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終章 最果て
最終話
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「いや、ちょっとはしゃぎすぎたな」
木陰に停めた車に、俺とユンは戻りながら、濡れたズボンの裾を絞ってふくらはぎの辺りまで折り畳んだ。裸足で車に乗り込み、積んでいたペットボトルの水を取り出し、交互に飲んで喉の渇きを癒した。
「髪まで濡れてるよ」
そう言って運転席に座っているユンは、乾いた布で助手席に身を乗り出して俺の髪を拭ってくれる。俺があと少し近付いたらキスできるかも、と思った時にはユンの唇に口付けていた。
「っ、エイク……!」
不意打ちに顔を赤らめるユンに、キス以上のことだってあれから結構してるのに、いつも恥ずかしがるから、そういうところが可愛いと思う。
俺は濡れた上着を脱いで、ユンの首に腕を回した。
「ここ離れる前に、一回シようぜ? コロニーじゃ声も我慢しなきゃならないし」
『コロニー』というのは、シェルターの外の世界に作られた人々の新しい生活の場のことだ。
あれから、三か月が過ぎた。『オメガの城』を中心とした政府は崩壊、オリヴァーの組織『GHOST』が主導して、シェルターに籠る前にあったという市民が主体となって行う政治――民主主義による政治をスタートさせた。
αの非道な行いを正しく裁くために、法律や裁判制度を整え、またβへの非道な扱いやΩに対する性差別に対しての啓蒙活動も行われている。
その中で、『GHOST』のメンバーを中心に外の世界の調査が始まった。俺とユンは、そのメンバーに加わり、車を使って移動しながら、周辺環境や資源、動植物の調査をしている。
更にコロニーをシェルターから離れた外に作ってからは、移動範囲が更に広がるようになった。俺達は燃料タンクを荷台に積んで、今日で三日目の遠征だ。そろそろ燃料の三分の一が過ぎたところだから、帰還しようと思っていたのだが、しかしコロニーは作られたばかりなので、掘っ立て小屋に複数の人間が雑魚寝という感じなのだ。
「いやいやいや、お前ら通信切ってからにしろよ!」
良い感じの雰囲気をぶった切るように、車のダッシュボードに置かれた通信機から、オリヴァーの声がする。そういえば、十分後に戻ると言って車を出てからそのままにしていた。
「じゃあ、そうする。終わったら掛け直すわ」
「はあッ? こっちはお前が十分って言ってから一時間待ってんだぞ! ってか、辿り着いたんだろ? 報告――」
俺は通信機のスイッチを切ってダッシュボードに放り投げた。
「オリヴァーに後で怒られると思うけど……」
「いいんだよ! お前は俺としたくないわけ?」
熱っぽい眼差しを向けると、ユンは俺の濡れて肌に引っ付いているタンクトップを捲り上げた。そしてもう一度、口付けを交わすと、ユンはふふっと吹き出すように笑った。
「エイクの口、少ししょっぱいよ」
「いいだろう? ここでしか味わえねぇぜ、きっと」
俺達はまた、沈み込むように深く口付けを交わした。海辺の、波音を聴きながら。
大地には果てがあったけれど、この海には果てがあるのだろうか。この世界の真実を解き明かすのは、まだまだ先のことになりそうだ。
木陰に停めた車に、俺とユンは戻りながら、濡れたズボンの裾を絞ってふくらはぎの辺りまで折り畳んだ。裸足で車に乗り込み、積んでいたペットボトルの水を取り出し、交互に飲んで喉の渇きを癒した。
「髪まで濡れてるよ」
そう言って運転席に座っているユンは、乾いた布で助手席に身を乗り出して俺の髪を拭ってくれる。俺があと少し近付いたらキスできるかも、と思った時にはユンの唇に口付けていた。
「っ、エイク……!」
不意打ちに顔を赤らめるユンに、キス以上のことだってあれから結構してるのに、いつも恥ずかしがるから、そういうところが可愛いと思う。
俺は濡れた上着を脱いで、ユンの首に腕を回した。
「ここ離れる前に、一回シようぜ? コロニーじゃ声も我慢しなきゃならないし」
『コロニー』というのは、シェルターの外の世界に作られた人々の新しい生活の場のことだ。
あれから、三か月が過ぎた。『オメガの城』を中心とした政府は崩壊、オリヴァーの組織『GHOST』が主導して、シェルターに籠る前にあったという市民が主体となって行う政治――民主主義による政治をスタートさせた。
αの非道な行いを正しく裁くために、法律や裁判制度を整え、またβへの非道な扱いやΩに対する性差別に対しての啓蒙活動も行われている。
その中で、『GHOST』のメンバーを中心に外の世界の調査が始まった。俺とユンは、そのメンバーに加わり、車を使って移動しながら、周辺環境や資源、動植物の調査をしている。
更にコロニーをシェルターから離れた外に作ってからは、移動範囲が更に広がるようになった。俺達は燃料タンクを荷台に積んで、今日で三日目の遠征だ。そろそろ燃料の三分の一が過ぎたところだから、帰還しようと思っていたのだが、しかしコロニーは作られたばかりなので、掘っ立て小屋に複数の人間が雑魚寝という感じなのだ。
「いやいやいや、お前ら通信切ってからにしろよ!」
良い感じの雰囲気をぶった切るように、車のダッシュボードに置かれた通信機から、オリヴァーの声がする。そういえば、十分後に戻ると言って車を出てからそのままにしていた。
「じゃあ、そうする。終わったら掛け直すわ」
「はあッ? こっちはお前が十分って言ってから一時間待ってんだぞ! ってか、辿り着いたんだろ? 報告――」
俺は通信機のスイッチを切ってダッシュボードに放り投げた。
「オリヴァーに後で怒られると思うけど……」
「いいんだよ! お前は俺としたくないわけ?」
熱っぽい眼差しを向けると、ユンは俺の濡れて肌に引っ付いているタンクトップを捲り上げた。そしてもう一度、口付けを交わすと、ユンはふふっと吹き出すように笑った。
「エイクの口、少ししょっぱいよ」
「いいだろう? ここでしか味わえねぇぜ、きっと」
俺達はまた、沈み込むように深く口付けを交わした。海辺の、波音を聴きながら。
大地には果てがあったけれど、この海には果てがあるのだろうか。この世界の真実を解き明かすのは、まだまだ先のことになりそうだ。
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