流れる星は海に還る

藤間留彦

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第六話 嵐の後

第六話 嵐の後⑥

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 纐纈君の友人達と合流して、地下室に乗り込んだ時、伊玖磨と組の人間の他にヤク中らしい若者数人が居た。逃げ惑うだけで手応えのない奴等だったが、これで合点がいった。
 伊玖磨を椅子で投げつけるだけで流星の救出を優先し、後の事を纐纈君の仲間に任せてしまったが、もっと痛めつけておくべきだった。伊玖磨のやろうとしていたことを考えただけで、腸が煮えくり返るような怒りを覚える。

「てかさ、俺が守ったっていうか、兄ちゃんの父ちゃんが守ったんじゃねー?」

 父さんの形見として持ち歩いていたジッポー。チタン製の古いものだったが、煙草を吸うようになった頃、母さんが父の愛用品だったといってくれたものだった。それからずっと肌身離さず持っていた。
 流星にやったコートのポケットに入れたままにしたのが、初めて手を離れた瞬間だった。まるで、このための俺のもとにあったのではないかと思うくらいの、奇跡だった。

「そうかもしれねぇな」

 今はもう父さんとの記憶は朧気だが、実家の仏壇には父さんの遺影が飾られていて、その写真の顔をいつも思い出す。それは遺影に相応しくないほど笑顔で、親父と最後に撮った写真らしい。
 死に顔も微笑んでいるように見えたが、あの人は「旭」と「海」という字を名に持つが、その名の通り太陽のように明るく海のように広い心で、今も俺達を見守ってくれているような気がした。

「伊玖磨ってさ、俺の従兄弟って言ってたんだけど、兄ちゃんともそうなんだよな?」

「ああ。伊玖磨は親父の弟、郁次の息子だ。辻倉は直系のみが組長の座に就くことが許されてる。そうなると、辻倉の血を継いでねえ俺は本来跡目にはなれねえ。跡目を決める立場の親父が倒れ、伊玖磨とリュウにその白羽の矢が立ったことで昨夜の事件が起きた。しかし今回の件で伊玖磨は叔父貴含めて破門になるだろう」

 と言いつつ、処分を下すのは若頭である俺だ。しかし私的な理由だと思われても運営上宜しくない。十分な証拠を提示し、ある程度根回しをしてからの話になる。

「え……父ちゃん、倒れたのか……?」

 流星は動揺し顔を強張らせる。流星にとっては唯一無二の肉親なのだ。一度も会わないまま別れることになるかもしれない。

「これから病院に行って、リュウの傷の状態と薬による副作用がないか診てもらう。同じ病院に親父も入院してる。リュウが希望すれば会えるが、どうする?」
「会う! 会うよ!」

 気が急いているのか、流星はそう言いながら立ち上がっていた。俺はテーブルの上のサングラスを掛け、クローゼットからコートを取り出す。

 流星の肩にコートを掛け、「行こう」と促すと、流星が力強く頷いた。俺達は部屋を後にし、マンションの外に停まっていた車に乗り込んだ。

 病院に着き、受付をする。平日の朝だというのに病院は混雑していた。流星は薬のことがあるため緊急性が高いとされ、優先的に治療を受けることになった。

 幸い薬の量自体少なかったため、薬の成分自体はほとんど検出されなかった。後遺症もさほど酷くはないとみられ、現状症状として現れている頭痛と吐き気を緩和する薬と今後睡眠障害が起こる可能性が高いことから、睡眠薬も処方された。
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