流れる星は海に還る

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
40 / 50
第六話 嵐の後

第六話 嵐の後⑩

しおりを挟む
 食事を終えて流星が風呂に入るというので、その間に林田に連絡を取った。杉内さんのところで何があったかを聞くためだ。

「すんませんっ! でも、流星さんかっこよかったんで!」

 林田はひと通り電話で話し終わると平謝りをした。
 杉内さんやその下の若衆らがいるところで、事のいきさつに加えて流星の伊玖磨に対峙した時の豪胆さについて饒舌に語ったらしい。そのせいで、どうやら流星への跡目としての期待が高まってしまったようだ。

「俺がお前の軽率さを考慮に入れなかったのが悪かった」

 舌打ちすると、電話口で頭を下げている姿が思い浮かぶほど「すんません」と連呼する。

 電話を切り、思わず流星が家に居ることを忘れて煙草を咥えていた。煙草を仕舞い、代わりに溜息を溢す。

 しかし、林田が語りたくなったのも分からなくはなかった。伊玖磨に啖呵を切った流星の姿は親父を彷彿とさせる姿だったからだ。
 普段俺に見せていたのは、俺が求める弟としての流星でしかなかったのだ。俺が兄を演じていたように、流星も同じだった。

 長く極道の世界に浸かってきた伊玖磨が、二発目の引き金を引けなかったのは流星の気魄に気圧されたからに他ならない。もし引き金を引けていたとしても、銃を持つ手が震えて標的を定められず、当たることはなかっただろうが。

「……血は争えない、ってか」
「え、何か言った?」

 ちょうど風呂から上がった流星に、独り言を聞かれてしまう。

「あ、別に煙草吸っていーよ」

 流星はテーブルの上に投げ出したままだった煙草を手に取り、俺に一本手渡した。

「俺が煙草吸うの知ってたのか?」

「分からない方が可笑しいって。寧ろ何で隠すのかって昔から不思議だったくらいだし」

 健康上も教育上も良くないと思ったのと、よりガラが悪く見える気がしたからだったが、さすがに毎日最低一箱空ける程度には吸っているから、臭いが身体に染みついているだろう。無論この家の中も、だ。

「ありがとな。一本貰う」

 煙草を咥え火を点ける。息を吸い一日ぶりくらいのニコチンを身体に送り込む。流星は俺の隣に座ると、煙を吐き出す俺の横顔をじっと見詰めた。

「どうした?」
「なっ、何でもねえ……」

 そう言って顔を背けた流星の頬が、赤く染まっていた。思わず手を伸ばしていた。驚いたように目を丸くし、唇を薄く開けて俺を見上げる流星の愛らしさに、キスしたい衝動に駆られる。
 が、理性で自分を抑え込む。今流星は療養中だ。キスだけで終わらないことは分かっていた。負担を掛けさせるわけにはいかない。

「いや、顔が赤いから、熱でもあるかと思ってな」

 流星の顔は一層赤く染まって、「大丈夫だよ!」と逃げるようにベッドに潜り込んでしまった。誤魔化し方がよくなかったか。

 と、テーブルに置いたスマホが振動し、画面に「賢太」と表示される。すぐさま電話を取った。

「兄貴、連絡遅くなっちまってすんませんでした。怜から流星のこと聞いてたんで、落ち着いてからがいいかと」

 林田から自宅に戻ったと聞いてはいたが、本人と会話していなかったので無事を確認し安堵する。

「ああ、気にするな。リュウは今俺の家にいる。しばらく落ち着くまで置いておくつもりだ」
「そうすか……あの、顔腫れててお見苦しいんすが、動く分には大丈夫なんで、流星のこと俺が看ますよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷酷組長の狂愛

さてぃー
BL
関東最大勢力神城組組長と無気力美男子の甘くて焦ったい物語 ※はエロありです

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

初体験

nano ひにゃ
BL
23才性体験ゼロの好一朗が、友人のすすめで年上で優しい男と付き合い始める。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

処理中です...