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第六話 嵐の後
第六話 嵐の後⑩
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食事を終えて流星が風呂に入るというので、その間に林田に連絡を取った。杉内さんのところで何があったかを聞くためだ。
「すんませんっ! でも、流星さんかっこよかったんで!」
林田はひと通り電話で話し終わると平謝りをした。
杉内さんやその下の若衆らがいるところで、事のいきさつに加えて流星の伊玖磨に対峙した時の豪胆さについて饒舌に語ったらしい。そのせいで、どうやら流星への跡目としての期待が高まってしまったようだ。
「俺がお前の軽率さを考慮に入れなかったのが悪かった」
舌打ちすると、電話口で頭を下げている姿が思い浮かぶほど「すんません」と連呼する。
電話を切り、思わず流星が家に居ることを忘れて煙草を咥えていた。煙草を仕舞い、代わりに溜息を溢す。
しかし、林田が語りたくなったのも分からなくはなかった。伊玖磨に啖呵を切った流星の姿は親父を彷彿とさせる姿だったからだ。
普段俺に見せていたのは、俺が求める弟としての流星でしかなかったのだ。俺が兄を演じていたように、流星も同じだった。
長く極道の世界に浸かってきた伊玖磨が、二発目の引き金を引けなかったのは流星の気魄に気圧されたからに他ならない。もし引き金を引けていたとしても、銃を持つ手が震えて標的を定められず、当たることはなかっただろうが。
「……血は争えない、ってか」
「え、何か言った?」
ちょうど風呂から上がった流星に、独り言を聞かれてしまう。
「あ、別に煙草吸っていーよ」
流星はテーブルの上に投げ出したままだった煙草を手に取り、俺に一本手渡した。
「俺が煙草吸うの知ってたのか?」
「分からない方が可笑しいって。寧ろ何で隠すのかって昔から不思議だったくらいだし」
健康上も教育上も良くないと思ったのと、よりガラが悪く見える気がしたからだったが、さすがに毎日最低一箱空ける程度には吸っているから、臭いが身体に染みついているだろう。無論この家の中も、だ。
「ありがとな。一本貰う」
煙草を咥え火を点ける。息を吸い一日ぶりくらいのニコチンを身体に送り込む。流星は俺の隣に座ると、煙を吐き出す俺の横顔をじっと見詰めた。
「どうした?」
「なっ、何でもねえ……」
そう言って顔を背けた流星の頬が、赤く染まっていた。思わず手を伸ばしていた。驚いたように目を丸くし、唇を薄く開けて俺を見上げる流星の愛らしさに、キスしたい衝動に駆られる。
が、理性で自分を抑え込む。今流星は療養中だ。キスだけで終わらないことは分かっていた。負担を掛けさせるわけにはいかない。
「いや、顔が赤いから、熱でもあるかと思ってな」
流星の顔は一層赤く染まって、「大丈夫だよ!」と逃げるようにベッドに潜り込んでしまった。誤魔化し方がよくなかったか。
と、テーブルに置いたスマホが振動し、画面に「賢太」と表示される。すぐさま電話を取った。
「兄貴、連絡遅くなっちまってすんませんでした。怜から流星のこと聞いてたんで、落ち着いてからがいいかと」
林田から自宅に戻ったと聞いてはいたが、本人と会話していなかったので無事を確認し安堵する。
「ああ、気にするな。リュウは今俺の家にいる。しばらく落ち着くまで置いておくつもりだ」
「そうすか……あの、顔腫れててお見苦しいんすが、動く分には大丈夫なんで、流星のこと俺が看ますよ」
「すんませんっ! でも、流星さんかっこよかったんで!」
林田はひと通り電話で話し終わると平謝りをした。
杉内さんやその下の若衆らがいるところで、事のいきさつに加えて流星の伊玖磨に対峙した時の豪胆さについて饒舌に語ったらしい。そのせいで、どうやら流星への跡目としての期待が高まってしまったようだ。
「俺がお前の軽率さを考慮に入れなかったのが悪かった」
舌打ちすると、電話口で頭を下げている姿が思い浮かぶほど「すんません」と連呼する。
電話を切り、思わず流星が家に居ることを忘れて煙草を咥えていた。煙草を仕舞い、代わりに溜息を溢す。
しかし、林田が語りたくなったのも分からなくはなかった。伊玖磨に啖呵を切った流星の姿は親父を彷彿とさせる姿だったからだ。
普段俺に見せていたのは、俺が求める弟としての流星でしかなかったのだ。俺が兄を演じていたように、流星も同じだった。
長く極道の世界に浸かってきた伊玖磨が、二発目の引き金を引けなかったのは流星の気魄に気圧されたからに他ならない。もし引き金を引けていたとしても、銃を持つ手が震えて標的を定められず、当たることはなかっただろうが。
「……血は争えない、ってか」
「え、何か言った?」
ちょうど風呂から上がった流星に、独り言を聞かれてしまう。
「あ、別に煙草吸っていーよ」
流星はテーブルの上に投げ出したままだった煙草を手に取り、俺に一本手渡した。
「俺が煙草吸うの知ってたのか?」
「分からない方が可笑しいって。寧ろ何で隠すのかって昔から不思議だったくらいだし」
健康上も教育上も良くないと思ったのと、よりガラが悪く見える気がしたからだったが、さすがに毎日最低一箱空ける程度には吸っているから、臭いが身体に染みついているだろう。無論この家の中も、だ。
「ありがとな。一本貰う」
煙草を咥え火を点ける。息を吸い一日ぶりくらいのニコチンを身体に送り込む。流星は俺の隣に座ると、煙を吐き出す俺の横顔をじっと見詰めた。
「どうした?」
「なっ、何でもねえ……」
そう言って顔を背けた流星の頬が、赤く染まっていた。思わず手を伸ばしていた。驚いたように目を丸くし、唇を薄く開けて俺を見上げる流星の愛らしさに、キスしたい衝動に駆られる。
が、理性で自分を抑え込む。今流星は療養中だ。キスだけで終わらないことは分かっていた。負担を掛けさせるわけにはいかない。
「いや、顔が赤いから、熱でもあるかと思ってな」
流星の顔は一層赤く染まって、「大丈夫だよ!」と逃げるようにベッドに潜り込んでしまった。誤魔化し方がよくなかったか。
と、テーブルに置いたスマホが振動し、画面に「賢太」と表示される。すぐさま電話を取った。
「兄貴、連絡遅くなっちまってすんませんでした。怜から流星のこと聞いてたんで、落ち着いてからがいいかと」
林田から自宅に戻ったと聞いてはいたが、本人と会話していなかったので無事を確認し安堵する。
「ああ、気にするな。リュウは今俺の家にいる。しばらく落ち着くまで置いておくつもりだ」
「そうすか……あの、顔腫れててお見苦しいんすが、動く分には大丈夫なんで、流星のこと俺が看ますよ」
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