オメガの城

藤間留彦

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第一章 第一の秘密

第五話

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 どこかで一度でも躓けば、養豚場の排泄物処理係だ。いつから呼ばれだしたのか知らないが、「養豚場」とは通称で、勿論この世に豚は居ない。今や伝説上の生き物だが、どうやら罵り言葉として使われていたようで、その言葉だけが使われ続けているというわけだ。

 養豚場は生殖能力が落ち、番関係を解かれたΩなどが行くことになる、いわゆる売春宿のことだ。βがΩとの性行為を許されるのは、ここだけ。それも年間最優秀労働者として認定された者だけが「豚」になることができるわけだ。

 「豚」はΩとの性行為を労働とみなされる。そのため定期的な性行為――特に発情期は一週間続くので体力の有る者でなければならない――以外は豪奢な売春宿で好きなだけ飲み食いし寝ていられるわけだ。見目麗しいΩ――イヴの子孫は特に美しいとされる――と怠惰な生活ができるわけだから、養豚場に行きたがる者は多い。

 我々βの生産に対するモチベーションを保つため、セックスシンボルとしてもΩは活動しているのだ。主に歌や踊りや芝居などをテレビで配信しており、町中の広告はいつも美しいΩが彩っている。

 養豚場にいるΩと同居しているβとのアダルト動画も制作されていて、労働成績が優秀な者に限り、配給時に視聴出来るようになっている。アダルト動画の配給は成績優秀者が養豚場に行きたいと、更なる意欲を見せるようになるのにひと役買っている。
 ちなみに俺はもう三回視聴する権利が与えられたが、見たのは一度だけで、二回は他のやつにビール一ダースと交換してもらった。

 で、話が逸れたが養豚場の排泄物処理係とは、つまり二人のセックスの後始末をする仕事だ。常に清潔な状態を保つための清掃作業は勿論、精子が入ったゴムはβの精子の状態を調べるために全て回収しなければならない。

 一度経験した奴の話を聞いたら、アダルト動画の関係もあるのか結構色々なプレイが行われているらしくて、糞尿塗れのベッドを見た時は死にたくなったと言っていた。
 発情期ヒートのΩとはち合わせて、おこぼれが頂ける可能性もあるのではないかと思ったそうだが、その辺は城の監督官が常駐していて、そういった誤りが起こらないよう徹底されているのだそうだ。

 俺達βは、城の監督下に置かれている。生まれるとすぐに個体識別番号のインプットされたチップを埋め込まれ、養育施設に送られ育てられる。幼児期に適性を分析されてブロックごとに異なる初等教育学校兼養育施設に送られ、共同生活をする。
 その後適性と本人の意向を元に将来の労働と大きく関係する基幹学校に進む。十七歳で卒業した後は、死ぬまで何処かの工場、もしくは麦・大豆農場で労働者だ。

 住居も労働能力ごとに定められ、位置情報すら埋め込まれたチップで城に把握されている。自由など、最早そんな言葉は死語だ。

 それに対してαは、エリート教育を受けられ、大学までは共通で進学、選ばれたごく一部の者は特別技能研修校に一年在籍する。卒業後の進路は軍人か政治家の二択だ。食べ物も住む場所も、βとは比べものにならないほどに豪奢だという。
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