流れる星は海に還る

藤間留彦

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第六話 嵐の後

第六話 嵐の後①

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 誰かが俺の顔に触れる感覚がして目を覚ました。いつの間にか眠ってしまったらしい。

「……おはよ」

 瞼の向こうには俺を見詰めながら微笑む流星の姿があった。憔悴しているようではあったが、いつもの様子に戻っていて胸を撫で下ろす。

「おはよう、リュウ」

 流星の顔に掛かった髪を掻き上げると、血の滲んだガーゼが目に入った。

 昨夜流星が眠った後、怪我をしていないか確かめるためウインドブレーカーとズボンを脱がしたが、側頭部の傷と注射痕以外は縛られていた時の痕があるぐらいだった。側頭部の裂傷は、悪化しないよう消毒してガーゼを被せた。
 家にあったもので簡単に済ませたが、傷の大きさからみて縫合が必要かもしれない。薬の後遺症のことも心配だ。流星が落ち着いたら、できるだけ早く医者に診せた方がいいだろう。

 流星が上体を起こしたが、頭痛がするのか頭を押さえる。俺は流星の背に腕を回し支えた。

「大丈夫か? 無理しなくていい」
「ありがと、平気。ちょっとずきっとしただけ」

 少しも平気とは思えない様子で、ベッドから降りる。と、身体がふらつき前屈みになったので、咄嗟に身体を支えたが、その瞬間流星が口許を押さえて嘔吐した。ほとんど胃液だったが、吐瀉物が流星の身体と俺の腕にかかった。

「っ……兄ちゃん、ごめ……」
「いい、気にするな。まだ気持ち悪くねぇか?」

 流星は少し苦しそうに眉根を寄せ生理的な涙を浮かべて、俺を見上げ「うん」と小さく返事をした。この状況でどうかしていると思うが、その表情が妙に艶っぽく、思わずぞくっとする。慌てて視線を逸らし、流星の身体を抱きかかえて浴室に連れていった。

 洗い場の床に座らせ、吐瀉物で張り付いたTシャツを脱がせる。ふと見ると下着にも染みがついているのが見えて、下着に手を伸ばした。が、下ろそうとした腕を流星が掴んで制止する。

「ひとりで、大丈夫だから……外出てて」

 目を逸らし俯く流星を見る。と、首から耳、肩の辺りまで真っ赤になっていた。そして視界に入ったのは、両胸の薄紅色の上向いた乳頭とずらした下着の隙間から覗く膨らんだ陰茎だった。

「悪い。すぐ出てく」

 俺は逃げるように脱衣所の外の廊下に出て、ドアの横の壁に背をつけた。昨日薬で情欲を誘引させられ、挙句それに無理矢理蓋をしたのだ。起床時の生理現象も相まって昂ってしまうのは理解できる。

 しかし、自分の身体に起こっている異変に動揺していた。どくんどくんと心臓が脈動するのがわかる。予想外のことに驚いたから――いや、違う。流星の劣情を催した肢体に、欲情したのだ。
 その証拠に浴室の側を離れていない。流星が心配だからというのも勿論あるが、それだけではない。半開きのドアの向こうの物音に聞き耳を立てているのだから。

「あっ……あ、ん」

 喘ぎ声が、漏れ聴こえる。先程見た裸体と、昨夜の頬を上気させて俺に「触って」と強請る表情を思い出し、熱い息を吐き出した。下腹部の、怒張するそれに否が応でも気付く。

 ――どうかしている。

 引き返せ、と理性が言う。が、追い打ちを掛けるように、ドアの向こうから聴こえてくる淫らな声に、俺はスラックスのチャックを下ろし、下着をずらして勃ち上がった茎に触れた。
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