流れる星は海に還る

藤間留彦

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第四話 流星

第四話 流星④

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 高校を卒業してからもチームの奴等は俺を慕ってくれていて、俺がライブやイベントでステージに立つ時は、怜から毎回連絡があるのか見に来てくれる。
 俺の歌を聴きたいと言ってくれる客は正直多くは無いが、チームの奴等がチケットを捌いてくれるおかげで毎公演半分以上は埋まっているので、赤字にならずに済んでいた。

 今俺にとってプロになる夢は、兄ちゃんが俺が歌で頑張っているのを喜んでくれるから、その終着点だからという理由以上のものはない。
 十代の頃は勘違いしたこともあったけれど、二十三にもなれば自分にプロになる実力があるかどうかくらい分かる。
 インディーズでCDを売ってライブをやって、ぎりぎり食べて行けるくらいの収入を得るくらいがいいところだろう。今と大して変わらないことをやっていくのかもしれない。

 兄ちゃんに歌を聴いてもらったのはどれくらい前だったか分からないが、今聴かせて失望させるのが怖くて、来ないでと言い続けている。たまに聞きに来る兄ちゃんの知り合いの「藤本さん」は毎回大金を渡して去っていく。
 勿論俺の歌が好きだからじゃない。藤本さんは兄ちゃんの「同業」で、きっと俺の親に何か恩義があるのだと思う。しかしクラブのオーナーには、俺があの人の愛人かなんかだと思われていて、否定しようにも説明のしようがないし、その噂が立ってから変な誘いがなくなったので、そのままにしている。

「いってらっしゃい」
「ああ、またな」

 微笑を浮かべ去っていく背に、何度追い縋りたいと思ったか知れない。兄ちゃんと過ごす数時間は天国に昇るような喜びをくれるけれど、その終わりと同時に地獄に突き落とされるような苦しみを与えた。

 次はいつ会えるだろう。毎日数分でもいいから会いたいと思っているけど、そんなことを言って兄ちゃんを困らせたくはなかった。兄ちゃんにとって理想的な、素直で可愛い弟で居続けなければ。

 リビングに戻り、ベッド脇の間接照明を点けてリビングの電気を消した。その時ハンガーラックに掛かった兄ちゃんのコートが目につき、おもむろに手に取った。

 襟の辺りに顔を埋めて鼻腔いっぱいに匂いを吸い込む。グリーン系とムスクの香りの愛用の香水の匂いに混じって、ほのかに煙草の匂いがした。兄ちゃんは俺に悪影響だと思っているのか、煙草を吸っていることを隠しているけど、俺と話している時、度々唇に指を当てる癖からもバレバレだ。

 ずっと側に居て欲しい。側に居たい――。願っても願っても、叶わない甘い夢を想い続けるのは、遅効性の毒のようにゆっくりと俺を蝕んで、気づいた時には手遅れだった。今では有り得ない妄想に没入することでしか、忘れさせてはくれない。

 くらくらするほどの匂いに兄ちゃんに抱き締められているような気分になって身体が熱を持ち始める。
 熱い息を吐き出しながら妄想の中の兄ちゃんを見上げると、発情した弟を「悪い子だ」と言ってTシャツに浮き出るほど勃起した乳首を指先で摘んだ。実際は興奮してきて、コートの匂いを嗅ぎながら自分で乳首を捏ね回しているだけなのだが。
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