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最終話 星と海
最終話 星と海①
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「何かあったらすぐに連絡しろ。リュウも我慢せず賢太を頼れよ」
「分かった。兄ちゃんも気ぃ付けてな」
俺が居ない間に後遺症が強く出ないかだけが心配だったが、昨夜は睡眠薬を飲んで深く眠れたことがよかったのか、今朝は頭痛もなく倦怠感もほぼない様子だった。その上、賢太の買ってきたサンドイッチを完食していた。
賢太は顔中絆創膏が貼り付けられており目が半分しか開かないくらい腫れて痛々しかったが、これでも昨日よりは熱も引いて回復したらしい。流星が寝ている間は寝ていていいと言ってあるが、直の上司の俺の家で寛げないだろう。
「ああ」
流星の頭を撫でて家を出る。まずは伊玖磨を拘束しているホテルに向かった。伊玖磨の部下が奪還に動くかと林田、小西らに周囲を固めさせていたが、全くその様子はない。
それどころか、薬の件で警察に捕まることを恐れて飛ぶ奴等ばかりだという。その多くが伊玖磨が引っ張ってきた若い連中だ。中には薬物中毒の奴もいるらしく、どこまで逃げられるものか、どのみち檻の中に納まるのがオチだろう。
桜庭の運転する車に乗り込み、ワンフロアごと借りているビジネスホテルの前で降りた。その一室に小西に案内され入ると、顔を腫らし憔悴しきった様子の伊玖磨がベッドに座っていた。特に腕や脚を拘束されてはいないが、二十四時間監視の軟禁状態だ。
伊玖磨は俺の顔を見ると、何故か目を輝かせ薄く笑んだ。流星を巻き込んだ糞野郎の予想外の表情に、血が逆流するような怒りを覚えて舌打ちをする。殴り付けてやりたいが、既にそれは下の奴等が充分やっているだろう。
「お前の処遇はこれからだが、薬に手を出した奴は問答無用で破門だ」
「俺は……辻倉だぞ? お前に流れてねえ血が俺には――」
抑えていた怒りが溢れた瞬間、俺は伊玖磨の喉を片手で掴んでいた。
「ああそうだ! お前は血以外何も誇れるもんがねえ下衆野郎なんだよッ!」
息が出来ずに苦しそうに涙を浮かべる男に、最早憐れみすら覚えて手を離した。
「命あるだけ有難く思え。お前はそれだけのことをした」
林田にこの後幹部会を開くこと、それ次第で指示を出すことを伝え、ホテルを出た。
実家の門を潜る時、たった二日ほど前のこととは思えなかった。それほどあの時と今は何もかもが変わっていた。
幹部会は俺と杉内さん、藤本さん、そして組長の妻・乃梨子の四人で行われた。郁次・伊玖磨の処分について、「絶縁」が妥当であると決した。
郁次については直接的に伊玖磨に指示を出していたかは不明だが、二度目の抗争を引き起こした責を負うべきで、復縁の可能性を残した破門では生温いという結論だった。
伊玖磨については、薬を組に持ち込んだ罪は重く、最悪海外マフィアと繋がったことも考えられ、九条会の島で、余所者を連れ込んだ挙句商売をしていたとなれば、九条会へ詫びを入れるためにも相応の処分が必要だということとなった。
「前の抗争で郁次派だった古参の奴等だが、伊玖磨が薬物で稼いでると知ってた奴はほとんどいなかった。外に漏れるのを恐れて伊玖磨は自分が引き込んだ若衆以外は商売に関わらせず、寧ろクラブ通いの薬中のガキ共を使って上手く回してたみてえだな」
「分かった。兄ちゃんも気ぃ付けてな」
俺が居ない間に後遺症が強く出ないかだけが心配だったが、昨夜は睡眠薬を飲んで深く眠れたことがよかったのか、今朝は頭痛もなく倦怠感もほぼない様子だった。その上、賢太の買ってきたサンドイッチを完食していた。
賢太は顔中絆創膏が貼り付けられており目が半分しか開かないくらい腫れて痛々しかったが、これでも昨日よりは熱も引いて回復したらしい。流星が寝ている間は寝ていていいと言ってあるが、直の上司の俺の家で寛げないだろう。
「ああ」
流星の頭を撫でて家を出る。まずは伊玖磨を拘束しているホテルに向かった。伊玖磨の部下が奪還に動くかと林田、小西らに周囲を固めさせていたが、全くその様子はない。
それどころか、薬の件で警察に捕まることを恐れて飛ぶ奴等ばかりだという。その多くが伊玖磨が引っ張ってきた若い連中だ。中には薬物中毒の奴もいるらしく、どこまで逃げられるものか、どのみち檻の中に納まるのがオチだろう。
桜庭の運転する車に乗り込み、ワンフロアごと借りているビジネスホテルの前で降りた。その一室に小西に案内され入ると、顔を腫らし憔悴しきった様子の伊玖磨がベッドに座っていた。特に腕や脚を拘束されてはいないが、二十四時間監視の軟禁状態だ。
伊玖磨は俺の顔を見ると、何故か目を輝かせ薄く笑んだ。流星を巻き込んだ糞野郎の予想外の表情に、血が逆流するような怒りを覚えて舌打ちをする。殴り付けてやりたいが、既にそれは下の奴等が充分やっているだろう。
「お前の処遇はこれからだが、薬に手を出した奴は問答無用で破門だ」
「俺は……辻倉だぞ? お前に流れてねえ血が俺には――」
抑えていた怒りが溢れた瞬間、俺は伊玖磨の喉を片手で掴んでいた。
「ああそうだ! お前は血以外何も誇れるもんがねえ下衆野郎なんだよッ!」
息が出来ずに苦しそうに涙を浮かべる男に、最早憐れみすら覚えて手を離した。
「命あるだけ有難く思え。お前はそれだけのことをした」
林田にこの後幹部会を開くこと、それ次第で指示を出すことを伝え、ホテルを出た。
実家の門を潜る時、たった二日ほど前のこととは思えなかった。それほどあの時と今は何もかもが変わっていた。
幹部会は俺と杉内さん、藤本さん、そして組長の妻・乃梨子の四人で行われた。郁次・伊玖磨の処分について、「絶縁」が妥当であると決した。
郁次については直接的に伊玖磨に指示を出していたかは不明だが、二度目の抗争を引き起こした責を負うべきで、復縁の可能性を残した破門では生温いという結論だった。
伊玖磨については、薬を組に持ち込んだ罪は重く、最悪海外マフィアと繋がったことも考えられ、九条会の島で、余所者を連れ込んだ挙句商売をしていたとなれば、九条会へ詫びを入れるためにも相応の処分が必要だということとなった。
「前の抗争で郁次派だった古参の奴等だが、伊玖磨が薬物で稼いでると知ってた奴はほとんどいなかった。外に漏れるのを恐れて伊玖磨は自分が引き込んだ若衆以外は商売に関わらせず、寧ろクラブ通いの薬中のガキ共を使って上手く回してたみてえだな」
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