは確かだった。僕は捻られている腕を解こうとしたが、相手の方が力が強く動けない。更に首を掴んで壁に押し付けられてしまい、動きを封じられた。
「……折っていい」
「は?」
「折ってくれていいって言ったんだよ。僕の腕の骨なんてどうなっても構わない。折れたところでたいして痛くもないし、数か月後にはまた繋がっているんだから。足手纏いになる方が嫌だ」
一人の人間が捻ったくらいでそう簡単に人間の腕の骨は折れない。せいぜい肩が脱臼するくらいだろう。僕を押さえつけている男が、明らかに怯むのが分かった。これ以上僕を痛めつけることはできまい。
「はははっ」
花火の笑い声が聞こえた、と思った次の瞬間、物凄い衝撃がして僕は地面に横倒しになった。
「お前結構やべえ奴だな!」
僕の腕を掴む大きな手は、そのまま僕を立ち上がらせてくれる。足元には僕を押さえていたのだろう男子生徒が蹲っていた。その男の腹部に、花火が更に一発蹴りを食らわせると、呻き声をあげた後動かなくなる。
「おらおら、来いよ雑魚ッ! これくらいでビビってんじゃねぇ!」
明らかに花火の纏う空気が変わっていた。今なら学校で一番の不良で、恐れられているという話を信じられる。血走った目で、しかしこの闘争が愉しいと思っているかのように、悪辣な、不敵な笑みを浮かべていた。
花火を恐れながらも、果敢に殴り掛かってきたのは、鼻を折られたという男だった。しかし、簡単に避けられてしまい、逆にその勢いを利用して思い切り顔面を殴り付けられて、のた打ち回る結果になってしまったが。
続いて二人が同時に蹴りと拳で攻撃を仕掛けてきたが、蹴りを後ろに飛び退いて避け、もう一人の方の攻撃は空振りになったところを狙って、腹部を蹴り上げて倒してしまう。そして間髪入れずに蹴りを避けられて態勢を崩していた男の頭を押さえつけて、顔目掛けて膝蹴りを食らわせた。
たちまち四人が目の前に蹲っている現状に、他の者たちはすっかり戦意喪失したようで、慌てて四人を抱えて退散していった。
「一温」
唐突に僕の進行を阻むように手を横に広げる。花火の視線の先には見たことのない学生服を着た男子生徒達がこちらに向かってくる。
「一温、お前は裏道から――」
言いかけて振り返ると、いつの間にか四人僕達を囲むようにして立っていた。
「陽川、お前に先月鼻折られた恨み晴らしにきたぜ!」
そう威勢よく言った男は、まだ完治しきっていないのか大判の絆創膏を鼻に貼っている。しかし、今の時代にまだこんなわかりやすい不良が生き残っていたのか。思っていたのと少し様相が違うのは一対一ではなく、初めから集団暴行を目的にしているという点だ。数えると、向こうは七人もいる。
「俺一人の時狙えよ。弱い上に性根が腐ってて苛付くぜ」
と、その時だった。僕の後ろに立っていた男が僕の腕を掴み捻り上げた。そしてそのまま壁に押さえつけられ、身動きが取れなくなってしまう。
「一温……!」
「オトモダチの腕折られたくなかったら黙って殴られろ!」
鈍い音がした。どうなっているのか、壁を向いているせいで見えない。ただ、花火が無抵抗なまま暴力を受けたのは確かだった。僕は捻られている腕を解こうとしたが、相手の方が力が強く動けない。更に首を掴んで壁に押し付けられてしまい、動きを封じられた。
「……折っていい」
「は?」
「折ってくれていいって言ったんだよ。僕の腕の骨なんてどうなっても構わない。折れたところでたいして痛くもないし、数か月後にはまた繋がっているんだから。足手纏いになる方が嫌だ」
一人の人間が捻ったくらいでそう簡単に人間の腕の骨は折れない。せいぜい肩が脱臼するくらいだろう。僕を押さえつけている男が、明らかに怯むのが分かった。これ以上僕を痛めつけることはできまい。
「はははっ」
花火の笑い声が聞こえた、と思った次の瞬間、物凄い衝撃がして僕は地面に横倒しになった。
「お前結構やべえ奴だな!」
僕の腕を掴む大きな手は、そのまま僕を立ち上がらせてくれる。足元には僕を押さえていたのだろう男子生徒が蹲っていた。その男の腹部に、花火が更に一発蹴りを食らわせると、呻き声をあげた後動かなくなる。
「おらおら、来いよ雑魚ッ! これくらいでビビってんじゃねぇ!」
明らかに花火の纏う空気が変わっていた。今なら学校で一番の不良で、恐れられているという話を信じられる。血走った目で、しかしこの闘争が愉しいと思っているかのように、悪辣な、不敵な笑みを浮かべていた。
花火を恐れながらも、果敢に殴り掛かってきたのは、鼻を折られたという男だった。しかし、簡単に避けられてしまい、逆にその勢いを利用して思い切り顔面を殴り付けられて、のた打ち回る結果になってしまったが。
続いて二人が同時に蹴りと拳で攻撃を仕掛けてきたが、蹴りを後ろに飛び退いて避け、もう一人の方の攻撃は空振りになったところを狙って、腹部を蹴り上げて倒してしまう。そして間髪入れずに蹴りを避けられて態勢を崩していた男の頭を押さえつけて、顔目掛けて膝蹴りを食らわせた。
たちまち四人が目の前に蹲っている現状に、他の者たちはすっかり戦意喪失したようで、慌てて四人を抱えて退散していった。
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