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第一章 第一の秘密
第十一話
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隠れ家には、廃棄されたカーペットやベッド、ソファを運び込んでいて、工場内に置いてあった機械をテーブル代わりにして使っている。今では家よりも快適なので、俺はほとんど家には帰らず、ここで廃棄された機械を修理したり改造したりして過ごしていた。
ちなみに、βは位置情報を把握されているので、本来居住を許可されている場所以外で長時間滞在している場合、捕捉され最悪反逆罪で極刑となる。
しかし、俺は廃棄物処理場のゴミから低周波の電磁波を発生させる腕時計型小型装置を発明し通信を遮断している。更に位置情報の発信が三十分に一回であるという調査結果をもとに、チップと同様の周波数の発信機を開発し、自宅に居るように偽装している。
こういった偽装工作をしてまでこの廃工場に来るのは、廃棄物をくすねるのに便利だし好きに機械を弄れるというのもあるが、ユンと監視下にない場所で気軽に会えるというのも理由の一つだった。
「じゃあ乾杯しようか」
なみなみとコップに注いだ焼酎を俺に手渡し、ソファに座る俺の隣に腰を下ろした。テーブルの上には、ユンが用意してくれた食べ物が広げられている。
「乾杯!」
コップを合わせた後、俺は一気に焼酎を飲み干した。ユンはあまり強くないので、三割くらい飲んでふうと息を吐く。
「かぁー! 美味い! なんだこれやべえ!」
「あんまりペース上げて飲んで、具合悪くなっても知らないよ」
と、ユンは空になったコップに酒を注ぐ俺を見て苦笑する。
「明日休みだし! それにぶっ倒れたらユンが介抱してくれるしな?」
そう言ってユンに甘えるように凭れ掛かると、「もう酔ってる? しっかりしてよ」と困ったように笑って俺を真っ直ぐ座るように押し返した。
人工肉を貪りながら、今度は味わって一口だけを口に含む。焼酎のラベルには「純麦」と書かれていた。そりゃ美味いわけだ。
「もうここにもあまり来れなくなるなぁ」
ぽつりとユンが呟く。「あまり」と言ったのは、彼の優しさだろう。
士官となるユンは、城に配属されることになる。つまり、城の極秘情報を知ることになるのだ。外部に漏れることを避けるため、許可が無い限り城外に出ることを制限される。
そして――やがていずれかのΩと番になる。それは、αの中でもエリートでアダムの直系血族であるユンベルトにとって、当然のことだ。βである俺が、一生労働者として生きることを定められているように。
「城の人間に虐められても泣くなよ! もう慰めてくれる友人は居ねえんだからな!」
「その心配は要らないよ。僕泣いたことないから」
涙のように二つ左の頬に黒子があるのだが、そこに一生分の涙を置いてきてしまったのかもしれないと思う。かつて上級生のしごきに遭った、と腕の骨を折っていた時があった。
きっとそれだけではなく、俺の知らないところで辛い目に遭っていただろう。しかしユンは涙どころか、「今度は上手くやるから心配しないで」と笑った。
「エイクこそ、僕に会えないからって泣かないでね」
「泣くかよ、ばーか!」
ユンの肩を小突く。本当は――泣きたいくらい辛いけれど。そんな弱い所を、こいつだけには見せたくなかった。
「……うん、エイクにはオリヴァーが居るから」
「は?」
急にオリヴァーの名前が出て驚いてユンの顔を覗き込むと、一瞬寂しそうな表情をしているように見えた。
ちなみに、βは位置情報を把握されているので、本来居住を許可されている場所以外で長時間滞在している場合、捕捉され最悪反逆罪で極刑となる。
しかし、俺は廃棄物処理場のゴミから低周波の電磁波を発生させる腕時計型小型装置を発明し通信を遮断している。更に位置情報の発信が三十分に一回であるという調査結果をもとに、チップと同様の周波数の発信機を開発し、自宅に居るように偽装している。
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「乾杯!」
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「かぁー! 美味い! なんだこれやべえ!」
「あんまりペース上げて飲んで、具合悪くなっても知らないよ」
と、ユンは空になったコップに酒を注ぐ俺を見て苦笑する。
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そう言ってユンに甘えるように凭れ掛かると、「もう酔ってる? しっかりしてよ」と困ったように笑って俺を真っ直ぐ座るように押し返した。
人工肉を貪りながら、今度は味わって一口だけを口に含む。焼酎のラベルには「純麦」と書かれていた。そりゃ美味いわけだ。
「もうここにもあまり来れなくなるなぁ」
ぽつりとユンが呟く。「あまり」と言ったのは、彼の優しさだろう。
士官となるユンは、城に配属されることになる。つまり、城の極秘情報を知ることになるのだ。外部に漏れることを避けるため、許可が無い限り城外に出ることを制限される。
そして――やがていずれかのΩと番になる。それは、αの中でもエリートでアダムの直系血族であるユンベルトにとって、当然のことだ。βである俺が、一生労働者として生きることを定められているように。
「城の人間に虐められても泣くなよ! もう慰めてくれる友人は居ねえんだからな!」
「その心配は要らないよ。僕泣いたことないから」
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きっとそれだけではなく、俺の知らないところで辛い目に遭っていただろう。しかしユンは涙どころか、「今度は上手くやるから心配しないで」と笑った。
「エイクこそ、僕に会えないからって泣かないでね」
「泣くかよ、ばーか!」
ユンの肩を小突く。本当は――泣きたいくらい辛いけれど。そんな弱い所を、こいつだけには見せたくなかった。
「……うん、エイクにはオリヴァーが居るから」
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