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第四話 流星
第四話 流星⑤
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しばらく俺の顔を見詰めた後、「はいはい」と呆れたように肩をぽんと叩いて、聞こえるほど大きな溜息を吐いた。
「昨日の肉じゃがまだ残ってるよな? コロッケにしてやるよ」
「やりぃ」
賢太はすぐに話題を変えた。これ以上突っ込んでも気まずくなるだけだから。
賢太は俺が兄ちゃんをそういう意味で好きなのだということを知っている。俺が言ったわけではないが、「見てれば分かる」って。
肝心の兄ちゃんには伝わらないけど、賢太が言うには俺のことに関しては「節穴」なのだとか。理想の弟を演じてきたから、自分に恋愛感情を抱いているなんて微塵も思わないのだ。
コートをベッドの上に置き、トイレ、洗面所で顔を洗い、歯を磨いてリビングに戻ってくると、テーブルに味噌汁と作り置きのきゅうりと人参のピクルス、御飯が置いてあった。賢太はキッチンでコロッケを揚げている。出来上がるまで食べとけということだろう。
「兄ちゃんは?」
キッチンに立つエプロン姿の男の背中を見詰めながら、ぽりぽりときゅうりを齧る。
「……仕事に決まってんだろ。俺だって仕事の合間縫って来てんだからな」
分かっていて聞いている。兄ちゃんが仕事が忙しいのも、賢太が俺の兄ちゃんの代わりに世話してくれているだけで、好きで来てるわけじゃないっていうのも。ただ、賢太はいつでも兄ちゃんに会えるんだよなって思うと、ついむかついてしまう。
しかし、今日は変に間があった。何かあったのだろうか。もしくは仕事というのが嘘なのか。
「兄ちゃんってさー、最近誰か……女の人いるの?」
もしかして、と思って聞いてみると、賢太は鼻で笑って、
「いつも通り、たまに仕事関係で使ってる店の嬢とかそんなん――」
と言い掛けて言葉を切る。賢太は振り返って、顔をにやつかせて俺を見た。
「いや、社内で噂があったわ。皆に隠すくらいとびっきり美人の女がいるらしいってな」
「……え……」
聞かなきゃよかったと心底思った。今まで兄ちゃんに恋人らしい恋人は居なかった。だから、兄ちゃんが誰かのものになる日がくるとは、想像はしても、現実的に考えることはなかった。
ただ俺が知らないだけで、兄ちゃんにはずっと前から居たのかもしれない。もし突然恋人を連れて会いに来たら、結婚すると言い出したら、俺は――。
「ちょっ、お前マジに取んなって! 冗談、冗談だって!」
俺はどんな顔をしていたのだろう。少なくとも賢太が焦るくらい絶望に打ちひしがれた顔をしていたのだろう。
「コロッケ揚がったから食えよ!」
賢太は熱々のコロッケを四つ皿に盛って俺の前に差し出した。笑えない冗談を言うなとムカついたけど、渋々箸でコロッケを一つ摘んで口に運んだ。
「熱ッ!」
「ははっ! あたりめーだ!」
涙目の俺を笑う賢太に苛立ちながら、ふうふうと息を吹きかけ、少し冷ましてから食べた。賢太の飯は昔から美味しい。
けど、兄ちゃんが賢太に料理を任せるようになるまでは、不器用ながらも作ってくれていた。カレーもオムライスもハンバーグも、味は思い出せないけれど、一緒に食べた時の記憶は凄く楽しくて、凄く嬉しかったと俺の心に刻まれている。
「じゃあ、俺はもう出るからな。飯食ったら皿片付けとけよ」
「昨日の肉じゃがまだ残ってるよな? コロッケにしてやるよ」
「やりぃ」
賢太はすぐに話題を変えた。これ以上突っ込んでも気まずくなるだけだから。
賢太は俺が兄ちゃんをそういう意味で好きなのだということを知っている。俺が言ったわけではないが、「見てれば分かる」って。
肝心の兄ちゃんには伝わらないけど、賢太が言うには俺のことに関しては「節穴」なのだとか。理想の弟を演じてきたから、自分に恋愛感情を抱いているなんて微塵も思わないのだ。
コートをベッドの上に置き、トイレ、洗面所で顔を洗い、歯を磨いてリビングに戻ってくると、テーブルに味噌汁と作り置きのきゅうりと人参のピクルス、御飯が置いてあった。賢太はキッチンでコロッケを揚げている。出来上がるまで食べとけということだろう。
「兄ちゃんは?」
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「……仕事に決まってんだろ。俺だって仕事の合間縫って来てんだからな」
分かっていて聞いている。兄ちゃんが仕事が忙しいのも、賢太が俺の兄ちゃんの代わりに世話してくれているだけで、好きで来てるわけじゃないっていうのも。ただ、賢太はいつでも兄ちゃんに会えるんだよなって思うと、ついむかついてしまう。
しかし、今日は変に間があった。何かあったのだろうか。もしくは仕事というのが嘘なのか。
「兄ちゃんってさー、最近誰か……女の人いるの?」
もしかして、と思って聞いてみると、賢太は鼻で笑って、
「いつも通り、たまに仕事関係で使ってる店の嬢とかそんなん――」
と言い掛けて言葉を切る。賢太は振り返って、顔をにやつかせて俺を見た。
「いや、社内で噂があったわ。皆に隠すくらいとびっきり美人の女がいるらしいってな」
「……え……」
聞かなきゃよかったと心底思った。今まで兄ちゃんに恋人らしい恋人は居なかった。だから、兄ちゃんが誰かのものになる日がくるとは、想像はしても、現実的に考えることはなかった。
ただ俺が知らないだけで、兄ちゃんにはずっと前から居たのかもしれない。もし突然恋人を連れて会いに来たら、結婚すると言い出したら、俺は――。
「ちょっ、お前マジに取んなって! 冗談、冗談だって!」
俺はどんな顔をしていたのだろう。少なくとも賢太が焦るくらい絶望に打ちひしがれた顔をしていたのだろう。
「コロッケ揚がったから食えよ!」
賢太は熱々のコロッケを四つ皿に盛って俺の前に差し出した。笑えない冗談を言うなとムカついたけど、渋々箸でコロッケを一つ摘んで口に運んだ。
「熱ッ!」
「ははっ! あたりめーだ!」
涙目の俺を笑う賢太に苛立ちながら、ふうふうと息を吹きかけ、少し冷ましてから食べた。賢太の飯は昔から美味しい。
けど、兄ちゃんが賢太に料理を任せるようになるまでは、不器用ながらも作ってくれていた。カレーもオムライスもハンバーグも、味は思い出せないけれど、一緒に食べた時の記憶は凄く楽しくて、凄く嬉しかったと俺の心に刻まれている。
「じゃあ、俺はもう出るからな。飯食ったら皿片付けとけよ」
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