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第二章 第二の秘密
第十四話
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「一生地面でオナってろ! クソ豚野郎ッ!」
こんな日に俺に目を付けたのが運の尽きだ。俺は苛立ちをぶつけるように男の顔面を蹴り上げた。それが運悪く顎にクリーンヒットしたらしく、男は気を失ってしまった。
深く溜息を吐いて、俺は予定通りのルートで施設に向かい、αの居住区に少し入ったところにある施設へビルの屋根を使って侵入した。本来なら居住区に近付いた時点で軍人にマークされるが、俺は偽装しているので彼らの巡回の時間さえ避ければ簡単にここまで来れる。科学の力を信用し過ぎたための怠慢と言えるかもしれない。
俺は予定通り塀の向こうにある木の影に隠れた。そこから、縦横全くのずれもなく整列している軍服の、身体の大きな男たちの姿が見えた。その中からひと際背の高い黒髪の男を見つけた。遠くからでも分かる。ユンだ。
「これより、第一三六期士官・入隊式を始める! 敬礼!」
号令に合わせて男たちが一糸乱れぬ動きで敬礼のポーズを取ると、奥に見える壇上にテレビでしか観たことのない軍部のトップである総帥が現れた。確か七十歳を超えているはずだが、銀髪なだけで遠目に見ても全く衰えているようには見えない。
そしてその後ろから真っ黒のドレスを着て、顔をベールで覆った人物が現れた。そして総帥の隣に寄り添うように立つ。その瞬間、周囲の空気が変わるのが分かった。
――彼女だ。この世界を唯一治めることを許された、唯一の女性。女王「オフィーリア」。
どういう原理なのか俺には分からない。殺人ウイルスによって、この世全ての女性は失われたはずだ。それなのに、「女王」が今のこの瞬間まで生存し、統治し続けている。
彼女は、第六九代目の女王。女王は歴代軍部総帥の妻でもある。実質権力を握っているのは軍部というわけだ。その構造を成り立たせるための象徴として、女王が存在しているのだ。
初めてテレビで見た時、男が偽装しているのではと疑ったが、身体つきが丸みを帯びているし、胸の辺りが膨らんで見える。更に過去、女王の世話係をしていたΩが、「彼女には男性器が無く、股の間にあったのは割れ目だけだった」と証言している。
その形などを明瞭に描写した彼の証言と古い文献にあった女性器について書かれた特徴が一致していることから、世話係の証言は真実だと決定づけられた。つまり女王は、紛れもなく「女性」なのだ。
総帥が軍人の心得を説く間、これから士官となる者達の多くは彼女に気を取られているようだった。ユンはどうだろうかと思ったが、表情までは窺えなかった。俺も小さくしか見えないが、彼女をじっと見つめた。
「――では、最後にオフィーリア女王から、激励の歌を御贈り頂く! 一同、胸に手を!」
歌? 女王の声など聞いたことも見たことも無いのに、歌だと――?
気付くと壇上の周りに、何度もテレビで見たことのあるΩが整列していた。その中にはオリヴァーが好きだと言っていた二コラの姿もある。
今まで静かだった男たちがあまりの状況にざわついたが、「静粛に!」の声と女王が壇上の中央に立つのを見てしんと静まり返った。そして、女王が両手を組み、天を仰ぐ。
こんな日に俺に目を付けたのが運の尽きだ。俺は苛立ちをぶつけるように男の顔面を蹴り上げた。それが運悪く顎にクリーンヒットしたらしく、男は気を失ってしまった。
深く溜息を吐いて、俺は予定通りのルートで施設に向かい、αの居住区に少し入ったところにある施設へビルの屋根を使って侵入した。本来なら居住区に近付いた時点で軍人にマークされるが、俺は偽装しているので彼らの巡回の時間さえ避ければ簡単にここまで来れる。科学の力を信用し過ぎたための怠慢と言えるかもしれない。
俺は予定通り塀の向こうにある木の影に隠れた。そこから、縦横全くのずれもなく整列している軍服の、身体の大きな男たちの姿が見えた。その中からひと際背の高い黒髪の男を見つけた。遠くからでも分かる。ユンだ。
「これより、第一三六期士官・入隊式を始める! 敬礼!」
号令に合わせて男たちが一糸乱れぬ動きで敬礼のポーズを取ると、奥に見える壇上にテレビでしか観たことのない軍部のトップである総帥が現れた。確か七十歳を超えているはずだが、銀髪なだけで遠目に見ても全く衰えているようには見えない。
そしてその後ろから真っ黒のドレスを着て、顔をベールで覆った人物が現れた。そして総帥の隣に寄り添うように立つ。その瞬間、周囲の空気が変わるのが分かった。
――彼女だ。この世界を唯一治めることを許された、唯一の女性。女王「オフィーリア」。
どういう原理なのか俺には分からない。殺人ウイルスによって、この世全ての女性は失われたはずだ。それなのに、「女王」が今のこの瞬間まで生存し、統治し続けている。
彼女は、第六九代目の女王。女王は歴代軍部総帥の妻でもある。実質権力を握っているのは軍部というわけだ。その構造を成り立たせるための象徴として、女王が存在しているのだ。
初めてテレビで見た時、男が偽装しているのではと疑ったが、身体つきが丸みを帯びているし、胸の辺りが膨らんで見える。更に過去、女王の世話係をしていたΩが、「彼女には男性器が無く、股の間にあったのは割れ目だけだった」と証言している。
その形などを明瞭に描写した彼の証言と古い文献にあった女性器について書かれた特徴が一致していることから、世話係の証言は真実だと決定づけられた。つまり女王は、紛れもなく「女性」なのだ。
総帥が軍人の心得を説く間、これから士官となる者達の多くは彼女に気を取られているようだった。ユンはどうだろうかと思ったが、表情までは窺えなかった。俺も小さくしか見えないが、彼女をじっと見つめた。
「――では、最後にオフィーリア女王から、激励の歌を御贈り頂く! 一同、胸に手を!」
歌? 女王の声など聞いたことも見たことも無いのに、歌だと――?
気付くと壇上の周りに、何度もテレビで見たことのあるΩが整列していた。その中にはオリヴァーが好きだと言っていた二コラの姿もある。
今まで静かだった男たちがあまりの状況にざわついたが、「静粛に!」の声と女王が壇上の中央に立つのを見てしんと静まり返った。そして、女王が両手を組み、天を仰ぐ。
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