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第三話 一海
第三話 一海⑦
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「誰だ、お前? 賢太はどうした?」
「初めまして、僕は流星君の友人の纐纈怜と言います。賢太さんは流星君といるところを複数の男に暴行されて重傷です。今目の前に倒れていて、賢太さんに頼まれて代わりに電話を掛けています」
賢太が暴行を受けた? ――流星は?
「流星君は男達に拉致されました。今他の友人達に追わせてます」
尋ねる前に答えが返ってくる。最悪な状況だが、冷静な青年の声のおかげか動転することはなかった。
「どんな奴等だ?」
「十代から二十代前半くらいの至って普通の男達でした。知った顔では無かったです」
――伊玖磨か?
すぐにそう思ったのは、伊玖磨の島には若者が多数出入りしている。勿論クラブやライブ会場などが多い場所ではあるから当然ではあるが、しかしそういった一般客を考慮しても、それ以外の理由があると思われる未成年の出入りも目立っていた。
纐纈怜の言うように普通の若者だというなら、組の者ではないのだろう。組の者を使えばすぐに首謀者が誰かなど直ぐに分かってしまう。
伊玖磨が出入りしている若者を何らかの弱みを握って脅し、賢太を襲わせ流星を拉致させたとしたら筋が通る。
今流星を拉致して得をするのは、郁次・伊玖磨派の人間だ。そして、事を急いだのにはそれだけの理由がある。流星が跡目になる可能性を潰すことだ。
「纐纈君、賢太を清愛病院に連れて行ってくれないか。懇意にしている病院なんだ」
「分かりました」
流星の友人と話すとは、不思議な気分だ。今まで流星の交友関係は一切聞いたことがなかった。小中高と、進級する度に友達はいないのかと尋ねたが「いない」と答えていた。
その上纐纈君の話では他にも複数の友人が居るようだ。音楽関係の友達かとも思ったが、それにしては友人が拉致されたというのに妙に落ち着いていて対応に慣れているように感じる。
「もし流星君の居場所について何か分かったら、お兄さんに連絡します」
「ああ、俺の方も今すぐ動く」
電話を切ると普段と口調が違ったからか不思議そうな顔で桜庭が俺を見ていた。
「どうかしたんすか?」
「……流星が、弟が拉致された」
と、桜庭が動転して持っていた書類を床に落とした。その音で小西や他に事務所に居た若衆が俺の方に視線を送る。
「お前、車運転できるか?」
「は、はい! 兄貴に運転だけは褒められます!」
立ち上がり、「よし」と桜庭の肩を叩き、事務所の裏に停めてある予備の車のキーを渡した。
「小西、しばらくこいつ借りるぞ」
ここで下の者を動かして流星を探させたら、すぐに見つかるだろう。しかし、それこそ伊玖磨の掌の上で踊らされることになる。小競り合いから発展し、三十三年前と同じように死傷者が出るほどの戦争になる。
伊玖磨の目的は跡目候補の流星と俺の両方を潰すことだ。流星の命は、俺が生きている限り保証されていると考えていい。流星が殺されたとなれば、疑われるのは伊玖磨だ。
俺を自分に嫌疑が掛からない方法で殺し、流星も殺すか跡目になれない状況に追い込む。戦争が始まればいくらでも方法はある。三十三年前と同じように、部下の暴走と言って殺害することも可能になる。
――そんなことはさせるか。
事務所を出て車に乗り込む。シートベルトをしっかり締めて桜庭がエンジンを掛けた。
「頭、どこに向かいましょう?」
「ひとまず風俗街だ。林田に探らせてるが、ソープ店の客の情報から何か掴んでるかもしれねえ」
駐車場から出て大通りに差し掛かると、車が止まった。そうか、運転はできても道が分からないのか。
「右だ。道は俺が指示する」
「す、すんませんっ!」
車が夜の街を走り出す。スマホで林田にソープ店に行くとメールを送る。今はソープ店の情報と、流星の友人からの連絡が頼りだ。もし失敗すれば――。
煙草を取り出すが、ライターが無いことに気付いた。父親の形見のジッポーが手を離れてから、最悪な方向に進んでいっている気がする。どうか、流星を守ってくれ、と祈った。
「初めまして、僕は流星君の友人の纐纈怜と言います。賢太さんは流星君といるところを複数の男に暴行されて重傷です。今目の前に倒れていて、賢太さんに頼まれて代わりに電話を掛けています」
賢太が暴行を受けた? ――流星は?
「流星君は男達に拉致されました。今他の友人達に追わせてます」
尋ねる前に答えが返ってくる。最悪な状況だが、冷静な青年の声のおかげか動転することはなかった。
「どんな奴等だ?」
「十代から二十代前半くらいの至って普通の男達でした。知った顔では無かったです」
――伊玖磨か?
すぐにそう思ったのは、伊玖磨の島には若者が多数出入りしている。勿論クラブやライブ会場などが多い場所ではあるから当然ではあるが、しかしそういった一般客を考慮しても、それ以外の理由があると思われる未成年の出入りも目立っていた。
纐纈怜の言うように普通の若者だというなら、組の者ではないのだろう。組の者を使えばすぐに首謀者が誰かなど直ぐに分かってしまう。
伊玖磨が出入りしている若者を何らかの弱みを握って脅し、賢太を襲わせ流星を拉致させたとしたら筋が通る。
今流星を拉致して得をするのは、郁次・伊玖磨派の人間だ。そして、事を急いだのにはそれだけの理由がある。流星が跡目になる可能性を潰すことだ。
「纐纈君、賢太を清愛病院に連れて行ってくれないか。懇意にしている病院なんだ」
「分かりました」
流星の友人と話すとは、不思議な気分だ。今まで流星の交友関係は一切聞いたことがなかった。小中高と、進級する度に友達はいないのかと尋ねたが「いない」と答えていた。
その上纐纈君の話では他にも複数の友人が居るようだ。音楽関係の友達かとも思ったが、それにしては友人が拉致されたというのに妙に落ち着いていて対応に慣れているように感じる。
「もし流星君の居場所について何か分かったら、お兄さんに連絡します」
「ああ、俺の方も今すぐ動く」
電話を切ると普段と口調が違ったからか不思議そうな顔で桜庭が俺を見ていた。
「どうかしたんすか?」
「……流星が、弟が拉致された」
と、桜庭が動転して持っていた書類を床に落とした。その音で小西や他に事務所に居た若衆が俺の方に視線を送る。
「お前、車運転できるか?」
「は、はい! 兄貴に運転だけは褒められます!」
立ち上がり、「よし」と桜庭の肩を叩き、事務所の裏に停めてある予備の車のキーを渡した。
「小西、しばらくこいつ借りるぞ」
ここで下の者を動かして流星を探させたら、すぐに見つかるだろう。しかし、それこそ伊玖磨の掌の上で踊らされることになる。小競り合いから発展し、三十三年前と同じように死傷者が出るほどの戦争になる。
伊玖磨の目的は跡目候補の流星と俺の両方を潰すことだ。流星の命は、俺が生きている限り保証されていると考えていい。流星が殺されたとなれば、疑われるのは伊玖磨だ。
俺を自分に嫌疑が掛からない方法で殺し、流星も殺すか跡目になれない状況に追い込む。戦争が始まればいくらでも方法はある。三十三年前と同じように、部下の暴走と言って殺害することも可能になる。
――そんなことはさせるか。
事務所を出て車に乗り込む。シートベルトをしっかり締めて桜庭がエンジンを掛けた。
「頭、どこに向かいましょう?」
「ひとまず風俗街だ。林田に探らせてるが、ソープ店の客の情報から何か掴んでるかもしれねえ」
駐車場から出て大通りに差し掛かると、車が止まった。そうか、運転はできても道が分からないのか。
「右だ。道は俺が指示する」
「す、すんませんっ!」
車が夜の街を走り出す。スマホで林田にソープ店に行くとメールを送る。今はソープ店の情報と、流星の友人からの連絡が頼りだ。もし失敗すれば――。
煙草を取り出すが、ライターが無いことに気付いた。父親の形見のジッポーが手を離れてから、最悪な方向に進んでいっている気がする。どうか、流星を守ってくれ、と祈った。
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