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第三章 反乱因子
第三十話
しおりを挟む「だが、そうだとしても、俺が与することでユンを危険な目に遭わせることになるんだ。簡単に答えは出せない」
「はあ? あんた恩知らず過ぎるでしょ!」
前のめりになるリェンをオリヴァーが制する。
「お前らがもし一緒になりたいと望んでいるなら、少なくともこの世界では無理だって解ってるだろ」
オリヴァーの言葉に、現実を突き付けられるようだった。俺は今や指名手配犯、見つかれば即処刑。
片やユンは士官として城に従事し、Ωと子作りに勤しむことになる。俺がΩだろうと、恐らく覆らない。何せ、ユンはアダムの直系「フォルスター」なのだから。
「俺は初めエイクがユンベルトと仲が良いことから、βの中に紛れ込ませた城側のスパイではないかと疑って接近した。城の施設に居た奴が記憶喪失で発見されたなんて、余りにも怪しかったからな」
基幹学校に入って間もなくの頃、遠巻きにしている周囲に対して、オリヴァーだけは俺に親切だった。
それが、俺を城のスパイだと思ってのことだったのだ。ユンを除いて、俺が友人と呼べるのはオリヴァーくらいのものだから、その事実は少し残念ではある。
しかし、オリヴァーが初恋の相手を殺した軍人、果てはβへの不当な扱いを容認している城への復讐のために、一貫した行動原理を取っていることは評価すべき点だ。そんなオリヴァーがボスであるなら、組織の力を信じる理由になる。
「だが、同じ工場で働くようになって、お前がどういう意図でやっているのかは未だに分からないが、城へ納品する組み込み機器に多数の測定器を仕込んでいることを知った。城側のスパイなら、そんなことはしない。むしろ、俺達組織に与してくれる可能性すら感じた。指名手配犯となった今なら尚更だ」
上手く隠していたつもりだったが、オリヴァーは知っていたのか。
もしかすると工場長が俺のことを怪しんで、最終検品を誰かに命じていたのかもしれない。それが奇跡的に『GHOST』の人間だったために、俺の罪は見逃されてきたのだ。
「この十年、お前達を見て来て確信していることがある。俺達組織には、お前達が必要だ! 今まで踏み出せなかった城攻めを、成功させるための最後のピースなんだ! 手を貸してくれ!」
俺にはもう、二つしか道が残されていない。城に捕まり処刑されるか、組織に与して城を落とすかだ。
もしオリヴァーが言うように「自由」を手に入れたなら、俺はユンと生きる未来を歩める。そして、きっと俺の望む「世界の真実」を知ることができるだろう。
「友人に頼まれちゃ断れねえよ」
そう言って俺がオリヴァーに手を差し出すと、オリヴァーはいつもの表情に戻って、俺の手を握った。
「じゃあ、お前らが俺達に秘密を明かしてくれたんだ。俺も今日見たことと、俺の秘密の話をしてやる。城攻めの役に立つかは分からないけどな」
俺は入隊式で起こったことと、俺の身体の秘密を明かした。オリヴァーもリェンも信じられない様子だったので、脱いで見せてやるかと思ったが、ユンに止められてしまった。
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