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第四話 流星
第四話 流星⑦
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電話を切る。兄ちゃんは俺に何を話そうとしている? もしかして、「真実」を語ろうとしているのか?
どくんどくんと心臓が高鳴る。それはつまり、兄ちゃんに俺が隠してきた気持ちを伝えることに他ならないからだ。
「流星君、いつもの友達来てるよー」
バンドのメンバーの声に顔を上げると、控室の入り口から顔を覗かせる怜が見えた。いつも居るから最近は誰にも止められずに控室まで入ってくる。恐らく俺のマネージャーか何かだと思っている人も居るのではないか。
「緊張してる? 珍しいね」
控室を出て、廊下の壁に寄り掛かると、俺の顔を見た怜が真剣な顔になる。
「嘘。何かあった?」
「……この後兄ちゃんが俺に話があるっぽくてさ。……もしかしたら、隠してること全部話す気かもしれねえ」
俺は自分一人の中にこの感情を抱えていられなくて、怜に吐露した。手が僅かに震えていて拳を反対の手で包む。
「そっか。うん、でも、そういうタイミングかもね」
「……どういう意味だ?」
「いや、こっちの話。流星君は気にしないで」
「気にしないで」という割に気になるような言い回しをする。何か怜は父親の方から「ヤクザ」関連の情報を得ているのだろう。もしかしたら兄ちゃんが組織の中で更に昇進したとか、そういうことが関わっているのかもしれない。
――俺が全部を告白したら、関係が壊れてしまうかもしれない。今までのように仲の良い兄弟ではいられなくなって、もう俺に会わないと言われたら?
「大丈夫?」
顔を強張らせている俺を見て、怜が心配そうに眉根を寄せる。
「本当のこと知るのは怖いよね」
「そうじゃねえ。兄ちゃんが全部を明かすなら、俺も隠さねえって決めてんだ」
怜は目を丸くして、少し首を傾げて考えた後、
「ああ、お兄さんに告白するつもりなんだ」
と、兄ちゃんに対する気持ちを一切話したこともいないのに、納得したように言う。顔が熱くなって硬直したままの俺を見て、怜が笑った。あまり表情に変化のない奴だから珍しい。
「告白とは違うけど、僕だって流星君に初めて声掛けた時、ちょっと怖かったんだ。でも、言わないと後悔すると思ったから勇気出したんだよ」
初めて会った時のことは、怜には悪いがあまり覚えていない。十数人相手に喧嘩した後、どこからともなく現れて、自己紹介して仲良くして欲しいとかそういう感じのことを言われた。
気が立ってたのもあって適当にあしらった気がするが、それから周りをうろうろするようになったという印象だった。
そのことが、怜にとってどれだけ重要な出来事だったのか、俺には分からない。兄ちゃんが俺に真実を伝えるのも、今までずっと秘密にしていたのだ。きっと勇気のいる、怖いことだろう。後悔するのは、俺も嫌だ。俺だけ、秘密を抱えて生きていくのも。
「まあ、そん時になんねえとわかんねーか!」
寄り掛かっていた壁から身体を起こし、怜の肩を拳で軽く小突いて「ありがとな」と言って控室に戻った。無い頭であれこれ考えて、余りにも俺らしくなかった。
俺は兄ちゃんに言われた通り、ライブ会場の場所を添付してメッセージを送った。はなから受け入れられる可能性なんて、万に一つもないことなんだから。当たって砕けろの精神で腹を括る。
どくんどくんと心臓が高鳴る。それはつまり、兄ちゃんに俺が隠してきた気持ちを伝えることに他ならないからだ。
「流星君、いつもの友達来てるよー」
バンドのメンバーの声に顔を上げると、控室の入り口から顔を覗かせる怜が見えた。いつも居るから最近は誰にも止められずに控室まで入ってくる。恐らく俺のマネージャーか何かだと思っている人も居るのではないか。
「緊張してる? 珍しいね」
控室を出て、廊下の壁に寄り掛かると、俺の顔を見た怜が真剣な顔になる。
「嘘。何かあった?」
「……この後兄ちゃんが俺に話があるっぽくてさ。……もしかしたら、隠してること全部話す気かもしれねえ」
俺は自分一人の中にこの感情を抱えていられなくて、怜に吐露した。手が僅かに震えていて拳を反対の手で包む。
「そっか。うん、でも、そういうタイミングかもね」
「……どういう意味だ?」
「いや、こっちの話。流星君は気にしないで」
「気にしないで」という割に気になるような言い回しをする。何か怜は父親の方から「ヤクザ」関連の情報を得ているのだろう。もしかしたら兄ちゃんが組織の中で更に昇進したとか、そういうことが関わっているのかもしれない。
――俺が全部を告白したら、関係が壊れてしまうかもしれない。今までのように仲の良い兄弟ではいられなくなって、もう俺に会わないと言われたら?
「大丈夫?」
顔を強張らせている俺を見て、怜が心配そうに眉根を寄せる。
「本当のこと知るのは怖いよね」
「そうじゃねえ。兄ちゃんが全部を明かすなら、俺も隠さねえって決めてんだ」
怜は目を丸くして、少し首を傾げて考えた後、
「ああ、お兄さんに告白するつもりなんだ」
と、兄ちゃんに対する気持ちを一切話したこともいないのに、納得したように言う。顔が熱くなって硬直したままの俺を見て、怜が笑った。あまり表情に変化のない奴だから珍しい。
「告白とは違うけど、僕だって流星君に初めて声掛けた時、ちょっと怖かったんだ。でも、言わないと後悔すると思ったから勇気出したんだよ」
初めて会った時のことは、怜には悪いがあまり覚えていない。十数人相手に喧嘩した後、どこからともなく現れて、自己紹介して仲良くして欲しいとかそういう感じのことを言われた。
気が立ってたのもあって適当にあしらった気がするが、それから周りをうろうろするようになったという印象だった。
そのことが、怜にとってどれだけ重要な出来事だったのか、俺には分からない。兄ちゃんが俺に真実を伝えるのも、今までずっと秘密にしていたのだ。きっと勇気のいる、怖いことだろう。後悔するのは、俺も嫌だ。俺だけ、秘密を抱えて生きていくのも。
「まあ、そん時になんねえとわかんねーか!」
寄り掛かっていた壁から身体を起こし、怜の肩を拳で軽く小突いて「ありがとな」と言って控室に戻った。無い頭であれこれ考えて、余りにも俺らしくなかった。
俺は兄ちゃんに言われた通り、ライブ会場の場所を添付してメッセージを送った。はなから受け入れられる可能性なんて、万に一つもないことなんだから。当たって砕けろの精神で腹を括る。
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