オメガの城

藤間留彦

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第三章 反乱因子

第二十五話

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 俺のように記憶が無いから、偏った考え方をしないでいられるのとは違う。
 自分にとって有利で、生きやすいはずの世界に、疑問の目を向けることができるのは、ユンが本当の意味で聡明な人間だからなのだ。

 俺がユンに強く惹かれていったのは、容姿や柔和な性格だけではなく、聡明さを併せ持っていたからだと今こうして話をしてみて思う。

「士官が城に入ってほとんど外に出て来なくなる理由って……まさか、毎日セックス三昧だからってことはないよな?」
「さすがにそれはないと思うよ。政府の中枢に入ることになるから、城の機密情報保持のためだろう」

 顔を強張らせる俺に、ユンは「有り得ない話ではないけどね」と苦笑する。
 他にも演劇や歌唱の番組制作を担っているのかもしれないが、それ以外に城の中でΩを囲ってやっていることなど、子作り以外にないと思うのだけれど。つくづくユンが城に行く前で良かった。

 と、そこでようやく事態が不味いことになっているのではないか、ということに気付いた。入隊式の最中に、ユンは消えてしまったのだ。
 他の士官達はあの乱痴気騒ぎの後どうしているのか分からないが、いい加減正気に戻っている頃だ。
 とすれば、城側の指示が何かしらあるだろう。消えた人間がいることは、すぐに把握されてしまう。
 そして、俺に襲い掛かりユンに吹っ飛ばされた男が、俺を連れて逃げたことを証言している可能性もある。

「……おいユン、お前戻らないと不味いんじゃねえか?」
「今更戻ってどうするの? 戻ったところで君と会えなくなるだけだ。状況を把握して、エイクと居られる道を見出すまでは、僕はあちら側に戻る気はない。もう絶対に君を手放さないと決めたからね」

 これってプロポーズでは? 直球過ぎる言葉に赤面して戸惑う俺を、ユンは優しい笑みを浮かべて見詰めていた。

 が、急に表情が曇り、工場の出入り口の方を鋭い目つきで見遣る。人の気配がする。今まで誰もこの廃工場に立ち入った者は居ないというのに。
 ユンが俺に「動くな」と言うように手で示し立ち上がる。そして、足音と気配を殺して工場の出入り口に向かう。この動きは、正しく軍のエリートといったところだ。

「う、ぐっ……やめ、放せ……!」

 少しの沈黙の後、聞いたことのある声が聞こえて、俺は慌てて出入り口に走った。

 そこで見たのは、ユンに絞められたのか、喉を押さえて地べたに座り込み、ぜえぜえと肩で息をする赤毛の天然パーマの男――オリヴァーとその隣で「大丈夫?」と半笑いで声を掛ける黒髪を短く刈った色白の男だった。
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