流れる星は海に還る

藤間留彦

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第三話 一海

第三話 一海⑥

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「今夜弟と話をするつもりだ。賢太に迎えに行かせてるが、それ次第だな」

 俺の煮え切らない答えにまたざわざわとし始めるが、

「頭の弟さんって、どんな人なんすかぁ?」

 と事務所のドアの前に突っ立っていた桜庭が間の抜けた顔で言う。即座に小西に「馬鹿野郎、下っ端が出しゃばるんじゃねえ!」と思い切り頭を殴り付けられる。

「少なくとも、ヤクザには向いてねえよ」

 真っ当にお天道様の下、明るく照らされた道を歩んで欲しい。俺が願うのはそれだけだった。

 そのためには伊玖磨を跡目の候補から外し、俺が跡目になる道筋を作らなければならない。藤本さんは組の島で出回っている薬の出どころを探っていたようだが、伊玖磨の妙な上納金の源泉が薬だとしたら全て納得がいく。
 しかし、藤本さんが尻尾を掴めないのだから、ごく一部の人間にしか伊玖磨は薬に関わらせていないとみるべきだ。――いや、組の関係者を使っていない可能性すらある。

 話が終わって次々と退出していく中、とぼとぼと背中を丸めて俺に近付いてくる男がいた。林田だ。

「頭、生意気な口利いてすいませんしたっ!」

 目と頬を腫らして頭を下げるのを見て、ふと林田を拾った時のことを思い出した。

 かつてホストだった林田には、月に数百万払ってくれる太客の風俗嬢が居たが、その嬢は半グレの男のイロで、男の家から金を盗んで貢いでいた。そのことがバレて、女は林田が指示したと嘘を吐き、林田は半殺しの目に遭った。

 林田を拾ったのはその境遇に同情したのもあるが、その半グレ集団が辻倉組の島で勝手にガールズバー――実態は裏メニューに性的な接客が含まれる風俗店だった――を始めたことに絡んだものだった。

 例の嬢に男の家を聞き出し、乗り込んで締め上げたのだが、その時に半グレ集団のボスとは話をつけて、今回のことは目を瞑りソープの店を任せてやる代わりに辻倉組やそれ以外の組の情報を流すようにと取り決めた。風俗店には色々な客が足を運ぶ。そしてその店のすぐ近くに、伊玖磨の島があるのだ。

「林田、例の店長とは上手くやってるか?」
「あぁ、はい! 系列店もできて、アガリも上々です!」
「そうか」

 煙草を取り出すと、林田がさっとポケットからジッポーを取り出し、火を点ける。ホスト時代の癖なのか「失礼します」と炎に手を添えて咥えた煙草の先に点けた。

「店長に連絡を取れ。調べてもらいたいことがある」

 つい今までしょぼくれていた林田は、「はい、なんでもやります!」と目を輝かせた。

 伊玖磨と薬の関係を明確に割り出すのは難しい。しかし、客が薬をどこで入手したかを調べることができれば、自ずとルートが明らかになる。

 辻倉組では薬の売買は御法度だ。もしそれが白日の下に晒されれば、伊玖磨が跡目となることはない。それどころか破門となるだろう。

 林田には店長に連絡を取り、客に薬物中毒の者や売人、もしくはその知人がいないかを探らせることにした。無論、目立った行動は控えるように釘を刺しておいたが。

 そうして事務所で十時になるまで溜まっていた報告書等の書類に目を通すなどして時間を潰した。そろそろ賢太から連絡が来る頃か、とスマホを手に取った時、ちょうど「三又賢太」と液晶に表示されて電話に出た。

「流星君のお兄さんですよね?」

 聞いたことのない若い男の声だった。画面の名前を確かめるが、賢太の番号から掛かってきていた。
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