24 / 50
第四話 流星
第四話 流星⑥
しおりを挟む
賢太は油の処理とフライパンだけを片付けて、いつもよりも慌ただしく部屋を出て行った。大体俺が食べ終わるまで何かの家事をしていて、食べ終わったら皿を洗ってから出て行くことが多い。
さっきは仕事が嘘である方を疑ってカマをかけたが、もしかして仕事で何かあったという方が正しかったのか? 「ヤクザ」の仕事がどういうものか想像でしかないが、物騒なことが起ころうとしているのかもしれない。
ふと時計を見ると、二時を過ぎていた。五時からライブのリハだから、会場には四時過ぎには入っておかないと微妙だ。
コートもクリーニングに出さないといけないし、と考えると三時には家を出ないとまずいのでは――慌てて服を脱ぎ、シャワーを浴びて髪を乾かしながら今日のライブ用の衣装を選んだ。
鞄に衣装を詰めてから、私服に着替えて兄ちゃんのコートを手に家を飛び出した。適当に大通りでタクシーを捕まえて、途中クリーニング店に寄る。コートを出すと、女性店員が怪訝な顔をしたので、染みについて何か言われるかと思ったが、「ポケットにライター入ってます」と手渡した。
細かい傷がついていて、何かのエンブレムが書かれているが掠れて見えない。ビンテージなのだろうか、兄ちゃんが大事にしているものかもしれないと、古めかしいジッポーをジャンパーのボタン付きのポケットにしまった。
タクシーに戻りスマホを見ると、怜からメッセージが来ていた。「今日もうちのメンバー二十人くらい呼んでるよ」と。毎回律儀だな、と思いつつ、感謝の気持ちを隠して「おう」とだけ返す。
会場に着き、他の出演者に軽く挨拶してから、俺のステージのバンドメンバーとセットリストの調整をする。現在ボーカルが不在のバンドの仮のボーカルを務めることが時々ある。バンドに入って欲しいと言ってくれる人もいるけれど、夢に対して真剣になり切れない俺がバンドに対して責任を負えないと思って断っている。
リハーサルを終えて控室に戻り、スマホを手に取ると兄ちゃんから着信が入っていた。慌てて折り返すと、一コール目で電話に出る。
「リュウか!」
焦っているような声だった。何か仕事であったのかもしれないという胸騒ぎが大きくなる。
「ごめん、兄ちゃん! 今日ライブの日でさ、リハしてて出られなかった! どうかしたの?」
「いや、時間が出来たから会いに行ってもいいか?」
「えっ! やった! 全然いいよっ!」
時間が急にできたから会うなんて、今までそんなことはなかった。何かあったのだろうか。疑念を隠して、あくまで明るい声で答える。嬉しいのは嘘ではないが、俺と急に会わなければならない理由ができたのだ。
「ライブ会場まで迎えに行く。何時頃に終わりそうだ?」
「えっと……出演順、最後の方だから……十時くらいかな」
最近家以外で兄ちゃんと会っていない。仕事だけではなく、外で会うこと自体を避けているようだった。俺はその理由をいちいち聞いたりしないが――兄ちゃんに余計な嘘を吐かせることになるだけだから――、兄ちゃんが「ヤクザ」の中で偉くなったせいだと思っていた。もしかしたら、それだけではないのか?
「わかった。場所は後で送っておいてくれ」
さっきは仕事が嘘である方を疑ってカマをかけたが、もしかして仕事で何かあったという方が正しかったのか? 「ヤクザ」の仕事がどういうものか想像でしかないが、物騒なことが起ころうとしているのかもしれない。
ふと時計を見ると、二時を過ぎていた。五時からライブのリハだから、会場には四時過ぎには入っておかないと微妙だ。
コートもクリーニングに出さないといけないし、と考えると三時には家を出ないとまずいのでは――慌てて服を脱ぎ、シャワーを浴びて髪を乾かしながら今日のライブ用の衣装を選んだ。
鞄に衣装を詰めてから、私服に着替えて兄ちゃんのコートを手に家を飛び出した。適当に大通りでタクシーを捕まえて、途中クリーニング店に寄る。コートを出すと、女性店員が怪訝な顔をしたので、染みについて何か言われるかと思ったが、「ポケットにライター入ってます」と手渡した。
細かい傷がついていて、何かのエンブレムが書かれているが掠れて見えない。ビンテージなのだろうか、兄ちゃんが大事にしているものかもしれないと、古めかしいジッポーをジャンパーのボタン付きのポケットにしまった。
タクシーに戻りスマホを見ると、怜からメッセージが来ていた。「今日もうちのメンバー二十人くらい呼んでるよ」と。毎回律儀だな、と思いつつ、感謝の気持ちを隠して「おう」とだけ返す。
会場に着き、他の出演者に軽く挨拶してから、俺のステージのバンドメンバーとセットリストの調整をする。現在ボーカルが不在のバンドの仮のボーカルを務めることが時々ある。バンドに入って欲しいと言ってくれる人もいるけれど、夢に対して真剣になり切れない俺がバンドに対して責任を負えないと思って断っている。
リハーサルを終えて控室に戻り、スマホを手に取ると兄ちゃんから着信が入っていた。慌てて折り返すと、一コール目で電話に出る。
「リュウか!」
焦っているような声だった。何か仕事であったのかもしれないという胸騒ぎが大きくなる。
「ごめん、兄ちゃん! 今日ライブの日でさ、リハしてて出られなかった! どうかしたの?」
「いや、時間が出来たから会いに行ってもいいか?」
「えっ! やった! 全然いいよっ!」
時間が急にできたから会うなんて、今までそんなことはなかった。何かあったのだろうか。疑念を隠して、あくまで明るい声で答える。嬉しいのは嘘ではないが、俺と急に会わなければならない理由ができたのだ。
「ライブ会場まで迎えに行く。何時頃に終わりそうだ?」
「えっと……出演順、最後の方だから……十時くらいかな」
最近家以外で兄ちゃんと会っていない。仕事だけではなく、外で会うこと自体を避けているようだった。俺はその理由をいちいち聞いたりしないが――兄ちゃんに余計な嘘を吐かせることになるだけだから――、兄ちゃんが「ヤクザ」の中で偉くなったせいだと思っていた。もしかしたら、それだけではないのか?
「わかった。場所は後で送っておいてくれ」
11
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
Take On Me 2
マン太
BL
大和と岳。二人の新たな生活が始まった三月末。新たな出会いもあり、色々ありながらも、賑やかな日々が過ぎていく。
そんな岳の元に、一本の電話が。それは、昔世話になったヤクザの古山からの呼び出しの電話だった。
岳は仕方なく会うことにするが…。
※絡みの表現は控え目です。
※「エブリスタ」、「小説家になろう」にも投稿しています。


ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる