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第三話 嘘から始まる約束①
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特に予定もない土曜の夜だった。静かにクラシック音楽が流れ、マスターも無意味に絡んでこない落ち着ける馴染みのゲイバー。カウンターの一番端の定位置でウィスキーを飲む。
同年代かそれより年齢が下の若者は、ダンスミュージックやポップミュージックのかかった店を選ぶから、ほとんど年配の男性ばかりだ。
そのため、出会いを求めて無理矢理会話をしようとする客も少なく、見知った顔が多い。私に気軽に話し掛けてくる者が、もう居なくなっただけなのだが。
こんな店に来ておいて、友人知人も居ない私が出会いを求めていないなどあり得ない。当然恋人を作りたいと願い、期待して来ている。
しかし、私が欲しいのは生涯を共にしてもいいと思える伴侶であって、新しい恋をするまでの数ヶ月数年を過ごすだけの相手ではない。セフレや一夜で終わる相手などもってのほかだ。
──重い。
二年前に恋人にこの想いを伝えたら、そう言われて振られた。それまであまりパートナーについて意識していなかったが、三十歳になって将来を考えるようになったのだ。
正直元恋人は初めから別れるまで私とのことを真剣に考えてはいなかったし、私にバレていないと思っていたようだが何度も浮気をしていた。だからあえて相手に別れを切り出させるような話をしたのだ。
高校時代に身体の関係だけあった友人、今まで付き合ってきた恋人のようなセフレのような曖昧な複数の相手。手を離すことを前提にした付き合いは気楽だが、何も残らない。あまりに空虚だった。
私は心理学者だ。大学で准教授として学生に教えてもいる。カウンセリングをすることもある。
恋人に対しても癖で、帰りが遅い時に「作り話をしている」ことやプレゼントをした時に「嬉しくない」こと、別れ話をしている時に今までありがとうと言いながら「せいせいする」と思っていることを解ってしまう。
それらの嘘を見ない振り、知らない振りをして過ごすのが、どれだけ負担になっていたのか、この二年恋人の居ない生活を送って知った。
だから、これから作る恋人を最後にしようと思っている。嘘偽りのない、真面目で誠実な相手と、互いを慈しみ合い支え合いながら生きていきたい。それが叶わないなら、私は一生独りで生きていこうと決めていた。
「お兄さん、隣いいですか?」
縁の無い丸型のサングラスを掛けた背中ほどにまで長く伸ばした金髪の、すらりとした背の高い男。そう、こんな不誠実の塊のような見た目の男などは絶対に有り得ない。
「ま、嫌だって言われても座りますけど」
口元に笑みを浮かべて椅子を引き、座る。ライトブラウンのロングコートに黒のハイネックニット、白のタイトなダメージジーンズ、ブラウンの革靴、黒革のクラッチバッグ、シルバーのネックレス、リング、ピアス──身につけているもの全てを把握し、動きや表情を細かく観察する。
「初めまして。俺、安理って言います。お兄さんは?」
「……伊涼だ」
「伊涼さん。宜しくです」
そう言って笑みを浮かべたあと、辺りを見回してから、私のグラスを見た。
「それ、何ですか?」
ある程度こういう場で遊んでいるなら見ればわかりそうだが、安理という青年は酒に対する知識が無いようだ。それにバーにも来慣れていないのか、居酒屋のようにメニューを探すように視線を動かした。
同年代かそれより年齢が下の若者は、ダンスミュージックやポップミュージックのかかった店を選ぶから、ほとんど年配の男性ばかりだ。
そのため、出会いを求めて無理矢理会話をしようとする客も少なく、見知った顔が多い。私に気軽に話し掛けてくる者が、もう居なくなっただけなのだが。
こんな店に来ておいて、友人知人も居ない私が出会いを求めていないなどあり得ない。当然恋人を作りたいと願い、期待して来ている。
しかし、私が欲しいのは生涯を共にしてもいいと思える伴侶であって、新しい恋をするまでの数ヶ月数年を過ごすだけの相手ではない。セフレや一夜で終わる相手などもってのほかだ。
──重い。
二年前に恋人にこの想いを伝えたら、そう言われて振られた。それまであまりパートナーについて意識していなかったが、三十歳になって将来を考えるようになったのだ。
正直元恋人は初めから別れるまで私とのことを真剣に考えてはいなかったし、私にバレていないと思っていたようだが何度も浮気をしていた。だからあえて相手に別れを切り出させるような話をしたのだ。
高校時代に身体の関係だけあった友人、今まで付き合ってきた恋人のようなセフレのような曖昧な複数の相手。手を離すことを前提にした付き合いは気楽だが、何も残らない。あまりに空虚だった。
私は心理学者だ。大学で准教授として学生に教えてもいる。カウンセリングをすることもある。
恋人に対しても癖で、帰りが遅い時に「作り話をしている」ことやプレゼントをした時に「嬉しくない」こと、別れ話をしている時に今までありがとうと言いながら「せいせいする」と思っていることを解ってしまう。
それらの嘘を見ない振り、知らない振りをして過ごすのが、どれだけ負担になっていたのか、この二年恋人の居ない生活を送って知った。
だから、これから作る恋人を最後にしようと思っている。嘘偽りのない、真面目で誠実な相手と、互いを慈しみ合い支え合いながら生きていきたい。それが叶わないなら、私は一生独りで生きていこうと決めていた。
「お兄さん、隣いいですか?」
縁の無い丸型のサングラスを掛けた背中ほどにまで長く伸ばした金髪の、すらりとした背の高い男。そう、こんな不誠実の塊のような見た目の男などは絶対に有り得ない。
「ま、嫌だって言われても座りますけど」
口元に笑みを浮かべて椅子を引き、座る。ライトブラウンのロングコートに黒のハイネックニット、白のタイトなダメージジーンズ、ブラウンの革靴、黒革のクラッチバッグ、シルバーのネックレス、リング、ピアス──身につけているもの全てを把握し、動きや表情を細かく観察する。
「初めまして。俺、安理って言います。お兄さんは?」
「……伊涼だ」
「伊涼さん。宜しくです」
そう言って笑みを浮かべたあと、辺りを見回してから、私のグラスを見た。
「それ、何ですか?」
ある程度こういう場で遊んでいるなら見ればわかりそうだが、安理という青年は酒に対する知識が無いようだ。それにバーにも来慣れていないのか、居酒屋のようにメニューを探すように視線を動かした。
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