流れる星は海に還る

藤間留彦

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第四話 流星

第四話 流星⑥

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 賢太は油の処理とフライパンだけを片付けて、いつもよりも慌ただしく部屋を出て行った。大体俺が食べ終わるまで何かの家事をしていて、食べ終わったら皿を洗ってから出て行くことが多い。

 さっきは仕事が嘘である方を疑ってカマをかけたが、もしかして仕事で何かあったという方が正しかったのか? 「ヤクザ」の仕事がどういうものか想像でしかないが、物騒なことが起ころうとしているのかもしれない。

 ふと時計を見ると、二時を過ぎていた。五時からライブのリハだから、会場には四時過ぎには入っておかないと微妙だ。
 コートもクリーニングに出さないといけないし、と考えると三時には家を出ないとまずいのでは――慌てて服を脱ぎ、シャワーを浴びて髪を乾かしながら今日のライブ用の衣装を選んだ。

 鞄に衣装を詰めてから、私服に着替えて兄ちゃんのコートを手に家を飛び出した。適当に大通りでタクシーを捕まえて、途中クリーニング店に寄る。コートを出すと、女性店員が怪訝な顔をしたので、染みについて何か言われるかと思ったが、「ポケットにライター入ってます」と手渡した。

 細かい傷がついていて、何かのエンブレムが書かれているが掠れて見えない。ビンテージなのだろうか、兄ちゃんが大事にしているものかもしれないと、古めかしいジッポーをジャンパーのボタン付きのポケットにしまった。

 タクシーに戻りスマホを見ると、怜からメッセージが来ていた。「今日もうちのメンバー二十人くらい呼んでるよ」と。毎回律儀だな、と思いつつ、感謝の気持ちを隠して「おう」とだけ返す。

 会場に着き、他の出演者に軽く挨拶してから、俺のステージのバンドメンバーとセットリストの調整をする。現在ボーカルが不在のバンドの仮のボーカルを務めることが時々ある。バンドに入って欲しいと言ってくれる人もいるけれど、夢に対して真剣になり切れない俺がバンドに対して責任を負えないと思って断っている。

 リハーサルを終えて控室に戻り、スマホを手に取ると兄ちゃんから着信が入っていた。慌てて折り返すと、一コール目で電話に出る。

「リュウか!」

 焦っているような声だった。何か仕事であったのかもしれないという胸騒ぎが大きくなる。

「ごめん、兄ちゃん! 今日ライブの日でさ、リハしてて出られなかった! どうかしたの?」
「いや、時間が出来たから会いに行ってもいいか?」
「えっ! やった! 全然いいよっ!」

 時間が急にできたから会うなんて、今までそんなことはなかった。何かあったのだろうか。疑念を隠して、あくまで明るい声で答える。嬉しいのは嘘ではないが、俺と急に会わなければならない理由ができたのだ。

「ライブ会場まで迎えに行く。何時頃に終わりそうだ?」
「えっと……出演順、最後の方だから……十時くらいかな」

 最近家以外で兄ちゃんと会っていない。仕事だけではなく、外で会うこと自体を避けているようだった。俺はその理由をいちいち聞いたりしないが――兄ちゃんに余計な嘘を吐かせることになるだけだから――、兄ちゃんが「ヤクザ」の中で偉くなったせいだと思っていた。もしかしたら、それだけではないのか?

「わかった。場所は後で送っておいてくれ」
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