オメガの城

藤間留彦

文字の大きさ
上 下
2 / 45
第一章 第一の秘密

第二話

しおりを挟む
 気持ち悪い。気を抜いたら、手首を逆の方に捻って悶絶している相手を蹴り上げ、地べたに這いつくばらせてから、全ての指を踏みつけてへし折ってしまいそうだ。が、ここで抵抗しては機械を分解することができない。

 総毛立ちながらも、必死に笑顔を作って、
「お願いします」と媚びた。

「じゃあ明日の朝……仕事が終わった後、僕の家で一緒に過ごしてくれるなら考えなくもないけどぉ?」

 分かりやすく鼻の下を伸ばして、口元を緩め、少し興奮気味に息を荒げて言う禿げて太った眼鏡のおっさんを前に、嘔吐しそうなのを堪える。

 流石に家はまずい。おっさん一人相手なら襲われても余裕で撃退できるが、異動をちらつかされたら、かわしきれるか分からない。最初に働いた印刷工場の紙詰まりを取り除く仕事をまた一年させられたらと思うとぞっとする。だからと言って、ここで拒絶したら、二度とお目にかかれないだろう機械を分解、解析することができなくなってしまう。

 逡巡していると、ふと俺は大事なことを思い出した。――明日の朝、なら。

「分かりました。そのお誘いお受けします。ので! 分解してもいいでしょうか?」
「うん、それならいいよ! 必ず戻しておいてね!」

 最後に尻をひと揉みしてから去っていく工場長を笑顔で送り出し、見えなくなってから軽くえずいた。

 しかしこのセクハラに耐えてでも、俺はこの機械を調べたかった。作業着の腕を捲って、ドライバーを手に取ると、ネジを順番に緩め、場所が分からなくならないように、一個ずつ丁寧に分解していく。

 どこの工程で作られた電子回路なのか、部品一つ一つに付された製造番号を確認する。確認が終わればまた元通りの場所に戻す。
 一番深いところの部品の確認が終わると、工具入れにいつも常備している自作の測定器兼発信器を取り付けて元通りに戻した。こうしておけば、城のどの辺りに付けられたのか追跡できるし、用途も測定値からより分かるようになる。

 こんなことをして大丈夫なのかと聞かれれば、勿論発覚すれば城への背任行為、内乱罪で即刻死刑だ。
 何故そんなことをするのかと問われたら、「ただの趣味」としか言いようがないのだが、俺はこの世界の全てを死ぬまでに把握したいという欲求が誰よりも強い。

 その根幹には、俺が十二歳の基幹学校――初等教育を終えたβが進学する職業教育校だ――以前の記憶がないことにあるのだろう。

 自分の名前が「エイク」であること以外、何も覚えていなかった。ある日突然、道端に立っていたのだ。
 どうやってここに来たのか、初等教育を終えるまでどこで生活していたかも思い出せない。

 しかし、生まれた時に全てのβの体内に埋め込まれる個体識別番号から照会したところ、精神に異常が見られることから城直轄の施設で生活していたことが判明した。そのため一度施設に返されたが、記憶を失ったことが要因なのか、入所後の脳波検査で正常値になっていたこともあり、俺は施設から出てこのブロックⅡの住人となった。

 ブロックⅡに来て俺が初めに教えられたのは、この世界の成り立ちだった。直径二キロのドーム型のシェルターがこの世界で人間が住むことができる全てだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

消えない思い

樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。 高校3年生 矢野浩二 α 高校3年生 佐々木裕也 α 高校1年生 赤城要 Ω 赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。 自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。 そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。 でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。 彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。 そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。

アルファの家系

リリーブルー
BL
入学式の朝、初めての発情期を迎えてしまったオメガの美少年。オメガバース。 大洗竹春 アルファ 大学教授 大洗家当主 大洗潤 オメガ 高校生 竹春の甥 主人公 大洗譲 アルファ 大学生 竹春の長男 夏目隼人 オメガ 医師 譲の恋人 大洗竹秋 オメガ 故人 潤の父 竹春の兄 関連作品『潤 閉ざされた楽園』リリーブルー フジョッシーに投稿したものを推敲し二千文字程加筆しました。

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

被虐趣味のオメガはドSなアルファ様にいじめられたい。

かとらり。
BL
 セシリオ・ド・ジューンはこの国で一番尊いとされる公爵家の末っ子だ。  オメガなのもあり、蝶よ花よと育てられ、何不自由なく育ったセシリオには悩みがあった。  それは……重度の被虐趣味だ。  虐げられたい、手ひどく抱かれたい…そう思うのに、自分の身分が高いのといつのまにかついてしまった高潔なイメージのせいで、被虐心を満たすことができない。  だれか、だれか僕を虐げてくれるドSはいないの…?  そう悩んでいたある日、セシリオは学舎の隅で見つけてしまった。  ご主人様と呼ぶべき、最高のドSを…

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

処理中です...